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元スレランカ「解ってる…どうせあたしの歌はヘタだって」
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水場から出たアルト君の、髪を梳く。さらさらのやわらかい手触りを味わっていると、
「ホント、お前はビックリ箱みたいな奴だよな」
と苦笑交じりのアルト君の声がした。
「会ったばかりの頃は、あたしなんかー、って言ってた癖に……臆病なんだか大胆なんだか、いい心臓してるぜ、ったく」
きゅ、と音を立てて、赤いひもでアルト君の髪を結う。
アルト君と出会った時のことなんて、もうずっと遠い昔みたい。
最初はあたし、すごく卑屈だったのに……いつの間にか、誕生日を祝いたい気持ちひとつでこんなところまで来るようになっちゃった。
「あのころに比べて、あたしが少しでも勇気がもてるようになったとしたら、それは……」
フォルモでひとり、マイクを持って立っていた時。
頭上をひらりと飛んで行った紙飛行機。あたしなんか、とうじうじしていた時、おでこにぶつけられた紙飛行機。
「……アルト君の、お陰だよ。アルト君がいたから……いつもあたしを守ってくれて、迷った時には、背中を押してくれて……だから……」
木漏れ日が差し込む。アルト君の瞳に光が映り込んで、すごくキレイ……。
「ホント、お前はビックリ箱みたいな奴だよな」
と苦笑交じりのアルト君の声がした。
「会ったばかりの頃は、あたしなんかー、って言ってた癖に……臆病なんだか大胆なんだか、いい心臓してるぜ、ったく」
きゅ、と音を立てて、赤いひもでアルト君の髪を結う。
アルト君と出会った時のことなんて、もうずっと遠い昔みたい。
最初はあたし、すごく卑屈だったのに……いつの間にか、誕生日を祝いたい気持ちひとつでこんなところまで来るようになっちゃった。
「あのころに比べて、あたしが少しでも勇気がもてるようになったとしたら、それは……」
フォルモでひとり、マイクを持って立っていた時。
頭上をひらりと飛んで行った紙飛行機。あたしなんか、とうじうじしていた時、おでこにぶつけられた紙飛行機。
「……アルト君の、お陰だよ。アルト君がいたから……いつもあたしを守ってくれて、迷った時には、背中を押してくれて……だから……」
木漏れ日が差し込む。アルト君の瞳に光が映り込んで、すごくキレイ……。
がさ、と音がして我に帰った。
アルト君が即座にあたしの腰を抱き寄せて、銃をかまえる。
(ど、どうしよう……わかってる、わかってるけど……ドキドキしちゃうよ……)
草むらからは、何かちいさな虫みたいなものが出てきたかと思うと、興味を失ったかのようにふいっとどこかへ行ってしまった。
アルト君がふう、と息をつく。そして――目が合った。
「「う……うわぁっ!!!」」
どうしてこんなに、密着しても平気だったんだろう……!
あたしたちはお互い顔を真っ赤にしながら、しどろもどろで飛びのいた。
アルト君は気を取り直したかのように咳払いをすると、とっとと戻ってあの船を調べるぞ、と言った。
アルト君が即座にあたしの腰を抱き寄せて、銃をかまえる。
(ど、どうしよう……わかってる、わかってるけど……ドキドキしちゃうよ……)
草むらからは、何かちいさな虫みたいなものが出てきたかと思うと、興味を失ったかのようにふいっとどこかへ行ってしまった。
アルト君がふう、と息をつく。そして――目が合った。
「「う……うわぁっ!!!」」
どうしてこんなに、密着しても平気だったんだろう……!
あたしたちはお互い顔を真っ赤にしながら、しどろもどろで飛びのいた。
アルト君は気を取り直したかのように咳払いをすると、とっとと戻ってあの船を調べるぞ、と言った。
「準備はいいか?」
「うん。………………ひっ」
「安心しろよ、ライブには絶対間に合わせてやるから」
「あ、ありがとう……でもちょっとだけ、待ってもらっても、いい……?」
「?どうした」
「えと、それは…………」
(い、言えない……!アルト君の前で、お手洗いに立ちたいなんて、言えない……ッ!!)
「何がいるかわからないんだ、どうしても、って言うなら俺がついt」
「だめぇえええッ!!!絶対ッ!!!!」
な、なんてとんでもないことを。そんなの無理、ダメ、絶対。
あたしはバカァアア!と叫びながら、草むらの向こうにダッシュして行った。
……アルト君の溜息が、後ろから聞こえた気がした……。
「うん。………………ひっ」
「安心しろよ、ライブには絶対間に合わせてやるから」
「あ、ありがとう……でもちょっとだけ、待ってもらっても、いい……?」
「?どうした」
「えと、それは…………」
(い、言えない……!アルト君の前で、お手洗いに立ちたいなんて、言えない……ッ!!)
「何がいるかわからないんだ、どうしても、って言うなら俺がついt」
「だめぇえええッ!!!絶対ッ!!!!」
な、なんてとんでもないことを。そんなの無理、ダメ、絶対。
あたしはバカァアア!と叫びながら、草むらの向こうにダッシュして行った。
……アルト君の溜息が、後ろから聞こえた気がした……。
『キレイな歌……この歌、あたし大好き!地球の歌なの?』
『違うわ。この歌はね……』
「……ぉ、かあ、さ……」
何か、夢を見た気がする。よろつく腕で身体を支え、起き上がる。
(あたし、どうして……そうだ、お手洗いに行こうと思って、それで……)
何かに、捕まったんだった。辺りを見回す。なにか大きなものが、卵のようなものを産み付けている。
(何なの、ここ……)とにかく、アルト君と連絡を取らないと。
腕の通信装置に何度も呼びかける。するとしばらくして、ノイズまじりの返事があった。
「アルト君……!」
『今どこにいるんだ!』
「えっと……何か広い洞窟みたいなとこで……卵がたくさんあって……」
『ランカ、今から行くぞ!そこを動くなよ!』
「ありがとう、アルト君!」
と、何かのうめき声のようなものが聞こえた。
巨大な昆虫のような生物の頭が、獲物を見るようにこちらを無感情に見つめている。反射的に悲鳴が出た。
(助けて……!)
大きな音をたてて、昆虫が横に揺らぐ。見覚えのない赤い機体が、あたしと昆虫の間に割って入った。
(たすけて……くれるの?)
けたたましい銃声が止まることなく響きつづける。頭が割れそうだ。
あたしはただ頭をかかえて、うずくまることしかできなかった。
「ランカ!!」
アルト君の、声がする……。
立ち上がって、EXギア姿で飛んでくるアルト君へ手を伸ばして、掴もうとした。
でも手が触れ合うより先に、何か膜のようなものがぐっと上がってきて、あたしの周りを包んでしまった。
「ランカ、今助けてやるからな……!」
「アルト君……!」
(たすけて……くれるの?)
けたたましい銃声が止まることなく響きつづける。頭が割れそうだ。
あたしはただ頭をかかえて、うずくまることしかできなかった。
「ランカ!!」
アルト君の、声がする……。
立ち上がって、EXギア姿で飛んでくるアルト君へ手を伸ばして、掴もうとした。
でも手が触れ合うより先に、何か膜のようなものがぐっと上がってきて、あたしの周りを包んでしまった。
「ランカ、今助けてやるからな……!」
「アルト君……!」
銃声は止まらない。大きいのを庇うように辺りを舞う小さい昆虫をかいくぐって、大きな昆虫に銃弾が当たった。
「……っぐ、う……ッ!!」(お腹の……奥の方が、痛い……!)
立っていられない。よろめいて、思わずへたり込む。
アルト君が必死にあたしに呼び掛ける。でも、良く聞こえない。
お腹の奥の方が、熱くて……痛くて、苦しくて……捩じ切れそうだ。
(あたしは――あたしは、ここに、いる――)
途端に、すべてが真白く塗りつぶされた。
何かが爆発したのだろうというのは、耳を駄目にしそうなほどの爆音でようやく解った。
どこか遠くへ、飛んでいく感じ。何かに、守られているような……。
「……っぐ、う……ッ!!」(お腹の……奥の方が、痛い……!)
