元スレ剣士「依頼があれば……この剣でなんでも斬る!」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ★
1 :
第一話『若奥様を斬る』
< 剣士の家 >
剣士(──とかっこつけたところで)
剣士(こんな平和な田舎町で、物騒な依頼なんかあるわけもなく)
剣士(世間は、ついに王国軍と大盗賊団の抗争が本格化したとかで大騒ぎだが)
剣士(この町にはなんも関係ないしな……)
妻「すみませぇ~ん、剣士さん」
剣士「なんですか、奥さん」
妻「あの~、スイカを切って欲しいんですけど」
剣士「はいはい」
剣士(こんな仕事ばっか……)
2 :
ふむ
3 = 1 :
スパンッ! スパンッ!
剣士「はい、斬れましたよ」
妻「ありがとう! 助かったわぁ~」
剣士「スイカぐらい自分でも切れるでしょうに」
剣士「こないだはキャベツの千切り、その前はリンゴをウサギさんにする、でしたっけ」
妻「でも、あたしって料理が下手なのよ~」
剣士(ウソつけ……少しでも手を抜きたいだけだろう)
剣士「だったら……さっきのお代はいりませんから、俺に料理を作ってくれませんか?」
剣士「味を見てあげますよ」
妻「そんなことならお安い御用よ。台所と材料を借りるわね」
剣士「どうぞどうぞ」
剣士(ラッキー、昼飯まだだったんだよな)
4 = 1 :
しばらくして、料理が出来上がった。
妻「さ、召し上がれ」
剣士(お、うまそうじゃん)
剣士「じゃ、いただきま──」パクッ
剣士「す!?」
剣士「お、おお……! なんだこれ……!? うげえええっ!」
妻「やっぱりダメ?」
剣士(ダメってレベルじゃない! どうなってんだ、これ!?)
剣士「これ……ちゃんと味見してるんですか?」
妻「もちろん。で、おかしいとこを直そうとすると、ますますおかしくなって……」
妻「でも、主人は美味しいって食べてくれるから……」
剣士(結果として、この劇薬が生まれたってわけか……)
剣士「……奥さん」
剣士「今日は帰しませんよ! 俺が徹底的に特訓します! この剣に賭けて!」
妻「ええっ、そんなぁ!」
5 :
危険な香りがする
6 :
ほう
7 = 1 :
気づいた時には、もう夜になっていた。
剣士「ハァ、ハァ、ハァ……」
妻「ハァ、ハァ、ハァ……」
剣士「まあ、少しはマシになりましたね」
剣士「とりあえず、調味料をドバッと入れるクセと」
剣士「ミスった時に砂糖の甘さを塩で相殺させる、みたいなバカなマネをやめれば」
剣士「だいぶ、よくなると思いますよ」
妻「ええ、ありがとう!」
剣士(ふう……もう剣士の仕事じゃねえよな、これ)
8 = 1 :
数日後、町でおかしなウワサが広がっていた。
ザワザワ……
「あそこの若奥さんが剣士さんの家にずっといたとか……」
「今日は帰さない、とか声が聞こえたって……」
「二人して、息が荒くなってたとか……」
ザワザワ……
剣士(な、なんか……俺とあの奥さんが不倫したみたいになってやがる!)
剣士(しかも、小さな町だから、広がるのが早い!)
剣士(ま、まずいぞ……旦那の耳に入る前になんとかしねえと!)
夫「剣士君!」
剣士「ゲッ!?」
夫「君にいいたいことがある」
剣士「いや、その、あの……」オドオド…
10 :
ふむ
11 :
まだかね?
12 = 1 :
夫「あ、ありがとう……!」グスッ…
剣士「へ!?」
夫「やっと……やっとあの地獄の日々から解放された……!」
夫「君のおかげで、妻がようやく“料理”と呼べるものを作るようになってくれた!」
夫「惚れた弱みでマズくてもいえなかったんだ……なかなか」
夫「しかも、ボクは出されたものは全部食べないと落ちつかないタイプだから」
夫「本当に大変だった……!」
夫「これも、君が妻の料理下手をばっさり切ってくれたおかげだ! ありがとう!」
剣士「いやぁ~、いいんですよ」
剣士(斬るのは……なにも剣だけでなく、口でもできるってことか)
ちなみにウワサは七十五日どころか、七日で消えたという。
~おわり~
13 :
ほう
14 :
第一話だからまだ続くんだよな?
