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    元スレ貴音「宵待草のやるせなさ、今宵も月は出ぬそうな」

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    51 = 1 :

    【今年一月の出来事】

    れこーど大賞に紅白歌合戦、終わってからは翌日の収録のために現地入り。とにかくこの時期は忙しいものです
    あいどるには盆も正月もありません。

    「仕事増えたのは嬉しいけど、家族のことが気になるぞ……
      ペットホテルで寂しい思いしてなきゃいいけど」

    前の席に座っている響が、珍しく弱音をはきました。


    やよい「きっと大丈夫ですよ、響さん!
        それに忙しい分、いっぱいお給料もらえるんだから頑張らないと」

    「うん、そうだな! 帰ったら家族にも美味いもの食べさせてあげよーっと。
      それにしてもやよいは元気だな。分けて欲しいくらいだぞ」

    やよい「えへへ、今年はいっぱいお年玉あげられそうだから、私なんだかうれしくて」


    やよいはあの方がいなくなっても、平気なように見えました。
    おそらく、動機が家族のためとはっきりしているために、切り替えも早くできたのでしょう。
    しかしその考えが少し間違っていることは、すぐにわかりました。

    伊織「じゃああんたは誰からお年玉もらうのよ」


    やよい「だって私はお姉ちゃんだから我慢しないと。
        伊織ちゃんはお兄ちゃんからもらえるの?」

    52 = 43 :

    54 = 1 :

    伊織「いらないって言っても押し付けてくるの。
       いつまで子供扱いしてんのよって話しよね」

    「うちの兄貴なんてお年玉くれたことすらないぞ」


    やよい「お兄ちゃんいるだけ羨ましいですよぉ。
        私もお兄ちゃん、ほしかったなぁ」

    お兄ちゃんみたいに思ってたのにどこにいっちゃったんだろ、ときこえないほどの声でつぶやくと
    やがてやよいは小さな寝息をたててしまいました。

    どれだけ元気に振舞ってはいても、あの方がいなくなった事実はやよいの心に今も小さな傷を残したままでした。
    立ち直りこそすれ、その傷はまだ癒えてはいない。それは強く見える他の皆でもきっと同じなのでしょう。

    伊織「やよいはもう寝ちゃったのね。せっかくの新年だっていうのにお子様なんだから」

    律子「あんたも、年があけて興奮してるのはわかるけどもう寝なさい。
       ついたら早々に収録があるんだから体持たないわよ」

    伊織「……律子はいつ寝るのよ」

    律子「むこうについたら仮眠を取るわ。いらない心配はしないの。
       さぁ、みんなさっさ寝る! 」



    明け方、現地に到着したものの、律子は仮眠を取る暇もなく、忙しく動きまわっていました。

    55 = 43 :

    56 = 1 :

    【今年二月末の出来事】


    律子が過労で倒れて病院に運ばれたという報せを受けた時、
    ついに来るべき時が来たのだと思いました。

    病院に急いで向かうと、病室の入口近くで、春香が泣きながら何かを言っています。


    春香「私がひどいこと言っちゃったからだ……
       私のせいで、今度は律子さんまで……ごめんなさい、ごめんなさい……」



    確か以前にもこういうことがありました。

    あれもちょうど昨年の今頃で、やはり突然の連絡があり、
    あの方が重い怪我をされたといわれて仕事が手につかなくなったことを憶えております。
    あの時と違うのは、今回は皆が病室に立ち入るのを許可されたということでしょうか。


    伊織「なんでこんなになるまで頑張っちゃうのよ、ばかぁ!」


    律子を怒鳴りつけると、伊織は涙声でまた馬鹿と何度となく繰り返していました。
    誰一人として伊織を諌めるものがないのは、少なからず皆も同じ気持ちだったからでしょう。

    大声だったのにも関わらず、律子は死んだように眠ったままです。

    58 = 1 :

    伊織「なんで頼ってくれないの? せめて相談くらいしてくれたっていいじゃないっ」


    送迎に深夜の接待、足を棒にする営業、予定の管理に終わりの見えない事務仕事。
    そんな日々の中では相談する暇もなかったのでしょう。
    目の下の隈が日に日に深くなっていていく彼女を、わたくしたちは心配していたものの、
    誰も助けてあげることはできなかった。
    それに律子の性格からして、わたくしたちに弱音を吐くなど、ましてや助けを求めるなど、
    絶対にしなかったでしょうし、出来なかったでしょう。