立っていられない。よろめいて、思わずへたり込む。
アルト君が必死にあたしに呼び掛ける。でも、良く聞こえない。
お腹の奥の方が、熱くて……痛くて、苦しくて……捩じ切れそうだ。
(あたしは――あたしは、ここに、いる――)
途端に、すべてが真白く塗りつぶされた。
何かが爆発したのだろうというのは、耳を駄目にしそうなほどの爆音でようやく解った。
どこか遠くへ、飛んでいく感じ。何かに、守られているような……。
ここはどこだろう……。
さっきからずっと、膜につつまれた中でじっとしている。
どれだけ時間がたったのかも、良く解らない。
(帰りたいよ……みんなのところへ……)
アルト君……お兄ちゃん……。
こんなことになるのなら、お兄ちゃんにいつもワガママ言わなければよかった。
アルト君にも、もっと自分の気持ちを、まだ上手に見つけられていないこの気持ちを、不器用でもいいからちゃんと伝えればよかった。
「……ひっ、」
大きな昆虫のようなものが、触手をこちらに伸ばしてくる。
喉の奥から勝手に悲鳴が漏れた。あたしを包んでいる膜に触手がふれた――と思うと、急に、外の様子が頭に入ってきた。
(フロンティアが見える……)
バジュラの群れ。それと、フロンティア軍の戦闘機たちが、ぶつかりあって、爆発していく。
長く尾を引くミサイルが、バジュラに食らいつく。まばゆい光がいくつもいくつも、放たれては散っていく。
……その度に、誰かが、何かが……死んでいくんだ。
(やめて……もう、やめてよ、こんなの……)
お腹が痛くて、苦しくて……泣き出しそうになった、その時。……音楽が聞こえた。
『伝えたいの……わたしたちは、あなたたちに……』
(この歌……アイモ)
切なくて優しくて、何かを求めるような……そんな音楽。
「アーイモアーイモ ネーィテ ルーシェ……
ノイナ ミーリア エーンテル プローォテアー……フォトミ……」
気付けば、あたしも歌っていた。
伝えたいの、あたしは……。あたしが、ここにいること……あなたが、ここにいることを……。
ねえ聴いてる?どうか、届いている?
血を流すことじゃなくて、争い合うことじゃなくて、憎しみ合うことではなくて……。
ただ、ここにいるよと、それだけを……。
視界の中ではきらきらと、悲しいくらい美しい光が瞬いていた。
人が、バジュラが、死んでいく光。それがいくつも、いくつも……。
怒りと憎しみに満ちた、破壊と殺戮のまばゆい輝きが。
(どうしてかな……悲しくて、たまらないよ……)
ひゅ、と音がした、かと思うと、後ろに赤い機体があらわれていた。
触手を切り裂かれたからか、外の景色はもうわからない。
赤い機体はあたしを、まるい膜ごと抱きかかえた。戦場の音。
アルト君の機体が見える。その機体の矛先が、さっきまで一緒にいた大きなバジュラへと向けられるのがわかった。
「アルト君!!だめぇえええ!!!」
声は届かない。放たれたミサイルは炎を呼び起こし、バジュラを燃やしていく。
お腹が痛い。崩れ落ちそうになる。悲しくてたまらない。いくつもの炎が上がる。
逃げていくバジュラたちを追い詰める兵器たち。
光り輝き、幾重にも瞬く宇宙。
その景色だけを見れば確かにとても美しいのに、それなのにあれは人とバジュラの命の光なんだ。
……どうして、こんな風になってしまうんだろう。
『……何故、泣く』
あたしを助けてくれた赤い機体から、不愛想な声がした。
「わからない……わからないよ…………。どうして……?」
ただ、お腹の奥の方がじんじんと熱くて、……切なくて。涙が止まらなかった。
「あ、あの……検査って、いつになったら、終わるんですか……?」
「もう少しです。」
「少しって……ずっとそればっかりじゃないですか!……戻ってから、誰にも会わせてもらえないし」
「クレームは貴方を隔離、検査することを決定した政府へどうぞ」
「……!」
やーな物言い!思わず、いぃーっ、と子供みたいな顔をすると、真正面から
「ちょっと見ない間に随分美人になったな」
とからかいまじりの声がした。
「アルト君……!」
「もう少しです。」
「少しって……ずっとそればっかりじゃないですか!……戻ってから、誰にも会わせてもらえないし」
「クレームは貴方を隔離、検査することを決定した政府へどうぞ」
「……!」
やーな物言い!思わず、いぃーっ、と子供みたいな顔をすると、真正面から
「ちょっと見ない間に随分美人になったな」
とからかいまじりの声がした。
「アルト君……!」
今の顔を見られてしまった、という恥ずかしさはあれど、ずっと誰にも会えなかったのでやっと知り合いに会えた嬉しさの方が勝ってしまう。
「良かったぁ、無事だったんだね!!」
大きな戦いだった、と聞いている。アルト君も病院という事は、怪我でもしたのかもしれない。
でも今こうやってぴんぴんしている姿を見て嬉しくなって、あたしはアルト君に飛びついた。
「……や、いやいや待てランカ、下!!」
「……?」
あたしはちょうど今検査着を着ているところで……それはとっても薄くてすぐに風にあおられてぴらぴらしてしまう頼りない素材で……そんな服で飛びついたりしたら、その、下の方が当然……見え…………。
「いやぁあああああ!!!」
「良かったぁ、無事だったんだね!!」
大きな戦いだった、と聞いている。アルト君も病院という事は、怪我でもしたのかもしれない。
でも今こうやってぴんぴんしている姿を見て嬉しくなって、あたしはアルト君に飛びついた。
「……や、いやいや待てランカ、下!!」
「……?」
あたしはちょうど今検査着を着ているところで……それはとっても薄くてすぐに風にあおられてぴらぴらしてしまう頼りない素材で……そんな服で飛びついたりしたら、その、下の方が当然……見え…………。
「いやぁあああああ!!!」
検査がひととおり終わった頃、シェリルさんも同じ病院に入院していると聞かされた。
暴動だ何だですっかり忘れていたけれど、そういえばシェリルさんが体調を崩して倒れたところがすべての始まりだったんだっけ。
アルト君とふたり、連れだってお見舞いに行く。
シェリルさんは全銀河の大スターだから、あたしが持ってきたようなちゃちな花束、喜んでもらえるかどうか解らないけれど……それでも手ぶらでいくのはいくら何でもなので、適当な花を見繕ってもらって持ってきた。
アルト君が病室のベルを鳴らす。
暴動だ何だですっかり忘れていたけれど、そういえばシェリルさんが体調を崩して倒れたところがすべての始まりだったんだっけ。
アルト君とふたり、連れだってお見舞いに行く。
シェリルさんは全銀河の大スターだから、あたしが持ってきたようなちゃちな花束、喜んでもらえるかどうか解らないけれど……それでも手ぶらでいくのはいくら何でもなので、適当な花を見繕ってもらって持ってきた。
アルト君が病室のベルを鳴らす。
「俺だシェリル、入るぞ」
『ちょっと待って!』
「どうした、具合まだ悪いのか?」
『……いいわよ、入って?』
短いやりとりの後、ドアが開く。
シェリルさんは病院のベッドにいるというのにまるで変わらぬ華やかさで、病室がどこか高級ホテルの一室に見えるように優雅に、余裕たっぷりと言った風にこちらを見ていた。
「シェリルさん……お加減、いかがですか?」
「ランカちゃん……」
シェリルさんはあたしを見ると、何故か複雑そうな顔をして、ちょっと目を逸らした。
でもそれも一瞬で、何もかも勘違いだったんじゃないかと思うくらいすぐにその表情を消すと、ちょっと外へ出ましょ、と悠然と微笑んだ。
『ちょっと待って!』
「どうした、具合まだ悪いのか?」
『……いいわよ、入って?』
短いやりとりの後、ドアが開く。
シェリルさんは病院のベッドにいるというのにまるで変わらぬ華やかさで、病室がどこか高級ホテルの一室に見えるように優雅に、余裕たっぷりと言った風にこちらを見ていた。
「シェリルさん……お加減、いかがですか?」
「ランカちゃん……」
シェリルさんはあたしを見ると、何故か複雑そうな顔をして、ちょっと目を逸らした。
でもそれも一瞬で、何もかも勘違いだったんじゃないかと思うくらいすぐにその表情を消すと、ちょっと外へ出ましょ、と悠然と微笑んだ。
「いいのかシェリル?ちゃんと寝てなくて」
「いーのいーの。ずっと寝てばっかじゃ息が詰まるわ。……それにしても。無事で良かったわ、ランカちゃん」
「あ、はい、ありがとうございます!アルト君やギャラクシーのパイロットさんに助けてもらって……」
そうして何でもないような会話をしていると……。
『Baby どうしたい 操縦~☆』
「あら、この歌……」
「!!嘘、どうして!?」
「オイ、これってまさか……」
「私たちのデートの時のよね?」
「で、デート!?」
「いーのいーの。ずっと寝てばっかじゃ息が詰まるわ。……それにしても。無事で良かったわ、ランカちゃん」
「あ、はい、ありがとうございます!アルト君やギャラクシーのパイロットさんに助けてもらって……」
そうして何でもないような会話をしていると……。
『Baby どうしたい 操縦~☆』
「あら、この歌……」
「!!嘘、どうして!?」
「オイ、これってまさか……」
「私たちのデートの時のよね?」
「で、デート!?」
思わず反応してしまった。そして思い出す。
あたしなんかじゃ絶対にかなわない、と思った、まるで映画のように美しいキスシーンのことを。
(……でも、あの時のあたしは名もないただの女の子だった。今は違う。
今のあたしは、超時空シンデレラ・ランカ・リーなんだから……!)