15 = 1 :
第二話『カップルを斬る』
< 剣士の家 >
剣士「オイオイ、俺はあくまで剣を使うのが仕事なんだぞ?」
町娘「えぇ~!? でも、外の看板に『なんでも斬ります』って書いてあるじゃない!」
剣士「そりゃ書いたけどさ……」
剣士「なんで君と、今付き合ってる彼氏の縁を切らなきゃならないんだよ」
町娘「だって……イマイチ頼りないんだもん」
剣士「別れたいんなら、自分で振ればいいだろうが」
町娘「でも、彼のどこが悪いか、具体的によく分からないし……」
町娘「なんかいいだしにくくって……ね、お願い! なんとかして!」
剣士「しょうがないなぁ……」
16 = 14 :
ファッキンビッチ
17 = 1 :
しばらく考えた後──
剣士「じゃあ、こうしよう」
剣士「明日の夜、この町をちょっと出たとこにある森で」
剣士「君と彼氏とでデートするんだ」
町娘「うんうん」
剣士「で、俺が変質者のフリして襲いかかるから……」
剣士「そんなに頼りない彼氏なら、多分ビビりあがって、逃げちまうだろう」
剣士「そしたら、それを理由にして別れ話を切り出せばいい」
剣士「どうだ?」
町娘「悪くないわね! いいわ、それ採用!」
剣士(まったくひどい話だ……ま、別れた方が相手の男にとってもいいかもな)
18 = 1 :
翌日の夜──
< 森 >
青年「ホ、ホントにこんなところでデートするの……? やめようよ……」
町娘「だらしないわねぇ~、こういうとこでデートするのがスリルあるんじゃない」
剣士(来たな……覆面をかぶって、と)ガバッ…
覆面「ヒヒヒ……」ヌゥッ…
青年「うわっ!?」
町娘(来たわ!)
覆面「俺は人を斬るのが大好きなんだぁ~……斬らせてくれよぉ~……」チャキッ
町娘(なかなかの名演じゃないのよ!)
青年「う、う……う……」
20 = 1 :
青年「うおおおおおっ!!!」ガシッ…
覆面「!?」
青年「町娘ちゃん! 逃げてぇっ! 早く逃げてぇっ!」
町娘「えっ……」
青年「うわぁぁぁっ!!!」
覆面(コ、コイツ……力はないが、なんて気迫だ! こっちがビビっちまってる!)
青年「ボクは死んでもいい……彼女だけは絶対守るっ!」
覆面(だけど、なんとかしてビビらせないと……!)
覆面(仕方ない……やるしかない!)ビュアッ
ビシュッ!
次の瞬間、青年の服にべっとりと血がついていた。
覆面(どうだ……!?)
町娘「!?」
21 = 13 :
この青年………
か、漢だ………
22 = 1 :
町娘「な、なにやってんのよ……」プルプル…
町娘「やりすぎなのよ、アンタはァッ!」バッ
覆面「へ?」
ゴシャッ!!!
町娘のドロップキックが、覆面に炸裂した。
覆面「あがっ……!」ヨロッ…
覆面「ち、ちくしょう、覚えてやがれ!」ダダダッ
町娘(もう……ビビらせるだけっていったのに、まさか斬るなんて……!)ハァハァ…
町娘「大丈夫!? 血がついて……! どこを斬られたの……?」
青年「いや……ボクはどこも斬られてないよ」
町娘「そうなの!? でも、よかった……あなたが無事で……!」
町娘「ごめんなさい、ごめんなさい……全部あたしが悪いの……」グスッ…
青年「(なにがなんだかサッパリだけど──)いいんだよ」
23 = 1 :
剣士「いってぇ~……」ズキズキ…
剣士(相手を斬るフリして自分の腕を斬るわ、ドロップキックされるわ……散々だな)
剣士(だけど──)
町娘「行こっ!」
青年「う、うん……!」
剣士(俺の血が二人の赤い糸になったみたいだし、よしとするか)
剣士(あれはもう、俺の剣でも斬れないだろう)
~おわり~
24 = 19 :
剣士イケメン
25 :
最後のセリフで惚れた
26 = 13 :
器用だな
27 = 1 :
第三話『斬られる剣士』
ギィンッ!
ワァァァ……! ワァァァ……!