    そんな孤独な戦いを、律子は一年近くもの間続けていたのです。


    あずさ「でも……律子さんまでいなくなっちゃって、私たちこれからどうすればいいのかしら」


    亜美「兄ちゃんももういないしね……」


    プロデューサーのいないあいどる、それは寄る辺のない孤児のようなものでした。
    予定の決まっている分は良いとしても、当面は全てを自分でこなさなくてはならない。
    先の見えない未来に皆は不安になり、余計に黙ってしまいました。



    伊織「あんたたち何暗くなってんのよ!」

    しいんとしていた病室の空気が、突然の大声に震えました。

    59 = 1 :


    伊織「私達、仲間なんでしょ? だったら律子の分フォローするなんて当たり前じゃない。
       とりあえず決まっている分の予定をこなしながら、あいた時間は営業かレッスンにまわすわよ。
       そしてこれからはできるだけスケジュールも自分で管理するの。わかった!?」


    伊織の剣幕にだれもが気圧されていました。
    こんな伊織をわたくしは知らない。
    ということは、この一年で伊織は成長したということなのでしょうか。


    よくよく思い返してみると、伊織は竜宮小町の長です。
    その立場からは、律子の苦労がわたくしたち以上によく見えていた。
    律子が不在のときは、長としてその重責に耐えねばならなかった。
    今のように仲間を鼓舞しなければならなかった。

    あの方が不在の一年近く、ずっとそのように生きてきたればこそ
    伊織はこのような強い心を持ち得たのでしょう。



    伊織「それから! いなくなったやつのこといつまでもグジグジ言ってないの。桜が咲いたらもう一年よ?
       だからもう忘れなさい。私たちはアイドルなんだから。アイドルが暗い顔してちゃダメじゃない」


    赤くなった目に涙をためているくせに、無理矢理の笑顔をつくって、伊織は病室から出て行きました。

    60 = 19 :

    超長距離砲撃支援

    64 = 1 :

    仕事の都合で、病室からは一人、また一人と、仕事に戻っていなくなってしまいました。
    残ったのは如月千早、春香、そしてわたくしの三人だけです。
    誰も言葉を発しないまま、面接時間終了までその三人だけが残っていました。



    春香「私、もうアイドル続けられないよ……」


    三人一緒に帰路についていると、春香が突然そんなことを言い出しました。


    千早「いきなりそんなこと言い出して、どうしたの、春香!? ねぇ、春香ってば」


    虚脱した春香の体を、如月千早が肩を掴んで揺さぶると、春香はぽつりぽつりと心情を吐露しはじめました。

    その悲しい独白はもしかしたらわたくしがしていたものなのかもしれません。
    それをせずにすんだのは、あの方がなぜ帰らないかを知っていたからで、
    わたくしと春香との違いは、ただそれだけでした。

    65 :

    知っているのか貴音!?

    67 :

    これは良いSS

    68 = 35 :

    まさかPさん死んだの?

    69 = 19 :

    Pは果てのない戦いの中に飛び込んでいったよ

    70 = 1 :

    みんなアイドルになった理由がはっきりあってうらやましいなぁって思う。


    え? 私にもあるはず?
    うん、きっかけはもちろんあるよ。
    ちっちゃい頃ね、よく公園で歌ってたお姉さんがいたの。
    その人と一緒にみんなの前で歌を歌ったことがあったんだけど、上手だねってそのお姉さん褒めてくれたんだ。
    それから私はアイドルになるんだぁって、突っ走っちゃって……
    いつの間にか本当にアイドルになっちゃった。

    でもね、この事務所でアイドル始めてから、見つかったんだよ。アイドルやりたい本当の理由。

    私ね、この事務所で、みんなと一緒にアイドルがやりたい。
    ずっと仲良くアイドルやれればそれでいい。

    もちろんそれがどれくらいわがままなことなのかってことぐらい、もうわかってるよ。

    去年のニューイヤーライブの前も、私のわがままのせいでみんなに迷惑かけちゃったしね。
    プロデューサーさんには、迷惑どころか大怪我までさせちゃった……

    だからね、あの時みたいなわがままはもういわないよ。

    72 = 13 :

    ハッピーエンドでありますよーに!