「ち、違うからなランカ!!……にしても、良く撮れてるな……」
「でもなんか……超恥ずかしい……」
「ふふ、結構素敵よ?初々しくて、夢見る乙女、って感じで」
(何だか、シェリルさんが余裕に見える……)
「あの、あたし、この頃は全然自信がなくて……でも、助けてくれたんだよね?」
アルト君を覗き込む。びっくりしたような顔をしているシェリルさんとアルト君を見て、あの紙飛行機、と言った。
あたしなんかじゃ絶対にかなわない、と思った、まるで映画のように美しいキスシーンのことを。
(……でも、あの時のあたしは名もないただの女の子だった。今は違う。
今のあたしは、超時空シンデレラ・ランカ・リーなんだから……!)
「ち、違うからなランカ!!……にしても、良く撮れてるな……」
「でもなんか……超恥ずかしい……」
「ふふ、結構素敵よ?初々しくて、夢見る乙女、って感じで」
(何だか、シェリルさんが余裕に見える……)
「あの、あたし、この頃は全然自信がなくて……でも、助けてくれたんだよね?」
アルト君を覗き込む。びっくりしたような顔をしているシェリルさんとアルト君を見て、あの紙飛行機、と言った。
「あれ、アルト君だよね」
「見えてたのか……?」
「やっぱり!いつもいつも、ありがとね!!アルト君!」
「や、あれはただの偶然……」
「なら私にも言わせて?」
ちょっと負けん気の強そうなシェリルさんの表情が、割って入った。
「ライブの時も、この間の戦いの時も……ありがとう、アルト」
「シェリル……」
(むう……なんだかこの二人、いい感じになっちゃってる……)
あたしとシェリルさん両方から見つめられて怖気づいたのか、ちょっと困ったように目線を泳がせると、アルト君は俺も助けられたんだぜ、と言った。
「お前たちの歌にな」
「「歌?」」
「そう。サヨナラライブの戦闘でやられそうになった時、聴こえた気がしたんだ……二人の歌が」
「見えてたのか……?」
「やっぱり!いつもいつも、ありがとね!!アルト君!」
「や、あれはただの偶然……」
「なら私にも言わせて?」
ちょっと負けん気の強そうなシェリルさんの表情が、割って入った。
「ライブの時も、この間の戦いの時も……ありがとう、アルト」
「シェリル……」
(むう……なんだかこの二人、いい感じになっちゃってる……)
あたしとシェリルさん両方から見つめられて怖気づいたのか、ちょっと困ったように目線を泳がせると、アルト君は俺も助けられたんだぜ、と言った。
「お前たちの歌にな」
「「歌?」」
「そう。サヨナラライブの戦闘でやられそうになった時、聴こえた気がしたんだ……二人の歌が」
あたしとシェリルさんははた、と顔を見合わせると、二人して叫んだ。
「「うそ!?」」
「ホントに通じたの?」
「私たちの気持ちが……?」
嬉しくなって、思わずアルト君の手を握る。
「すごいすごい、すごいよアルト君!」
「いやランカ、ただの空耳かもしれないし……」
その時、凛とした歌声が耳に届いた。
「シェリル……さん?」
……すごい。病院の廊下でただ歌ってるだけなのに、まるでスポットライトがあたってるみたいに輝いて見える。
持っていないはずのマイクまで見えそうだ。
シェリルさんは歌いながら、アルト君の顎をそっとつかまえて、胸板をつうっと撫でる。
官能的な仕草にアルト君が赤面している。
(……あたしだって……あたしだって!!)
「「うそ!?」」
「ホントに通じたの?」
「私たちの気持ちが……?」
嬉しくなって、思わずアルト君の手を握る。
「すごいすごい、すごいよアルト君!」
「いやランカ、ただの空耳かもしれないし……」
その時、凛とした歌声が耳に届いた。
「シェリル……さん?」
……すごい。病院の廊下でただ歌ってるだけなのに、まるでスポットライトがあたってるみたいに輝いて見える。
持っていないはずのマイクまで見えそうだ。
シェリルさんは歌いながら、アルト君の顎をそっとつかまえて、胸板をつうっと撫でる。
官能的な仕草にアルト君が赤面している。
(……あたしだって……あたしだって!!)
あたしも負けじと歌いだす。
……あたしにも、シェリルさんみたいに、架空のスポットライトがあたってたらいいな。
両手でトライアングルを作って、アルト君をとらえる。
シェリルさんと二人、背中合わせになって、アルト君へと歌う。
遠くからざわめきが聞こえる。あれってシェリルとランカ・リー?みたいな。
ああ、あたしもシェリルさんと少しは、並ぶことが出来たのかな――
「っげほ、けほっ……!!」
「シェリル!!」
「シェリルさん!!」
「……ごめん、大丈夫だから……心配ないって、ね?」
アルト君は呆れたようにため息をつくと、だから大人しく寝てろって言ったのに、とぼやいた。
具合が悪いはずなのに、逆にこちらを気遣うようなシェリルさんの眼差しを見ていると、何も言えなくなってしまう。
どんな言葉をかけていいか迷っていると、――失礼ですが、と声をかけられた。
「ランカ・リーさんでいらっしゃいますね?」
「え……は、はい」
「大統領府より、貴女をお迎えに参りました」
「……あたしを……?」
そんなエラい人たちが、あたしに何の用なんだろう……。
……あたしにも、シェリルさんみたいに、架空のスポットライトがあたってたらいいな。
両手でトライアングルを作って、アルト君をとらえる。
シェリルさんと二人、背中合わせになって、アルト君へと歌う。
遠くからざわめきが聞こえる。あれってシェリルとランカ・リー?みたいな。
ああ、あたしもシェリルさんと少しは、並ぶことが出来たのかな――
「っげほ、けほっ……!!」
「シェリル!!」
「シェリルさん!!」
「……ごめん、大丈夫だから……心配ないって、ね?」
アルト君は呆れたようにため息をつくと、だから大人しく寝てろって言ったのに、とぼやいた。
具合が悪いはずなのに、逆にこちらを気遣うようなシェリルさんの眼差しを見ていると、何も言えなくなってしまう。
どんな言葉をかけていいか迷っていると、――失礼ですが、と声をかけられた。
「ランカ・リーさんでいらっしゃいますね?」
「え……は、はい」
「大統領府より、貴女をお迎えに参りました」
「……あたしを……?」
そんなエラい人たちが、あたしに何の用なんだろう……。
「は……初めまして!三島……主席補佐官さん……。でも、どうして政府が、あたしのためにプロジェクトチームを……?」
初めて見る三島というエラい人は、心の奥底が良く見えない笑みを浮かべて、それはね、と囁いた。
「君の歌が、バジュラに対する切り札になるかもしれないからさ」
「え……バジュラに?」
「紹介しよう。君のプロジェクトを支えるリーダーだ」
キイ、と扉の開く音がして……ヒールの音も高らかに、何度か見たことのある人影があらわれた。
初めて見る三島というエラい人は、心の奥底が良く見えない笑みを浮かべて、それはね、と囁いた。
「君の歌が、バジュラに対する切り札になるかもしれないからさ」
「え……バジュラに?」
「紹介しよう。君のプロジェクトを支えるリーダーだ」
キイ、と扉の開く音がして……ヒールの音も高らかに、何度か見たことのある人影があらわれた。
「ハァイ、ランカさん」
「グレイスさん!」
(グレイスさんはシェリルさんのマネージャーなのに、どうして……)
「それともう一人。以後、君のボディーガードとして行動を共にする……」
もうひとり、人影があらわれる。群青の服、首からぶら下げたハーモニカ、金色の髪、赤い瞳……。
「ブレラ・スターンだ」
「……えっ!?」
そこに立っていたのは、あたしの歌、アイモを知っていた――不思議な男の人だった。
「グレイスさん!」