友人「ハァ、ハァ……やったぞぉっ! 俺の勝ちだぁっ!」
剣士「ぐっ……!」
剣士(正面からまっすぐ攻めたけど、まっすぐ押し切られたか……!)
剣士(これで俺が王国軍の精鋭として、剣を振るう道は絶たれた……!)
……………
………
…
剣士「…………!」ガバッ
剣士(また……あの時の夢か……)ハァハァ…
剣士(もし、あの試合で勝てていたなら、今頃俺はどうなってたんだろうか……)
28 :
上手いこと言いやがって
30 = 1 :
< 剣士の家 >
週一回、剣士の家では剣術の稽古が行われている。
剣士「みんな、木剣はちゃんと持ってきてるな?」
「はいっ!」 「はーいっ!」 「はいっ!」
剣士「じゃあ、今日は素振りからだ!」
ただし、生徒はみんな子供である。
剣士(くっ……今朝、あんな夢見ちまったから)
剣士(なんで俺が子供たちの相手しなきゃならない、とか思っちまってる)
剣士(くそっ……そんな自分にもイラついてきやがる……)
剣士(平常心、平常心……)
剣士「──ん?」
31 = 1 :
生徒の中で一人だけ、メチャクチャな素振りをしている少年がいた。
少年「えいっ、やぁっ、とおっ!」ブオンブオンッ
剣士(この子は……子供たちの中で一番才能を感じる生徒だ)
剣士(将来的には、多分だけど、俺より強くなるだろう)
剣士(だけど、こういう時は叱らないとな)
剣士「コラ、ちゃんと素振りしなきゃダメじゃないか! ふざけちゃダメだ!」
少年「ちゃんと……?」ピクッ
少年「だったら先生も、ちゃんと教えてよ。さっきからずっとイライラしてるじゃん」
剣士「なっ……!(見透かされてた……!?)」
少年「そういえば先生ってさ、むかし王国軍のエリート剣士を目指してて」
少年「いいところまで行ったけど、結局ダメだったんでしょ?」
少年「その時のことを思い出して、イラついてんじゃないのぉ~?」
剣士「…………」プルプル…
32 = 13 :
バイブ剣士
33 = 1 :
剣士「うるさいッ!!!」
剣士「お前みたいな子供になにが分かる!」
剣士「いくら才能があったって、まだまだお前は親のスネかじりなんだ!」
剣士「親の金で剣術習ってるんだから、大人しく俺のいうとおりに練習しろ!」
剣士「────!」ハッ
シ~ン……
少年「…………」
剣士(しまった……俺はなんてことをっ! なにやってんだ!)
剣士(自分の心をコントロールできないようじゃ、剣士失格だ、俺は……!)
少年「…………」ウルッ…
剣士「(涙!?)ご、ごめっ──」
少年「ありがとう、先生!」
剣士「へ!?」
少年「おかげで新技のヒントが掴めたよ! ちょっとやってみていい!?」
剣士「いいけど……」
35 = 1 :
木剣を構える剣士と少年。
少年「今からボクが殴りかかるから、反撃してみて!」ザッ…
剣士「わ、分かった……」
少年「えいっ!」ヒュッ
剣士「とうっ」ブンッ
少年は体の小ささを利用して剣をかわすと──
少年「ここっ!」シュッ
ボゴォッ!
剣士のスネに木剣をブチ当てた。
剣士「うっ……うごぉぉぉっ!」ゴロゴロ…
少年「やったぁ!」
36 = 13 :
かじった!
37 = 1 :
少年「このところ、なにか新しい必殺技が思いつきそうで思いつかなかったんだけど」
少年「先生のおかげで思いつけたよ! ありがとう!」
剣士「いだだ……いやぁ~」ズキズキ…
剣士(みごとな一撃だった……本物の剣だったらスネを斬られてたところだ)
剣士(さっきの変な素振りは、それを模索してたってところか)
剣士(それに全く気づけなかったことといい、怒鳴っちまったことといい……)
剣士(俺もまだまだだな)
剣士(まだまだってことはつまり、この町でも俺は進歩できるってことだ!)