    73 = 1 :

    今の私はね、せめてみんなの帰る場所が同じなら、それでいいの。
    仕事が忙しくて、めったに顔合わせられなくても、それでいいの。
    みんなが帰る場所が私の帰る居場所でもあるんだって思えれば、それでいいの。
    一人もかけないまま、みんなでずっとアイドルをやっていければ、それだけでいいの。

    だからね、ずっとプロデューサーさんの帰りを待ってた。
    そう思ってないと心が壊れそうだったから待ってた。
    じゃないと私ががんばれないから待ってた。

    でもね、本当は気づいてたの。プロデューサーさんはもう帰ってこないんだってことくらい。
    だけど、そんな事ないって、必死に自分に言い聞かせてた。
    じゃないと私、アイドル続けられなくなっちゃうから。

    だけどもう限界だよ……

    なんで、何も言わずにいなくなっちゃったの?
    なんで、連絡も何もくれないの?

    こんなんじゃもうこれ以上待ち続けられるわけなんて、ない。

    それでね、今日、律子さんにひどいこと言っちゃったんだ。
    律子さん、今まで私達のために、体壊すくらい頑張ってくれてたのに、私、ひどいよね。
    それでね、さっきの伊織を話を聞いてて思ったの。
    私にプロデューサーさんを忘れることなんかできっこない。
    だからこの先もずっと辛いままなんだって。
    ごめんね、千早ちゃん……私、もう限界だよ……

    74 = 12 :

    ふむ…

    75 = 23 :

    重い…
    だが何か身に染みるような重さだ……振り払うことはできない……

    超支援砲火

    76 = 1 :

    【三月初旬】


    ごきげんよう、律子

    体の具合はいかがですか? 
    大分よさそうでではありますが、無理は禁物ですよ。
    今はお医者様のいうことをしっかり守って、ゆっくり静養していてください。

    事務所の皆はどうしているか、ですか。

    ふふふ、絶対にお聞きになると思っていました。
    高木殿、及び皆からの言伝があります。
    何も心配せず、長い休暇を貰ったと観念して、しっかり体を癒すように、だそうです。

    それからこれは皆からのお見舞いの品です。
    随分と沢山あったので、持ってくるのが大変でした。

    花は小鳥嬢が後日花瓶を持ってきてくださるとのことです。

    実を言うと、今日は律子に謝るためにきたのですよ。
    本来であれば、事務所の皆全員に謝るのが筋ではあるのでしょうが……

    謝る訳が分からない?
    いえ、理由はちゃんとあるのです。

    77 :

    79 = 1 :


    謝らなければならない理由はただひとつ。
    あの方はわたくしのせいで事務所を去ってしまわれたのですよ。
    とどのつまり、皆が悲嘆にくれていたのも、律子が倒れる羽目になったのも、
    ひいては春香が今のようになってしまったのも、全てはわたくしの招いたことなのです。

    事の発端は、わたくしはあの方に恋をしてしまったことにあります。
    それがあいどるとしてありうべからざることであるのは
    もちろん了解しておりました。

    まったく世間は不条理です。
    わたくしはあいどるで、恋などは許されない。
    しかしあいどるにならなければ、あの方と出会うことも、
    この恋をすることもなかった。
    これが不条理でなくては一体なんなのでしょうか。

    しかしそれを嘆いても仕方がありません。不条理な世の中であればこそ、天は運命を切り開く力を
    人間にあたえたもうたのですから。
    そしてわたくしにその力がなかったがために、この事態を引き起こしてしまったのです。

    さて、それでは前置きはこのくらいにして、これより全てを話させていただきます。



    慕情抑えきれず、あの方の住まいを訪れたのは、昨年の三月、あの方が退院して間もない頃です。
    むかう道中、白梅がいたるところで見られました。

    82 = 67 :

    春香なに言ったんだよw

    83 = 1 :

    呼び鈴をならすと、あの方は風呂上がりだったのでしょう、
    濡れた髪のままわたくしを出迎えてくれました。

    上気したその頬を見て一瞬、わたくしと目があったことで顔を赤らめてくれているのだと、思い上がりも甚だしい
    勘違いをしてしまいましたが、今思えばそれも恋のうちです。
    こういう風に思えてしまうのも、やはり一年という時のおかげな気がいたします。