(グレイスさんはシェリルさんのマネージャーなのに、どうして……)
「それともう一人。以後、君のボディーガードとして行動を共にする……」
もうひとり、人影があらわれる。群青の服、首からぶら下げたハーモニカ、金色の髪、赤い瞳……。
「ブレラ・スターンだ」
「……えっ!?」
そこに立っていたのは、あたしの歌、アイモを知っていた――不思議な男の人だった。
一応TV版最終回まで書きためてたんだけど、今見返したら1000までは無理そうだった
なので最終回後のアフターストーリーも入れたいと思います
最終回後はゆっくり投下になるかと思います
なので最終回後のアフターストーリーも入れたいと思います
最終回後はゆっくり投下になるかと思います
授業中。……あたしはついつい、後ろの方を見てしまう。
それは他の生徒も同じだったようで(というか、他の子たちはあからさまにきゃあきゃあ騒いでいる)、壁を背にじっとしているブレラさんは、教室の中でイヤと言うほど目立っていた。
先生が困ったように、何とかならんのかねランカ君、と言う。
「す、すみません……できれば外で、ってお願いしたんですけど……」
当のブレラさんはぴくりとも動かない。……こうなったら多分もうダメだ。
きっと強情なんだろうなー、とか呑気なことを考えていたら、ばしん、と机をたたいてアルト君が立ち上がった。
それは他の生徒も同じだったようで(というか、他の子たちはあからさまにきゃあきゃあ騒いでいる)、壁を背にじっとしているブレラさんは、教室の中でイヤと言うほど目立っていた。
先生が困ったように、何とかならんのかねランカ君、と言う。
「す、すみません……できれば外で、ってお願いしたんですけど……」
当のブレラさんはぴくりとも動かない。……こうなったら多分もうダメだ。
きっと強情なんだろうなー、とか呑気なことを考えていたら、ばしん、と机をたたいてアルト君が立ち上がった。
「目障りなんだよお前!政府の依頼だか知らないけど……部外者は出てけ!」
「待ってアルト君……!」
「お前には聞きたいことが山ほど…………うわぁっ!!」
ブレラさんに掴みかかった、と思った瞬間、アルト君はキレイに放り投げられた上にマウントを取られ、がっちり固められてしまっていた。
「やめてよブレラさん!」
「……自分は任務遂行を邪魔する人間を、実力で排除する権限を与えられている」
「そういうことじゃなくて!」
色めき立つクラスメイト達。ブレラさんもアルト君に負けず劣らずの美形だからだろうか、女子たちがきゃあきゃあ盛り上がっている。
(……あー、もう……)
「待ってアルト君……!」
「お前には聞きたいことが山ほど…………うわぁっ!!」
ブレラさんに掴みかかった、と思った瞬間、アルト君はキレイに放り投げられた上にマウントを取られ、がっちり固められてしまっていた。
「やめてよブレラさん!」
「……自分は任務遂行を邪魔する人間を、実力で排除する権限を与えられている」
「そういうことじゃなくて!」
色めき立つクラスメイト達。ブレラさんもアルト君に負けず劣らずの美形だからだろうか、女子たちがきゃあきゃあ盛り上がっている。
(……あー、もう……)
学校を早々に切り上げて、仕事への移動中。
ふかふかした座り心地がちっとも慣れそうにない車に乗りながら、運転するグレイスさんに話しかける。
「あの……あたしやっぱり、ボディーガードなんて……」
「邪魔でしょうけど我慢して?クライアントの意向なの」
「じゃ、邪魔って……わけじゃ……」
本人が隣に座ってるのに、邪魔です、なんて言えるわけない。
ますますちぢこまっていると、グレイスさんはひどく楽しそうに、歌うように言った。
「ランカ・リーを人々の希望の光に!比喩的な意味でも、実際的な意味でも、ね」
「……そんな大それたこと……あたしやっぱり、今まで通り、エルモさんたちと……」
「ごめんなさい、書類は見せたでしょう?貴女のマネージメントはあの会社から、私が引き継ぐことになったのよ。……政府の依頼でね」
「っでも、グレイスさんもシェリルさんのお仕事とか、あるし……!」
「ふふ。シェリルはまだ入院してるわ?戻ってきたところで、二人まとめて面倒見るくらいへっちゃらよ」
ふかふかした座り心地がちっとも慣れそうにない車に乗りながら、運転するグレイスさんに話しかける。
「あの……あたしやっぱり、ボディーガードなんて……」
「邪魔でしょうけど我慢して?クライアントの意向なの」
「じゃ、邪魔って……わけじゃ……」
本人が隣に座ってるのに、邪魔です、なんて言えるわけない。
ますますちぢこまっていると、グレイスさんはひどく楽しそうに、歌うように言った。
「ランカ・リーを人々の希望の光に!比喩的な意味でも、実際的な意味でも、ね」
「……そんな大それたこと……あたしやっぱり、今まで通り、エルモさんたちと……」
「ごめんなさい、書類は見せたでしょう?貴女のマネージメントはあの会社から、私が引き継ぐことになったのよ。……政府の依頼でね」
「っでも、グレイスさんもシェリルさんのお仕事とか、あるし……!」
「ふふ。シェリルはまだ入院してるわ?戻ってきたところで、二人まとめて面倒見るくらいへっちゃらよ」
ここまで言われると、……なにも言い返せない。
俯いてしまったあたしに、グレイスさんははい、と一枚のディスクを手渡した。
聴いておいてねと言われて、オオサンショウウオさんにディスクを入れる。
「セカンドシングルは、これで行きましょう」
(セカンドシングルって……あたしのファーストは、ねこ日記なんだけどな……)
手渡しでプロデュースするしかなかった日々。
今みたいにあらゆるメディアがあたしを取り上げてくれることはなくって、地味で地道な活動しかなかった頃。
……あの頃は、早く売れたい、って思ってたけど……今になるとちょっと懐かしいな。
まあ、街頭手渡しオンリーだったねこ日記より、全国のCDショップに並んだ星間飛行の方を世間はファーストシングルと言うのかもしれない。
(……それに正直、水着で手渡しよりも、暴動を鎮めた希望の歌、の方がファーストシングルとしてはカッコイイもんね)
俯いてしまったあたしに、グレイスさんははい、と一枚のディスクを手渡した。
聴いておいてねと言われて、オオサンショウウオさんにディスクを入れる。
「セカンドシングルは、これで行きましょう」
(セカンドシングルって……あたしのファーストは、ねこ日記なんだけどな……)
手渡しでプロデュースするしかなかった日々。
今みたいにあらゆるメディアがあたしを取り上げてくれることはなくって、地味で地道な活動しかなかった頃。
……あの頃は、早く売れたい、って思ってたけど……今になるとちょっと懐かしいな。
まあ、街頭手渡しオンリーだったねこ日記より、全国のCDショップに並んだ星間飛行の方を世間はファーストシングルと言うのかもしれない。
(……それに正直、水着で手渡しよりも、暴動を鎮めた希望の歌、の方がファーストシングルとしてはカッコイイもんね)
そんな事を考えながら再生すると、……どこか聞き覚えのあるメロディの、やけに勇ましいアレンジが聴こえてきた。
「これ……」
「貴女のあの曲、映画のテーマ曲になった奴ね。アレンジと歌詞をちょっとだけいじってみたの。……あら、気に入らないかしら?」
(アイモ……たった一つの、あたしの……曲を……)
大切な思い出の曲。それをアレンジされて、なぜだかあたしはモヤモヤした気持ちになった。
なんでだろう、あたしだって、街頭でシェリルさんの歌を歌った時は、早さや歌詞をちょっといじって歌いやすいようにしたりしてたし……カバー曲だって、今は良くある話なのに……どうして、こんな気持ちになるのかな……。
