元スレあずさ「プロデューサーさん、さよならってどういう意味ですか…?」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ☆
51 = 45 :
店員さんが、オレンジジュースを2つテーブルに置いた。
それまで、私と伊織ちゃんは一言も言葉を交わさず、ただ坂道を行き交う人を眺めていた。
「ねぇ」
厚い沈黙の殻を破ったのは伊織ちゃんだった。
そういえば、こういう時はいつも伊織ちゃんが先ね。
オレンジジュースを啜りながら、ぽつぽつと喋り出した。
「765プロの皆は、元気にしてる」
「えぇ、いつも見ているわ~」
「まだ事務所に顔は出せない?」
「……」
「そう、その顔じゃ無理そうね」
「……ごめんなさい」
それきり、また静かになる。
ジュースの氷が、崩れる音がひびく。
それをきっかけに、伊織ちゃんはお腹の底から言葉を吐き出す。
「……いつから?」
「えっ?」
「いつから、こんな事してるの?」
「退院して、しばらくしてからかしら」
「そう、あの時は大変だったわね」
「うぅん、ダメね~、私ったら……」
数か月前、アイドルを引退した。
52 = 39 :
寝たか?
53 :
貴音かわいいよ貴音
54 :
引退…
55 = 54 :
ほ
57 = 45 :
いいえ、引退という言葉はちょっと違うかもしれないわ。
形の上では、無期限休養。
記者会見も何もしてない。
週刊誌では、色々な憶測が飛び交っている。
出来るかぎり、笑みを崩さずに、口調を変えずに、言った。
「でも復帰は、無理よね」
伊織ちゃんは何も言わない。
ただ、ストローを噛みしめて、ひたすら何かに耐えている。
「ごめんなさい、今のは意地悪だったわね」
「席は、残ってる、わ」
「無理よ、ね?」
そう言って、右足の付け根の辺りを指差す。
「ダンスは……」
喉の奥が詰まった。
つかえを取るみたいに、小さく息を吸って、勢いをつけながら言った。
「ダンスは、一番苦手だったけれど、あの人が必死になって教えてくれたものだったの」
「……」
「満員のドームで踊れるようになったのは、あの人のお陰ね~」
「……」
「でも……」
大きく息を吸って、言った。
「失ってしまったの」
そう、ダンスは、あの人が遺した証そのものだった。
58 :
名作の予感がするから頑張ってほしい
59 = 43 :
遺した、かよ
60 = 45 :
フォゥ!フロッ!
61 = 54 :
はよあがれ
62 = 43 :
睡眠は美希、食事は貴音
入浴代行は誰がやるんだ?
63 :
>>62
ピヨ
64 :
>>63
俺得
65 = 41 :
>>63
よく分かってらっしゃる
66 = 54 :
あずささんお風呂好きだったよね…
67 = 58 :
ほ
69 = 45 :
周りのお客さんたちは、楽しそうに談笑している。
大体の人は、坂道にまつわる噂を楽しそうに話している。
ある人は、共有の手帳に同じペンで予定を書かきこんで、
ある人は携帯電話で友人と来週の約束を交わす。
この坂道は、都内でも有名なスポットだった。
春は桜の並木がアスファルトに模様を作って、冬は雪で真っ白なウェディングロードが出来あがる。
そして……。
ここを登りきった先には、煌めく街の大パノラマが広がる。
それを目当てにやってきたお客さんで、テラスは連日、賑わっていた。
だから、ここには自然と笑顔が溢れる。みんなゴールの景色を、心待ちにしている。
その中で、私と伊織ちゃんの席だけ、明るい笑顔が抜け落ちていた。
店員さんが、怪しがるのもわかるわ。
……私は、もうこの坂道を一人では登りきれない。
目を伏せて、言った。
「アイドルは、楽しかったわ、とっても」
「……」
「でもダンスも踊れないアイドルなんて、ちょっと困りものよね」
伊織ちゃんは私の言葉に、ただただ耳を傾ける。
乱暴に氷をかき混ぜるストローが、くしゃくしゃに折れ曲がっていた。
70 = 63 :
足がなんかあったんか
71 = 54 :
歌があるじゃない…
72 :
ふむ
73 = 58 :
ほ
74 = 45 :
伊織ちゃんは、テーブルに肘をついて、頬に手を当てている。
丁度、横顔を向けている形ね。唇には、ストローを咥えている。
不機嫌そうな表情を変えずに、小さな声で言った。
「千早は、最近CDのレコーディングをはじめた」
「えっ……?」
「けれど、その前まで、ずっと上の空で、声がまるで出なかったのよ」
そのまま、無表情で続ける。
「真も今、ドラマで活躍してるのは、あのポスターを見れば分かるわね」