    それはそうと、なんだか照れてしまうものですね、己の恋の話というのは。
    もちろん、罪の告白をしているものが言う言葉ではないとは分かっています。
    ですが他人と恋の話をするなどという人並みの経験すら、わたくしにはないのです。
    ましてやこれは秘密の恋の話ですから、なおさらですね。

    仮にわたくしがあいどるなどではなく、律子ともただの友人であれば
    きっとこれも楽しい会話になっていたのでしょう。

    それでは話を戻します。

    貴音「きれいになさっているのですね」


    流石にいきなり想いを伝えることなどできません。
    ですからはじめの方は世間話に終始しておりました。

    とは言っても緊張していて、あまり会話の内容は覚えてはおらぬのです。
    話題そのものは、退院後の調子や事務所の皆についてだったとうっすら記憶しているのですが。

    しかしわたくしの様子から、あの方はただならぬものを感じ取ったようでした。
    なかなか本題を切り出せてはくれません。
    切り出そうとするとうまく話をそらされるのです。

    84 = 23 :

    Pさん病気なのかとおもった……


    月が地上に墜ちて星に恋する物語。


    昂天支援

    85 = 29 :

    この題名通りにする必要はないよ(迫真

    87 = 1 :

    貴音「わたくしが今日きたのは、世間話をするためではありません」

    ようやくその言葉が言えたのは、話題も尽き、あの方が会話に窮した時です。

    とはいえども、想いの丈を伝えるというのはやはり勇気のいるものなのですね。
    先程までは言えずじまいで、じれったくすら感じていたのにおかしなものです。

    貴音「お慕いもうしております。どうかわたくしと添い遂げてはいただきませんか」

    ただこれだけのことをいうのに、どれだけの月日を要したことでしょうか。
    やっと言えたのがそれだけというのもなにやら情けなく感じてしまいますが、その時のわたくしにはそれが精一杯だったのです。


    おや、どうしたのです、律子。鳩が豆鉄砲くらったような顔をなされていますが。

    はて、いきなりぷろぽーず、とな。
    言われてみればそうですね。
    さりとて不自然なことは何もないでしょう。
    まがい物の恋ならばいざしらず、わたくしはこの恋が真のものであると信じておりましたから。
    たとえ夢と引換にしてでも、
    残りの人生をこの方と添い遂げることが出来たのであれば、それこそ本望だと思ったのです。

    けれどそんなわたくしの思いとは裏腹に、返ってきた言葉はつれないものでした。


    自分はプロデューサーであるから、あいどるのわたくしと男女の付き合いをすることは出来ない。

    だいたいこういった意味の言葉をあの方は返されました。
    でしたら、と、わたくしは用意していたものを渡し、再びたずねました。

    88 = 13 :

    No make聞くとアニメのお姫ちんPのこと意識してるっぽい感じはあるよね

    89 :

    お姫ちん好きの俺得

    90 = 1 :

    貴音「あいどるであるがゆえに付き合えぬというのであれば、
       ただの四条貴音に戻りお尋ねいたします。
       あなた様はわたくしをどう思っておいでですか?」

    姑息な手だとは我ながら思いましたが、これしか方法はないと思ったのです。

    しかし、その時辞表を手にしたあの方は一体どのような顔をしていたのでしょうか。
    答えばかりが気になって、唇しか見ておりませんでしたから、それすら憶えておりません。

    貴音「答えてくれねば何もわかりません。そしてもしも袖にされるというのであれば、それも仕方なきことです。
       今宵、その覚悟あればこそ、わたくしはここに参ったのですから」


    世の中にはどうしようもないことがあると、あの方は答えました。

    全くの正論ですが、どうしようもないことをどうにかできると考えてしまうのは若さでしょうか、青さでしょうか。

    ですが問いの答えを言わぬということは、あの方もわたくしのことを好いてくれいると
    受け取っても良いものだと思いました。

    貴音「あなた様も、わたくしと同じ気持ちだと思ってよろしいのですね」

    さしものあの方もようやく観念したようで、一言だけ、わたくしのことを愛していると言うと、先ほどの辞表を破り捨てました。
    思えば、あの方の口から直接そのようなことを言われたのは、後にも先にもこの時だけです。