「唯一覚えていたものなのね。小さい頃の記憶がないのに」
「はい……」
「だから、映画のテーマなのにシングルカットされなかった。……でもね?だからこそ世に出したい、出すべきよ。それが貴女の唯一の思い出なら、なおさら」
「これ……」
「貴女のあの曲、映画のテーマ曲になった奴ね。アレンジと歌詞をちょっとだけいじってみたの。……あら、気に入らないかしら?」
(アイモ……たった一つの、あたしの……曲を……)
大切な思い出の曲。それをアレンジされて、なぜだかあたしはモヤモヤした気持ちになった。
なんでだろう、あたしだって、街頭でシェリルさんの歌を歌った時は、早さや歌詞をちょっといじって歌いやすいようにしたりしてたし……カバー曲だって、今は良くある話なのに……どうして、こんな気持ちになるのかな……。
「唯一覚えていたものなのね。小さい頃の記憶がないのに」
「はい……」
「だから、映画のテーマなのにシングルカットされなかった。……でもね?だからこそ世に出したい、出すべきよ。それが貴女の唯一の思い出なら、なおさら」
次から次へと舞い込んでくるお仕事。
慰安訪問、チャリティライブ、その他諸々。
相変わらずあたしの歌はヘタクソだし、数曲歌うと喉がダメになるからいつもバックで音楽を流して口パクだったんだけど、それなのに、あたしはどんどん持ち上げられていった。
……超時空シンデレラ。
あたしに不釣り合いなほど大行な二つ名だ。
ライブでみっともない真似をしなくてすんでいるのは、ひとえに修正済みのボーカル音源を流しているからに過ぎない。
本当のあたしは、音程だって安定しないし、高音はスカスカだし、歌詞はすぐに飛ぶし、踊りの振りだって間違えるのに、……多勢のスタッフたちが総動員で、『超時空シンデレラ』を作り上げている。
(これが本当に……あたしのしたかったことなのかな……)
そんな事を思う隙間さえないくらい詰め込まれていく仕事。
あたしが顔を出せばそれだけで人々は歓声を上げ、歌を流して踊って見せれば幾つものフラッシュが瞬いた。
疑問に思わない訳じゃなかったけれど、ステージで持て囃される快感は、何ものにも抗いがたいものだった。
「上出来よ、ランカさん。今夜のニュースでも大きく取り上げられるでしょうね」
「……でも…、」
「でも、が多いわね。やっぱり信じられない?」
ちいさく頷く。何だか、地に足がついていないようなフワフワした感じがずっと続いている。
多勢の人があたしを知ってくれた。それはとても嬉しいことだし、物凄く喜ばしいことだ。
スポットライトを浴びて、沢山の人に褒められて。……すごく、気分がいい。
でも何だろう、……現実味が、ない。
「なら試してみましょう?貴女が本当に、人々の希望の歌姫たり得るのか」
「え……?」
「その歌を使って、ね」
「……でも…、」
「でも、が多いわね。やっぱり信じられない?」
ちいさく頷く。何だか、地に足がついていないようなフワフワした感じがずっと続いている。
多勢の人があたしを知ってくれた。それはとても嬉しいことだし、物凄く喜ばしいことだ。
スポットライトを浴びて、沢山の人に褒められて。……すごく、気分がいい。
でも何だろう、……現実味が、ない。
「なら試してみましょう?貴女が本当に、人々の希望の歌姫たり得るのか」
「え……?」
「その歌を使って、ね」
「アーイモ アーイモ ネーィテ ルーシェ……
打ち鳴らせ いーま 勝利の 鐘を……」
セカンドシングルの収録中。
自分でも、うまくいかないのは解っていた。
発声が不安気でワンテンポ遅れるし、ロングトーンがぶれるし、そもそも音が外れてる。
どうしてかな。アルト君とふたりきりでグリフィスパークの丘でアイモを歌った時、あの時はなにも恐くなんかないって思った。
あたしがここにいることを、みんなに知らせたいって。
気持ちのいい風が吹いて、あたしの声が風にふかれて、どこかへ届いていくのがわかった。なのに……。
音響さんや他のスタッフさんたちに匙を投げられて、もう夜遅く。
あたしは屋上に上がって、溜息をついた。
……全然うまくいかない。あたしの、たった一つの思い出の歌……アイモを歌う時は、いつだって、何かと繋がってる気持ちになれた。
なのに今は、なんだかひとりぼっちみたいだ……。
ふと、目の前にコーヒーのコップが差し出された。
「あ、ありがとう……ブレラさん……」
あんまりにも気配なく無言でいつも傍にいるものだから、いつの間にかあたしは時々、このひとの存在を忘れてしまう。
一口飲んで、…………むせそうになった。(これ、お砂糖入ってないよ!!)
「……何故ためらう」
「え?」
「いつものお前の歌は、もっと……」
「……いつもの?」
途端に、ブレラさんの顔に色が浮かんだ。
いつも無表情で感情なんかどこにもないみたいな人だと思ってたのに、何だかちょっと焦ったような色が見て取れる。
「いつも、聴いてくれてたの?」
「ああ……お前の歌は、宇宙を感じさせる」
ブレラさんは、どこか遠くを見るような目をして、静かにそう言った。
「宇宙と言っても、突き放すようなのじゃなく……包み込むような。
銀河の渦が、そのまま形になっ…………すまない、あまり上手い例えが見つからないんだ」
「ううん……ありがとう……」
なんでだろう。ここ最近ずっとあたしは超時空シンデレラとして持て囃されて、褒められて煽てられて時には崇められたりまでしたのに……、今のブレラさんの不器用な感想が、何よりも……。
「え?」
「いつものお前の歌は、もっと……」
「……いつもの?」
途端に、ブレラさんの顔に色が浮かんだ。
いつも無表情で感情なんかどこにもないみたいな人だと思ってたのに、何だかちょっと焦ったような色が見て取れる。
「いつも、聴いてくれてたの?」
「ああ……お前の歌は、宇宙を感じさせる」
ブレラさんは、どこか遠くを見るような目をして、静かにそう言った。
「宇宙と言っても、突き放すようなのじゃなく……包み込むような。
銀河の渦が、そのまま形になっ…………すまない、あまり上手い例えが見つからないんだ」
「ううん……ありがとう……」
なんでだろう。ここ最近ずっとあたしは超時空シンデレラとして持て囃されて、褒められて煽てられて時には崇められたりまでしたのに……、今のブレラさんの不器用な感想が、何よりも……。
「うれしい……」
自然と笑顔になる。
恥ずかしくてブレラさんの顔から下へ目線を落とすと、夜の中きらりと星を反射して光るハーモニカが目に留まった。
「あの……ブレラさんですよね、あの時、グリフィスパークの丘で会ったの」
「ああ」
「ずっと、聞きたかったんです……どうして、あの歌を?」
「それは…………極秘事項だ」
ふっ、と表情から色が消えた、と思うと、ブレラさんはそのままくるりと踵を返して屋内へと入っていってしまった。
(…………どうして、なのかな……)
がさごそ、と音をたててカバンからアイ君(あの緑の子にはそう名前を付けたのだ)がひょこんと顔を出す。
だめだよ、見つかったら怒られちゃうよ、と慌ててアイ君の顔をカバンの中へと戻す。
「ねえアイ君、ほんとにあたしに出来ると思う……?あたしの歌、そんな力、あるのかな……」
アイ君はただあたしを見つめて、慰めるようにちいさく鳴いた。
自然と笑顔になる。
恥ずかしくてブレラさんの顔から下へ目線を落とすと、夜の中きらりと星を反射して光るハーモニカが目に留まった。
「あの……ブレラさんですよね、あの時、グリフィスパークの丘で会ったの」
「ああ」
「ずっと、聞きたかったんです……どうして、あの歌を?」
「それは…………極秘事項だ」