剣士「みんな、稽古を再開するぞっ! 君も今度はちゃんと素振りしろよ!」
少年「はいっ!」
「えいっ!」 「はあっ!」 「でやっ!」
剣士(エリートになれなくても……剣の道を歩むことはできる……)
~おわり~
38 = 1 :
第四話『エリートを斬る』
< 町 >
ザワザワ…… ガヤガヤ……
剣士「あの、なにかあったんですか?」
夫「今日から国から派遣された騎士が、町に駐在することになったんだ」
妻「で、みんなでどんな騎士なのか見にきてるのよ~」
剣士「へぇ~」
剣士(騎士といえば、生まれからしてちがう、エリート中のエリート……)
剣士(それが町に駐在するってことは、この町は国の保護下に入ったも同然ってことだ)
剣士(そりゃあ、盛り上がるよな……。さて、どんな奴なんだろ?)
女騎士「今日からこの町に駐在することになった。みんな、よろしく頼む」
剣士(お、女ァ!?)
39 = 1 :
女騎士「さて……私が女ということで、不安に思っている人間も多いことだろう」
女騎士「そういえば、この町には半ば便利屋のような腕利きの剣士がいるときく」
剣士「!」ピクッ
剣士「あ……多分それは俺のことかと……(他に剣士なんていないしな)」
女騎士「フフフ……君か」
女騎士「なぁ、勝負をしないか? どちらが町一番の戦士か、この場で決めるんだ」
剣士「いや……俺は勝負なんて……」
女騎士「逃げるのか……まあいい」
女騎士「剣で戦う私と、剣で遊んでいる君では、勝負になるはずがないものな」
剣士「!」カチン
剣士「聞き捨てならないな……今の言葉」
剣士「いいだろう、受けて立ってやる!」
40 :
ヒロインかな?
43 = 1 :
数十人の町民が見守る中、試合をすることになった剣士と女騎士。
剣士(こんな風に試合をするなんて、何年ぶりかな……)
女騎士「いくぞっ!」ダッ
キィンッ! ギンッ! キンッ!
剣士(速いっ! 口だけじゃないな、この女! さすがだ!)
女騎士「どうした、どうした!?」
ガッ! ギィンッ! キンッ!
剣士(あ、ヤバイ。これ以上下がったら、野次馬が危ない──)
女騎士「そこだっ!」シュッ
ピタッ……
一瞬のスキを突かれ、剣士の首筋に刃が突きつけられた。
剣士「ぐ……! ま、参った……!」
女騎士「フッ、私の勝ちだな」
44 = 13 :
もう一本の剣で…!
45 :
我がエクスカリバーを受けてみよ!
46 = 1 :
< 剣士の家 >
剣士(完敗だな……)
剣士(試合は久しぶり、とか野次馬に気を取られた、なんて言い訳にもならない)
剣士(ま、元々強さをウリにしてたわけじゃないから、商売に差し支えないけど……)
剣士(やっぱへこむよなぁ……)フゥ…
剣士(それにしてもあの女騎士……)
剣士(あんなに強いのに、なんでこんな田舎町に来ることになったんだ?)
剣士(今、王国軍は大盗賊団と戦ってるハズだってのに……)
ワァァ…… キャァァ……
剣士「?」
「コソドロだァ!」 「またあいつ盗みやがった!」 「捕まえろおっ!」
剣士(またコソドロか……アイツも懲りないな)
剣士(どれどれ、俺が退治してやるか)
48 = 1 :
< 町 >
剣士(お、いたいた)スッ…
剣士(また叩きのめしてやる)
コソドロ「へっへっへ~、オイラが捕まるもんかよォ!」スタタッ
コソドロ「──ん?」
女騎士「…………」チャキッ
剣士(なんだ女騎士がいたのか。なら任せるか……)
コソドロ「どけ、どけ、女ァ~!」タタタッ
女騎士「う、ううっ……」ガチガチ…
剣士(ど、どうしたんだ!?)
49 = 13 :
生理か…
50 = 1 :
女騎士(やはり……体が動かない! 試合であれば平気なのに──)ガタガタ…
女騎士(“本番”だと……緊張してしまって……)ガタガタ…
コソドロ「どけどけぇ~っ!」タタタッ
女騎士「ひっ……!」
ガンッ!
コソドロ「あぐっ……」ドサッ…
剣士が投げた剣の柄が当たり、コソドロは失神した。
女騎士「あ……」
ザワザワ……
「ありがとう、剣士さん!」 「コソドロめ!」 「とっつかまえろ!」
「今女騎士さん、ビビってなかった?」 「マジ?」 「エリートなのに……」
町民から、剣士への称賛と、女騎士への懐疑の声が入り混じる。
女騎士(うっ……)
剣士「…………」
みんなの評価 : ★
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