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元スレ渋谷凛「あんたの妻になる未来」
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ゴユックリドウゾー
凛「さ、食べよっか。卯月お腹空いてる?」
卯月「いえ。最近あんまり食欲ないので……」
凛「食欲がない……? え、どうして?」
卯月「……考え事をしていると、お腹がすかなくて」
凛「……」
卯月「凛ちゃん?」
凛「……この一番大きいアボカド、卯月が食べて。ほら、卯月の分私が取り分けてあげるよ」ササッ
卯月「ええっ、8割ぐらい私のお皿じゃないですか。凛ちゃんももっと食べてくださいよ」
凛「私はいいの。アボカドは栄養豊富なんだから、多少無理しても卯月が食べなきゃダメ!」
モグモグ
凛「……」
卯月「……」
凛「……卯月、少し落ち着いてきたようだから、正直に言っていいかな」
卯月「……何ですか?」
凛「私、わからないよ。卯月がどうしてそこまで、胸を痛めてくれているのか」
卯月「……」
凛「私の出てるドラマがそんなに嫌い?」
卯月「嫌いじゃなくて、怖いんです……」
凛「……その違いも私にはよくわからないんだ」
卯月「……ごめんなさい。私にも、自分の気持ちがよくわからないんです」
凛「そっか……」
モグモグ…
凛「……私がトライアド組んだ時にもこんなやり取りあったよね」
卯月「え?」
凛「私、卯月のことがよくわからなくなって……でも卯月自身も『わかりません』って言って……」
卯月「……」
凛「……」
卯月「……Aさんに、嫉妬してるんじゃないかって言われました」
コトッ
卯月「凛ちゃんに嫉妬してるから、私たちの間に不和が生じているんじゃないかって」
凛「卯月……」
卯月「でも、嫉妬じゃありません。私は凛ちゃんに嫉妬しているんじゃありません。トライアドの時もそうじゃなかったように、今回も違います。それだけははっきりと言うことができます」
アリガトウゴザイマシター
凛「……卯月。今日はもう少しだけ寄り道して帰ろっか」
卯月「はい、そうしましょう」
テクテク
凛「星がキレイだね。こんなに晴れたのって、久しぶりじゃないかな」
卯月「ふふ、そうですね」
凛「3話では星空をバッグに撮影するシーンがあるんだって。監督が言ってたよ」
卯月「……そうですか」
凛「うん……」
凛「ねえ卯月」
卯月「はい」
凛「もし卯月に『ドラマを辞めてほしい』って言われても、私はドラマを降りることはできない」
卯月「……はい」
凛「だってドラマに出ることは私の仕事だから。例えお父さんに反対されても、私はオファーが来る限りドラマに出演し続けると思うよ」
卯月「……」
凛「だけど、だけどね、その代わりってわけじゃないけど……他のお願いなら、多少無茶なものでも聞いてあげられるかもしれない」
卯月「?」
凛「例えばそうだなぁ。『凛ちゃん、あのセリフ言ってください!』とか?」
卯月「……!」
卯月「り、凛ちゃん!」
凛「……なに、卯月?」
卯月「あのセリフ、言ってくれませんか?」
凛「んー? あのセリフって何かな?」
卯月「あ、あ……『あん妻』の、あん妻の、あのセリフですっ!」ギュッ
凛「……ん。まあプロデューサーとの約束があるから、本当は言っちゃいけなんだけどね。でもここは握手会じゃないし、卯月相手にだったら言っていいかもしれない。うん、いいよ、言ってあげる」
ゴホン
凛「今の私たちは大人と子供。でも5年たてば、私たちは対等な関係になれる。そうでしょ?」
卯月「……」
凛「あんたの妻になる未来。それもまあ、悪くないかな」ニコッ
卯月「…………」
卯月(あ、そっか)
卯月(私はただ、凛ちゃんのこの笑顔を……)
凛「卯月?」
卯月「……ふふ。ありがとうございます。なんだか心のつっかえが取れたような気がします」ニコッ
凛「!」
卯月「どうかしましたか?」
凛「いや……卯月のその笑顔、見るの久しぶりだと思って」
卯月「笑顔……そういえば私、最近全然笑ってなかったような気がします」
凛「卯月に笑顔が戻ってくれて嬉しいよ。卯月のその笑顔がなくちゃ、私もアイドルをやってるって気がしないから」
卯月「ふふっ。ありがとうございます」
凛「……ううん、お礼を言うのは私の方」
テクテク
卯月「ここでお別れですね。それじゃあまた明日、事務所でお会いしましょう」
凛「うん。気をつけて帰ってね」
卯月「はいっ」パァァッ
凛「……」
卯月「凛ちゃん?」
凛「……バイバイ」クルッ
ガチャ
凛「ただいま」
凛母「おかえり凛。あら、顔真っ赤じゃない」
凛「……ハーブティ飲んできたから」
──翌日──
卯月「おはようございますっ」ガチャ
凛「あ、卯月。おはよう」
卯月「凛ちゃんっ。おはようございます、今日も1日がんばりましょう!」ニコッ
凛「うん……がんばろう」ニコ
卯月「……えへへ」
凛「ふふ……」
ガチャ!