ふっ、と表情から色が消えた、と思うと、ブレラさんはそのままくるりと踵を返して屋内へと入っていってしまった。
(…………どうして、なのかな……)
がさごそ、と音をたててカバンからアイ君(あの緑の子にはそう名前を付けたのだ)がひょこんと顔を出す。
だめだよ、見つかったら怒られちゃうよ、と慌ててアイ君の顔をカバンの中へと戻す。
「ねえアイ君、ほんとにあたしに出来ると思う……?あたしの歌、そんな力、あるのかな……」
アイ君はただあたしを見つめて、慰めるようにちいさく鳴いた。
これは実験なのだ、とエラい人は言った。
ミンメイ・アタックの如く、あたしの歌声を使って、バジュラを制圧することが出来るのではないか、と。
小難しくも長いお話をまとめると、そういう事らしかった。
リン・ミンメイの伝説はあたしも知っている。
文化を知らないゼントラーディたちに、歌で愛と文化を伝え、戦争を止めた歌姫だ、と。
半ば神格化されたその姿とあたしとじゃ、あんまりにも相違点が多すぎて、……ホントにそんなことできるのか疑いたくなる。
ミンメイ・アタックの如く、あたしの歌声を使って、バジュラを制圧することが出来るのではないか、と。
小難しくも長いお話をまとめると、そういう事らしかった。
リン・ミンメイの伝説はあたしも知っている。
文化を知らないゼントラーディたちに、歌で愛と文化を伝え、戦争を止めた歌姫だ、と。
半ば神格化されたその姿とあたしとじゃ、あんまりにも相違点が多すぎて、……ホントにそんなことできるのか疑いたくなる。
お兄ちゃんが、メットを丁寧にかぶせてくれた。……これから、戦場に出るんだ……。
「……頼むぞ、カナリア」
「穏やかに飛ぶ。……可能な限りな。でも気分が悪くなったらすぐに言うこと」
「はい、お願いします」
傍らに立っていたお兄ちゃんが、メットごとあたしを抱きしめる。
「……これがお前の望みなのか……?」
目を逸らすことを許さない、真剣な顔。
……本当は、良く解らない。
あたしに何が出来るのか、何をしたらいいのか。
いきなりあたしの歌で戦争が、って言われても、……実感わかない。
でも、世間は超時空シンデレラの活躍を待っている。
……きっと、こうするのが一番いいんだ。
あたしは、黙って頷いた。
お兄ちゃんはそれ以上、何も言わなかった。
「……頼むぞ、カナリア」
「穏やかに飛ぶ。……可能な限りな。でも気分が悪くなったらすぐに言うこと」
「はい、お願いします」
傍らに立っていたお兄ちゃんが、メットごとあたしを抱きしめる。
「……これがお前の望みなのか……?」
目を逸らすことを許さない、真剣な顔。
……本当は、良く解らない。
あたしに何が出来るのか、何をしたらいいのか。
いきなりあたしの歌で戦争が、って言われても、……実感わかない。
でも、世間は超時空シンデレラの活躍を待っている。
……きっと、こうするのが一番いいんだ。
あたしは、黙って頷いた。
お兄ちゃんはそれ以上、何も言わなかった。
イントロが始まる。
目の前で、お兄ちゃんやアルト君の機体が宙を舞う。
飛び交うミサイルに、破裂する光たち。お互い譲ことなく、弾を撃ち続ける。
(これが……戦い、)
『ランカさん、初めてちょうだい』
「……はい」
「アーイモ アーイモ ネーィテ ルーシェ……
打ち鳴らせ いーま 勝利の 鐘を……」
目の前で、お兄ちゃんやアルト君の機体が宙を舞う。
飛び交うミサイルに、破裂する光たち。お互い譲ことなく、弾を撃ち続ける。
(これが……戦い、)
『ランカさん、初めてちょうだい』
「……はい」
「アーイモ アーイモ ネーィテ ルーシェ……
打ち鳴らせ いーま 勝利の 鐘を……」
あたしのたったひとつの、大切な……思い出の歌。
戦場に鳴り響く、あたしの歌。無線の向こう側で、多くの人が息を飲む気配を感じる。
効いている、と無線が叫ぶと、攻撃はより一層苛烈になった。
まぶしくて目を開けていられない。爆風にあおられて、機体が揺れる。
(……やだ、)
目の前に広がるのは無数の着弾。ひとつひとつが、命のはずの光。戦場の……風景。
「歯を食いしばれ!!」
「きゃっ……!」
カナリアさんが叫ぶと、機体は急速に方向転換した。
思わず悲鳴を上げる。爆発の光で前が真っ白だ。
目の前に、ブレラさんの機体があるのが、ほのかに見える赤色でようやく解った。
『前にも言ったはずだ……アルト、お前はあの子にふさわしくない。ランカは、俺が守る』
「ブレラさん……」
そして辺りが再び、生き物が死んでいく光たちに満たされた。
戦場に鳴り響く、あたしの歌。無線の向こう側で、多くの人が息を飲む気配を感じる。
効いている、と無線が叫ぶと、攻撃はより一層苛烈になった。
まぶしくて目を開けていられない。爆風にあおられて、機体が揺れる。
(……やだ、)
目の前に広がるのは無数の着弾。ひとつひとつが、命のはずの光。戦場の……風景。
「歯を食いしばれ!!」
「きゃっ……!」
カナリアさんが叫ぶと、機体は急速に方向転換した。
思わず悲鳴を上げる。爆発の光で前が真っ白だ。
目の前に、ブレラさんの機体があるのが、ほのかに見える赤色でようやく解った。
『前にも言ったはずだ……アルト、お前はあの子にふさわしくない。ランカは、俺が守る』
「ブレラさん……」
そして辺りが再び、生き物が死んでいく光たちに満たされた。
『凄かったわァランカちゃん!!』
一つ息を吐いて、メットを脱ぐ。ボビーさんをはじめ、無線の向こう側からは口々に賞賛する声が聞こえていた。
『伝説のミンメイみたいでしたよ!』
『古すぎよォ、それを言うならバサラ様でしょ?……ランカちゃん、胸を張って。今やアナタは、アタシたちの希望の歌姫!』
「そ……そんな……」
『超時空シンデレラ。魅惑のディーヴァ、ランカちゃんなのよ!』
「え、えへへ……言いすぎですってば」
照れくさくて、少し笑う。
褒められるのにも慣れてきたと思ったけど、やっぱり少し恥ずかしい。
(あたし……あたしが、人類の希望になるんだ……)
もう光のない宇宙を見つめる。あそこで死んでいったものは、二度と帰らない。
(お兄ちゃん……アルト君……あたし、これで良かったんだよね……?)
返事はなかった。あたしは、長い長い溜息をつくと、ゆっくりと目を閉じた。
一つ息を吐いて、メットを脱ぐ。ボビーさんをはじめ、無線の向こう側からは口々に賞賛する声が聞こえていた。
『伝説のミンメイみたいでしたよ!』
『古すぎよォ、それを言うならバサラ様でしょ?……ランカちゃん、胸を張って。今やアナタは、アタシたちの希望の歌姫!』
「そ……そんな……」
『超時空シンデレラ。魅惑のディーヴァ、ランカちゃんなのよ!』
「え、えへへ……言いすぎですってば」
照れくさくて、少し笑う。
褒められるのにも慣れてきたと思ったけど、やっぱり少し恥ずかしい。
(あたし……あたしが、人類の希望になるんだ……)
もう光のない宇宙を見つめる。あそこで死んでいったものは、二度と帰らない。
(お兄ちゃん……アルト君……あたし、これで良かったんだよね……?)
返事はなかった。あたしは、長い長い溜息をつくと、ゆっくりと目を閉じた。
ボディーガードさんがいっぱいいるあたしの家に、知られずに入ろうとするのは大変だ。
必死に壁伝いに窓から入ってきたアルト君は、なんで間男みたいな真似を、とぼやいていた。
「ゴメンね、ボディーガードさんがいつも詰めてるから……」
「ブレラの野郎か?」
「ブレラさんは何か、お仕事みたい。お兄ちゃんも出かけてるから、今は誰もいないよ……って」
その言葉に思わず頬を赤らめてしまう。
(夜中に、女の子の自室で、二人きりって……!)