    その言葉を言うまでに、あの方は事務所を去る決意をされたのでしょう。
    それなのにその愛の言葉がどれだけ重いものかを露ほども考えず、
    わたくしは天にも昇る気持ちで幸せをかみしめていました。

    93 = 1 :

    思いが通じてからというもの、わたくしは通い妻のようなことをやっておりました。

    思慮が足りない、と言われてしまっては仕方がありません。
    もっとも、思慮深い時というのは人間大抵不幸なときで、幸福であれば思慮は浅くなるのが常です。

    恋ゆえの思慮の浅さを色ぼけといいますが正に言い得て妙ですね。
    わたくしも、あの一月ばかりは色ぼけをしておりました。


    ……少しばかりのろけさせていただいてもよろしいでしょうか。
    もっとも、破れた恋ののろけなど、語る方も物哀しいだけですが。


    いいではありませんか。
    まだまだ日は長いのです。
    というわけで勝手に話させて頂きます。



    この写真をご覧下さい。


    実は一度だけ、あの方とでえといたしたことがあるのです。

    それはこの時の写真です。

    95 = 8 :

    >>93
    この時の写真→×
    その時の写真→○

    ついでにさるよけ

    96 = 1 :

    驚くことに誘ってくれたのはなんとあの方からでした。
    いなくなる三日前のことですからあの方なりに罪滅ぼしの気もあったのかもしれません。

    どこか行きたいところはあるのかと、前日に聞かれた時はわたくしもびっくりしてしまいました。

    貴音「でえと、ですか。それなら海がいいですね」


    四月とはいえ、まだまだ肌寒い季節です。
    そんな頃になぜそのような酔狂を言うのだろうと、あの方はきょとんとしておりました。


    貴音「今も昔も恋人は海へ行くものです」

    指を唇にそえてそう言うと、あの方はわかったと了解してくれました。



    とはいっても翌日は仕事が入っておりましたし、人目も気にせねばならぬ身ですから、
    海についたのは、夜の帳もすっかり降りてからのことです。風もない、静かな夜でした。

    98 = 1 :

    わたくしたちの他に誰もいない砂浜に、寄せては返す波の音しか聞こえてきません。
    空を仰げば、あまたの星々がまたたいています。
    月が照らす海の上には、彼方の地平線まで続く光の道ができておりました。
    その道をたどっていけば、遙けき月まで行けそうな気がいたしました。

    貴音「いっそこのまま、あの道を渡って二人でどこか遠くまで逃げてしまいましょうか」


    海に映る月を指さして、わたくしは半ば本気でそう言いました。
    未だにあの時そうしておけばよかったと後悔することがあります。

    けれども先ほど申したように、幸せな時ほど思慮は浅くなるものです。
    愚かにも心のどこかで、この幸せが永久に続くものだと考えていたわたくしは、
    うっとりとその風景に見とれたまま、あの方の肩に頭をのせていました。


    帰る直前、あの方は一枚の写真を取りました。
    先程私が申した海と月の写真です。


    貴音「現像したら、ぜひわたくしにも一枚ください。
       一生の宝ものにいたします」


    さて、のろけ話はここで終いです。
    いなくなる日の前日、とはいっても日付もかわろうとする時刻の話です。
    ですから実際は、当日のことと考えていただいても差し支えはないでしょう。

    99 = 1 :

    貴音「おかえりなさい、あなた様。あなた様?」


    普段、お酒を召して帰ることなどめったにないのに、その日ばかりは泥酔していて足元も覚束ない様子。
    どうしたものかとたずねてみても的はずれな答えが帰ってくるばかりです。

    そうして背広のままでべっどに倒れこみ、うわ言のようにごめんなぁと繰り返していました。


    貴音「そのまま寝ては皺になります。寝間着に着替えてください」


    何度声をかけても、あの方はべっどから動こうとしません。
    しまいにはいびきをかいて寝てしまう始末ですから、どうしようもありませんでした。


    貴音「これでは今度くりーにんぐに出す必要がありそうですね」

    皺くちゃの上着だけをなんとか脱がし、衣紋掛けに吊るしておこうとすると、懐になにかが入っているようです。
    仕事のものであれば大変だと思い取り出してみれば、出てきたのはなんと退職届でした。


    先程の謝罪の意味が、突然理解できました。


    貴音「わたくしのせいなのですね……」

    100 = 19 :

    食糧支援


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