未央「た、大変だ~っ!」
卯月「未央ちゃん?」
未央「た、た、大変なんだ! 大変なことが発表されたんだよしまむー!」
凛「どうしたの未央、そんなに慌てて」
未央「し、しぶりんは先に聞かされてたりする!?」
凛「え……何の話?」
未央「い、今さっきプロデューサーから聞いてきたんだ。……しまむー、驚かないで聞いてね」
卯月「?」
未央「なんと、しまむーが──」
ガチャ
奈緒「卯月!」
加蓮「あん妻出演おめでとう!!」
シーン
卯月「……へ?」
奈緒「こらこら加蓮、出演は違うだろっ。正確にはあん妻からオファーが来た、だろっ?」
加蓮「同じことじゃんっ。なんたってあん妻の3話の新ヒロインにと、監督からの直々の指名なんだから!」
卯月「え……ええーっ!?」
未央「もう2人とも、私から発表しようと思ってたのに~!」
卯月「ちょ、ちょっと待ってください。わ、私があん妻からオファー!?」
加蓮「そうだよ~。聞くところによると、Aさんを巡って凛と3角関係になるんだってね。ん~、これは波瀾の展開だねっ!」
奈緒「Aさんから監督に推薦があったみたいだぜ! 『渋谷さんに対する島村さんの熱い思いは、必ずドラマを盛り上げてくれる』って!」
未央「最近こそこそ席を立つと思ったら、Aさんにコンタクトはかりに言ってたんだな~? しまむーやる~っ!」
アハハハ
凛「卯月……」
卯月「わ、私があん妻に……」
凛「……」
卯月「島村卯月、精一杯頑張ります!」ニコッ
凛「……え?」
凛「え、卯月、オファー受けるの……?」
卯月「はいっ。せっかく頂いたお仕事です。私に務まるかわかりませんが……誠意一杯頑張らせていただきますっ」
凛「……」
──撮影所──
卯月「今日からお世話になります、島村卯月です。よろしくお願いします!」
パチパチパチ
A「島村さん、よく来てくださいました」
卯月「いえ……Aさん、ありがとうございます。Aさんが監督さんに推薦を出してくれたんだって聞きました」
A「そんなお礼なんて……私は先に脚本をいただいていて、新たな登場人物の役には島村さんが適役だと考えたまでのことです。一緒にドラマを、良いものにしていきましょう」
卯月「はいっ!」
A「もし演技の方で不安なことがありましたら、いつでも私に相談してください。精一杯力になりますので」
卯月「本当ですか、ありがとうございます! そうしたら、今度の日曜日に……」
凛「……」
カーット!
卯月「うう……また怒られてしまいました」
凛「大丈夫だよ卯月。始めはみんなこんなもんだから」
卯月「……はい、島村卯月、めげずに頑張りますっ」
A「島村さん」スッ
卯月「あ、Aさん。お水持ってきてくれたんですね、ありがとうございますっ」
ゴクゴク
凛「……」チラッ
A「? 渋谷さんも、喉が乾きましたか?」
凛「……別に。私あっちの方で、セリフの確認してくるから」
──休憩室──
凛「……」ペラッ
凛「……なにこの台本のあらすじ。卯月と私でAさんを奪い合うって書いてある」
凛「……」
凛「いや、ドラマだし、フィクションだし、別にいいんだけどさ」
凛「ただあまりに現実離れしてると、このドラマのファンもそのうち愛想尽かすんじゃないかな」
凛「あん妻もこうなってくると、いよいよ終わりが近いのかなぁ、なんてね」
凛「……そろそろ戻ろう」
スタスタ
卯月「……少し、変なこと言ってもいいですか?」
A「はい?」
凛「ん?」
卯月「……最初に出会った時、優しく声をかけていただいた時から、その、私……あなたに恋してしまったみたいなんです」
凛「!!?」
A「え……?」
卯月「わかっています。こんな恋、許されませんよね。だけど私、私……」
凛(卯月が、そんな、そんな……)
バサッ…
凛「あ……」
卯月「え、凛ちゃん?」クルッ
凛「あ、ご、ごめん。邪魔するつもりはなかったんだけど、汗で手が滑って台本が落ちて、その……」
卯月「いえいえ、邪魔なんてことないですよっ」
A「渋谷さんもこちらで、一緒にセリフ合わせしませんか?」
凛「……え、セリフ合わせ?」
卯月「はいっ。3話のラストの場面です、凛ちゃんもご一緒にいかがですか?」
凛「……そ、そっか。そうだよね、はは」
卯月「凛ちゃん? 大丈夫ですか、あまり顔色が良くないですが……」
凛「だ、大丈夫だから。……私もセリフ合わせに混じらせてもらおうかな」
──テレビ──
卯月『……最初に出会った時、優しく声をかけていただいた時から、その、私……あなたに恋してしまったみたいなんです』
A『え……?』
卯月『わかっています。こんな恋、許されませんよね。だけど私、私……』
A『お、落ち着いてください、あなたは今混乱しているんです。今日の星空があまりに綺麗だから、その魔力に飲まれているだけなんです!』
卯月『そ、そんなことありませんっ。私は本当に、あなたのお嫁さんに──』
ゴオオオッ
凛『……何してるの? 2人で、こんなところで』
A『え? あ……こ、これは誤解です!』
凛『ふーん?』
卯月『……』
タラララ タララララ♪
──事務所──
未央「しまむーのドラマ撮影&テレビ放送3話を記念して、かんぱ~い!」
カンパーイ!