「べっ、別にヘンな……あれじゃないよ、あたしは信じてるからね、アルト君!」
「ばっ……当たり前だろ!」
「そっ、そうだよね!えっとあの……お茶!お茶いれるから!!待ってて!」
アルト君はコーヒーだったはずだ。
慌ててキッチンに抜けようとして、……ドアから顔だけ出してアルト君に忠告した。
「女の子の部屋なんだから、あんまりジロジロ見ちゃダメだからね?」
「……はぁ?」
心底呆れたような、訳が分からんというような顔をされた。……ちょっと、ショックだ。
必死に壁伝いに窓から入ってきたアルト君は、なんで間男みたいな真似を、とぼやいていた。
「ゴメンね、ボディーガードさんがいつも詰めてるから……」
「ブレラの野郎か?」
「ブレラさんは何か、お仕事みたい。お兄ちゃんも出かけてるから、今は誰もいないよ……って」
その言葉に思わず頬を赤らめてしまう。
(夜中に、女の子の自室で、二人きりって……!)
「べっ、別にヘンな……あれじゃないよ、あたしは信じてるからね、アルト君!」
「ばっ……当たり前だろ!」
「そっ、そうだよね!えっとあの……お茶!お茶いれるから!!待ってて!」
アルト君はコーヒーだったはずだ。
慌ててキッチンに抜けようとして、……ドアから顔だけ出してアルト君に忠告した。
「女の子の部屋なんだから、あんまりジロジロ見ちゃダメだからね?」
「……はぁ?」
心底呆れたような、訳が分からんというような顔をされた。……ちょっと、ショックだ。
のんびりコーヒーをいれていると、どわあ、みたいなヘンな声と、どしゃん、とアルト君がすっ転ぶ音がした。
慌ててコーヒーを持って部屋に戻ると、アルト君は額にアイ君を乗せたまま床に転がっていた。
……多分、不意打ちをつかれて視界をふさがれたんだろう……。
「なんなんだよそいつは!」
「アイ君、って言うの。どこかの星から連れてこられたと思うんだけど……」
「知らねーぞ、バレて怒られても……。で、相談ってのは?」
こんな壁登りまでさせて、下らないことじゃないだろうな、とアルト君は多分半ば本気で笑う。
「……どう思う?」
それだけで通じたらしい。
「例の実験のことか?」
「うん……」
「隊の皆は喜んでるよ。これで戦いが楽になる、って」
「……隊の皆じゃなくって、…………アルト君は?」
「…………。」
慌ててコーヒーを持って部屋に戻ると、アルト君は額にアイ君を乗せたまま床に転がっていた。
……多分、不意打ちをつかれて視界をふさがれたんだろう……。
「なんなんだよそいつは!」
「アイ君、って言うの。どこかの星から連れてこられたと思うんだけど……」
「知らねーぞ、バレて怒られても……。で、相談ってのは?」
こんな壁登りまでさせて、下らないことじゃないだろうな、とアルト君は多分半ば本気で笑う。
「……どう思う?」
それだけで通じたらしい。
「例の実験のことか?」
「うん……」
「隊の皆は喜んでるよ。これで戦いが楽になる、って」
「……隊の皆じゃなくって、…………アルト君は?」
「…………。」
アルト君は、なんだか良く解らない難しい話をした。
二種類の上昇志向を持つ生き物がいる時、それらは競争や争いをする。
今もそんな感じで、あたしたち人類はそういった瀬戸際に立たされてるんだ、……って。
「生き残るのは連中か俺達か……そういう、瀬戸際だ」
言いながら、手元で折っていた紙飛行機をぽい、と投げた。
アイ君が口でキャッチする。
「……いいんだよね?」
「少なくとも俺は、……そう思うよ」
二種類の上昇志向を持つ生き物がいる時、それらは競争や争いをする。
今もそんな感じで、あたしたち人類はそういった瀬戸際に立たされてるんだ、……って。
「生き残るのは連中か俺達か……そういう、瀬戸際だ」
言いながら、手元で折っていた紙飛行機をぽい、と投げた。
アイ君が口でキャッチする。
「……いいんだよね?」
「少なくとも俺は、……そう思うよ」
その時感じた感情を、どうあらわしたらいいのか解らない。
ただどうしようもなく胸が熱くて、泣きたいくらい嬉しくて、今ならどんな難題だって解決できる、ってくらいに力に満ち溢れてて……あたしはよおーし、と言いながらベッドに飛び乗った。
「あたしの歌でちょっとでもみんなが助かるなら、それが一番だもんね!」
……本当は、ちょっとだけ嘘だった。
みんなが、じゃなくて。アルト君が、助かるのなら。
あたしは幾らだって歌うことが出来る、と思った。
他の誰でもないあなたが、歌ってくれと言うのなら。
あたしはどんな希望にだってなってみせる、と。
「あたし、歌うね!明日のライブも頑張る!」
「ああ……今度こそ、ちゃんと見に行ってやるよ」
「うん!絶対だよ!」
ベッドの端っこではアイ君が、アルト君の折った紙飛行機を引き裂いていた。
ただどうしようもなく胸が熱くて、泣きたいくらい嬉しくて、今ならどんな難題だって解決できる、ってくらいに力に満ち溢れてて……あたしはよおーし、と言いながらベッドに飛び乗った。
「あたしの歌でちょっとでもみんなが助かるなら、それが一番だもんね!」
……本当は、ちょっとだけ嘘だった。
みんなが、じゃなくて。アルト君が、助かるのなら。
あたしは幾らだって歌うことが出来る、と思った。
他の誰でもないあなたが、歌ってくれと言うのなら。
あたしはどんな希望にだってなってみせる、と。
「あたし、歌うね!明日のライブも頑張る!」
「ああ……今度こそ、ちゃんと見に行ってやるよ」
「うん!絶対だよ!」
ベッドの端っこではアイ君が、アルト君の折った紙飛行機を引き裂いていた。
アルト君にハッピーバースディを言いに行ったせいで出来なかった、あたしのファーストライブ。
がらんとした天空門のステージに立ちながら、あたしはじわじわと実感を噛みしめていた。
……本当に、ここまで来たんだ。シェリルさんと同じ、ステージに……!
見ててね、アルト君、お兄ちゃん……!
がらんとした天空門のステージに立ちながら、あたしはじわじわと実感を噛みしめていた。
……本当に、ここまで来たんだ。シェリルさんと同じ、ステージに……!
見ててね、アルト君、お兄ちゃん……!
ステージがはじまる。
まばゆい光、めくるめくエフェクトの数々。
バックで流れてくる音楽に合わせて、あたしは歌を口ずさみ、踊っていた。
マイクの電源は入っていない。
あたしの歌じゃ、満足なライブなんて夢のまた夢、というのをスタッフの人達は解っているからだ。
超時空シンデレラ、ランカ・リーを作り出すための舞台装置として、あたしは加工された自分の声に乗って、歌うふりをしながら踊る。
ステージからは無数のサイリウムが見える。あの光の中に、アルト君やお兄ちゃんもいるのだろうか……。
(ねえ、アルト君。あたし、夢をかなえたよ。……みんなの希望の歌姫に、なるんだよ……!)
「バカバカバカ!!!ほんっっとに心配したんだからね、お兄ちゃん……!!」
重症だと言うのにお兄ちゃんがあたしのライブをのこのこ見に来てぶっ倒れて入院した、と言う知らせを受けたのはライブが終わったすぐ後だった。
卒倒しそうになるあたしをスタッフの人がさんざん面倒見てくれて、面会に来れたのは随分後だった。
お兄ちゃんは、上手い具合に重要な臓器などを避けた傷だったからよかったものの、あのまま失血し続けたらやばかったらしい。
(どうして、もう……あたしのライブなんかより、ずっと、命の方が……!)