「……」
「だけど、キャンセルしたドラマのオファーは数十本はある」
唇だけで、無理やり笑顔をつくって、伊織ちゃんは言った。
「ま、私はそんな軟弱ものじゃないけどね」
よく見ると、伊織ちゃんの頬に、うっすらと影が入ってた。
「みんな、なんとか前に進めた」
そう呟いて……
伊織ちゃんは、正面に向き直って、私の瞳をまっすぐ見据えた。
そのルビーのような瞳に、吸い込まれそうになる。汚れのない瞳だった。
私の手を、強く握る。
ほんのりと熱がこもっていて、心地よい体温が、肌の下へそのまま伝わってくるようだった。
温かい。久々ね……。
それからハッキリと、大きな声で言った。
「あんたは、いつよ」
75 :
しえん
76 :
隣にか、これ
78 = 45 :
そのまま、伊織ちゃんは眼を決して逸らさない。
震える唇が、ゆっくりと開く。
「別に、復帰しろとも、頑張れとも言わない」
握った手に、力がこもっていく。
「だけど、こんなこと毎日、毎日……同じこと繰り返してて……」
少しだけ、握られた手が、痛くなってきた。
なんだか伊織ちゃんから伝わるこの熱で、体が焼けてしまいそう。
視線が、真っ白なテーブルへと下がっていく。
「何になるのよ……」
……。
「留守番電話……」
「えっ……」
伊織ちゃんの俯いた顔が、持ちあがる。
目じりに涙がかすかに、溜まっていた。
伊織ちゃんの瞳を、見据える。
「留守番電話に、残っていたメッセージの1つ」
「……?」
「AM10:00に、ここで待ち合わせをしましょう」
「……」
「ただ、私は捜しているの。あの日を」
それから私は、奥底に溜まっていた言葉を紡いでいく。
自分でもビックリするくらい、迷いの無い声だった。
79 = 54 :
まさか繋がってるとは…
80 = 75 :
俺のあずさ
81 = 72 :
これ何かのssの続編?
82 = 54 :
勘違いだった。すまん
83 = 41 :
もし神様がいるとしたらあの人を返して
84 = 58 :
最後まで行ってほしい
85 = 45 :
そっと、数十メートル先を指さす。
つられて伊織ちゃんの視線がそっちへ向く。
「待ち合わせ場所は、あそこの電話ボックスなのは、わかったわ」
「えっ……?」
「それからプリンを買って、二人で、食べた気がするの」
「……気がする?」
「えぇ、さっきこめかみが痛くなったから」
伊織ちゃんは、眉を潜めて、私の顔をじっと見つめている。
普段の伊織ちゃんだったら、
何を言っているのか、さっぱり分からないわ!とでも言いそうなお顔ね。
「後は、まだ捜しているの。まだ、たったこれだけ」
「な、何を言ってるのか、さっぱりだわ……」
86 = 64 :
もしかしてさよ教的な流れじゃないだろうな・・・
87 = 72 :
>>83
ありがとう
探してみる
88 = 41 :
>>87
いやなんか勘違いしてるみたいだけど、曲の歌詞書いただけだぞ
90 = 45 :
「私は……ただ、知りたいだけなの」
「……?」
「どこに行って、何を食べたか」
「えっ……?」
「何を話して、どんな手の繋ぎ方をしたのか」
「……」
「そして最期に、あの人は何て言ったのか、どんな表情だったのか」
「……!」
「私は、最期に、あの人に、何を伝えられたのか」
「まさか……」
病院の真っ白い天井を見た時には、もう何もかもが終わっていた。
起きたら、全てを失っていた。
いくら"終わり"だけを、事細かに説明されても、
写真をいくら見せられても、
私にとっては、全て夢の中の出来事だった。
涙も、一滴も出なかった。
「何も思い出せないの」
パズルのピースのように、バラバラに砕け散った、あの日。
私は、ひたすら、この坂道で、破片をかき集めている。
91 = 45 :
だから、1秒だけでもいい。
あなたを、たしかに、感じられたなら……。
きっと、私は、この坂道を登りきれる気がする。
92 :
記憶喪失か?
93 = 41 :
抱きしめられた温もり忘れちゃったか…
94 = 92 :
>>93
ならば俺が代わりに抱きしめる
95 = 45 :
第1部 完!
一旦セーブしよ――――!!!
98 = 92 :
ぼうけんのしょ1にセーブしますか?
→はい
いいえ
99 :
雰囲気(何故か変換できた)がすげえ
100 :
P、眼鏡とあずささんを残して逝っちまうなんて……
みんなの評価 : ☆
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