「言ったろ、俺は死なないって。……パインケーキ、食うか?キャシーが持ってきてくれたんだ」
泣きながら横を見ると、きれいに焼き上がったパインケーキ。
……昔の事を、思い出した。
なにも思い出せなくて、なにもわからないあたしに、お兄ちゃんが作ってくれたパインケーキ。
ものすごくまずかったけど、でも、どこか温かかった……。
「……いい。お兄ちゃんのが、いいよ……」
「っははは!やっぱりまだまだ子供だな、お前は」
「退院したら作ってね、約束だよ!」
この約束が果たされたら、また次の約束を作ろう。
そうやって約束を重ねていけば、きっと誰も傷付くことなく生き延びられるんじゃないかって……あたしはそう、思っていた。
重症だと言うのにお兄ちゃんがあたしのライブをのこのこ見に来てぶっ倒れて入院した、と言う知らせを受けたのはライブが終わったすぐ後だった。
卒倒しそうになるあたしをスタッフの人がさんざん面倒見てくれて、面会に来れたのは随分後だった。
お兄ちゃんは、上手い具合に重要な臓器などを避けた傷だったからよかったものの、あのまま失血し続けたらやばかったらしい。
(どうして、もう……あたしのライブなんかより、ずっと、命の方が……!)
「言ったろ、俺は死なないって。……パインケーキ、食うか?キャシーが持ってきてくれたんだ」
泣きながら横を見ると、きれいに焼き上がったパインケーキ。
……昔の事を、思い出した。
なにも思い出せなくて、なにもわからないあたしに、お兄ちゃんが作ってくれたパインケーキ。
ものすごくまずかったけど、でも、どこか温かかった……。
「……いい。お兄ちゃんのが、いいよ……」
「っははは!やっぱりまだまだ子供だな、お前は」
「退院したら作ってね、約束だよ!」
この約束が果たされたら、また次の約束を作ろう。
そうやって約束を重ねていけば、きっと誰も傷付くことなく生き延びられるんじゃないかって……あたしはそう、思っていた。
街中でセールやバーゲンが行われている。
超長距離フォールド計画を前倒しで行うことになった、のだそうだ。
エネルギーが足りないからまだ出来ない、ということだったのに、無理矢理前倒しにしたものだから今後は食料や水も配給制になり、商業活動が行えなくなる、……とか。
正直難しいことは良く解らない。
ただ、どこか遠く……すごく遠くへフォールドして、バジュラから逃げるんだろうということは、なんとなくあたしにもわかった。
気がつけばあたしの名前は希望の歌姫として独り歩きしていて、街を歩くとそこらじゅうであたしの顔を見かける。
ちょっと前まではシェリル一色だった街が、あたしの色に染まっていく。
……まるで最初から、シェリル・ノームなんていなかったみたいに。
超長距離フォールド計画についての大統領会見。
大統領さんが演説を終えた後、司会者が高く手を上げた。……出番だ。
「じゃあランカさん、出番お願いします!」
「はい!」
「それでは紹介しましょう……我々人類の希望の歌姫、現代のリン・ミンメイ、ミス・ランカ・リー!」
フラッシュの瞬く中頭を下げる。
誰もがあたしのことを見ている。あたしのことを、望んでる。みんなあたしを知ってる。
もう、あたしは誰に知られることもなく死んでいくなんて心配をしなくてもいい。
誰もがあたしの歌を覚えてる。……不思議な昂揚感だった。
マイクを前に、スタッフから覚えさせられた通りの台詞を語ってゆく。
「あたしは今まで、ただ歌が好きで……それをみんなに伝えたい、その想いだけで歌ってきました……。
そんなあたしの歌が、皆さんを守る力になるのなら……」
誰もに求められている。
必要とされている……。
……これで、いいんだよね?
大統領さんが演説を終えた後、司会者が高く手を上げた。……出番だ。
「じゃあランカさん、出番お願いします!」
「はい!」
「それでは紹介しましょう……我々人類の希望の歌姫、現代のリン・ミンメイ、ミス・ランカ・リー!」
フラッシュの瞬く中頭を下げる。
誰もがあたしのことを見ている。あたしのことを、望んでる。みんなあたしを知ってる。
もう、あたしは誰に知られることもなく死んでいくなんて心配をしなくてもいい。
誰もがあたしの歌を覚えてる。……不思議な昂揚感だった。
マイクを前に、スタッフから覚えさせられた通りの台詞を語ってゆく。
「あたしは今まで、ただ歌が好きで……それをみんなに伝えたい、その想いだけで歌ってきました……。
そんなあたしの歌が、皆さんを守る力になるのなら……」
誰もに求められている。
必要とされている……。
……これで、いいんだよね?
台詞が飛びそうになりながらも話していると、途中でにわかに辺りが騒がしくなった。
ボディーガードさんたちが慌てた素振りで近づいてきた。
会見は中止らしい。急いでこちらへ、と促される。
あたしの歌が、必要なんだって。どうか我々の守護神になってくれと。
……きっとまた、あの時みたいな戦いになるんだ。
あたしは歌う。(……何のために?)
希望になる。(……誰のために?)
あたしが……やらないと。
ボディーガードさんたちが慌てた素振りで近づいてきた。
会見は中止らしい。急いでこちらへ、と促される。
あたしの歌が、必要なんだって。どうか我々の守護神になってくれと。
……きっとまた、あの時みたいな戦いになるんだ。
あたしは歌う。(……何のために?)
希望になる。(……誰のために?)
あたしが……やらないと。
促されるままにケーニッヒに乗り込み、メットをかぶる。
もうアルト君たちは出ているらしい。
今ここで全てのバジュラを駆逐しない限り、超長距離フォールドは全くの無意味になる。
あたしが。……あたしが、希望にならないと……!
「みんな……!抱きしめて!銀河の……果てまで!!」
イントロが始まる。心を落ち着けて、歌を歌い始める。
……お兄ちゃん、アルト君。もう誰にも傷付いてほしくない。
例えあたしが囮になることになったとしても、そのせいで多くの命が失われたとしても……やるしか、ないんだ。
『お前は俺が守る。安心して歌え……ランカ』
「ブレラさん……」
もうアルト君たちは出ているらしい。
今ここで全てのバジュラを駆逐しない限り、超長距離フォールドは全くの無意味になる。
あたしが。……あたしが、希望にならないと……!
「みんな……!抱きしめて!銀河の……果てまで!!」
イントロが始まる。心を落ち着けて、歌を歌い始める。
……お兄ちゃん、アルト君。もう誰にも傷付いてほしくない。
例えあたしが囮になることになったとしても、そのせいで多くの命が失われたとしても……やるしか、ないんだ。
『お前は俺が守る。安心して歌え……ランカ』
「ブレラさん……」
バジュラが集まってくる。あたしの歌に惹かれて、誘蛾灯にむらがるように、一直線に……射程範囲内におさまってくる。
カウントが始まり、そして――放たれる。
「――っっ!!」
いともたやすく薙ぎ払われていくバジュラたち。
お腹が、……痛い。捩じ切れそうなほど、じくじくと痛い。
うしなわれた、と思った。取り返しのつかないような何かが……今たしかに、失われたのだと。
(悲しくて……たまらないよ)
『全艦、フォールドに突入しました!』
歓声が聞こえる。……振り切ったんだ。
だけどあたしはまだ、歌っていた。たったひとつの思い出の歌を。
カナリアさんが、もう歌わなくていいんだぞ、と笑う。それでもあたしは、歌わずにはいられなかった。
どうしてだろう……この歌を、今うしなわれていった何かのために、歌わなければと思ったんだ……。
カウントが始まり、そして――放たれる。
「――っっ!!」
いともたやすく薙ぎ払われていくバジュラたち。
お腹が、……痛い。捩じ切れそうなほど、じくじくと痛い。
うしなわれた、と思った。取り返しのつかないような何かが……今たしかに、失われたのだと。
(悲しくて……たまらないよ)
『全艦、フォールドに突入しました!』
歓声が聞こえる。……振り切ったんだ。
だけどあたしはまだ、歌っていた。たったひとつの思い出の歌を。
カナリアさんが、もう歌わなくていいんだぞ、と笑う。それでもあたしは、歌わずにはいられなかった。
どうしてだろう……この歌を、今うしなわれていった何かのために、歌わなければと思ったんだ……。
今日はこの辺までで 明日も投下します
支援やレスというものがこんなに嬉しいことだとは知らなかった
どうもありがとう また明日
支援やレスというものがこんなに嬉しいことだとは知らなかった
どうもありがとう また明日
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