未央「ごくごくごく……ぷはーっ!」
卯月「ふふ、未央ちゃんいい飲みっぷりですっ」
未央「あはは、しまむーも飲んで! しまむーは今日の主役の1人なんだからさっ」
卯月「はい、いただきますっ」ゴクッ
未央「そしてもう1人の主役、しぶりん! さぁしぶりんも飲んだ飲んだ!」
凛「……うん」
奈緒「それにしても相変わらずの引きだったな~! 全く焦らすのが上手だぜ!」
加蓮「本当続きが気になるよね。卯月の登場によってさらにストーリーに深みが増して……ふふ、4話制作も近いうちに決まるだろうねっ」
未央「しまむー演技上手だったよ~。何て言うか、堂々と演技できてた!」
卯月「ありがとうございますっ。Aさんにいろいろと演技指導してもらって……スタッフの方もみんな優しくて、その期待に応えようと精一杯役を演じましたっ」
未央「うんうん。しぶりんもすごく良かったよ! なんていうか、負のオーラ? 見たいのが、画面越しにも伝わってきた感じがして」
凛「……ありがと」
奈緒「2人ともネットの反応見てみろよ、すごい反響だぜ?」スッ
1.名無しさん
あん妻今回もすごく面白かった!
卯月ちゃんの演技も上手だったし、いろいろと考察が深まった回だったなぁ
4話も正座待機です!
2.名無しさん
確かに良かった。今まではA→←凛の両思いだったけど、そこに卯月という登場人物が増えて
矢印がどういう風にかき乱されていくのか今から楽しみ
そういえば漫画化の方に動きってあったのかな?
3.名無しさん
卯月ちゃんが登場するって聞いて『どうせ事務所のごり押しでしょ』って最初は思ってたんだけど
3話めちゃくちゃ楽しかったwww 演技も結構いけるんだね卯月ちゃんって
個人的には3話が今までで1番面白かったぐらい
4.名無しさん
いやいや、やっぱ1番良かったのは1話でしょ
あの甘酸っぱい恋物語の感じが好きだったんだけどなぁ。3話はドロドロしててちょっと苦手(;_;)
凛ちゃんもAさんも好きだから見続けるけどね~
5.アイオライトブルー
ふーん。卯月がわた渋谷さんのライバル? ま、悪くないかな
でもAさんの妻は渋谷さんこそふさわしいと思うけどね
Aさんの妻の座を奪いに来るなら、いくら卯月でも渋谷さんは容赦しないんじゃないかな
6.名無しさん
コメントに凛ちゃんいるぞwww
3話はSNSとか見てても評判いいけどな。ただ4さんが言ってるようにちょっと路線変更気味だから
爽やかな内容を望んでる人には不評かもしれない(元々15歳差の子供と大人の恋愛ものだったことには目をそらしつつ)
凛「……」
卯月「へぇ、こんなにたくさんの人が見ていてくれてるんですね」
奈緒「こんなもんじゃないぞ。もっとたくさんの人がドラマを見てるし、感想を書いてるんだ」
未央「あん妻公式のSNSには毎日100通近くメッセージが来るらしいよ!」
卯月「そんなに! へぇ、やっぱり『あん妻』はすごいですね」ニコッ
凛「……」ピク
加蓮「凛ももっと喜んだらどうなの。あの1話から始まって、今じゃ卯月も一緒にドラマの続編作れて、これが嬉しくないはずないでしょ?」
凛「……まあね」
加蓮「まあねって、もう、凛はクールなんだから!」
奈緒「凛は素直になるのが苦手だからな。このクールフェイスの下で、内心飛び上がるほど喜んでるに決まってるぜ!」
アハハハッ
──帰り道──
卯月「……凛ちゃん、最近あんまり元気がありませんね」
凛「そう?」
卯月「はい。……もしかして、私が一緒のドラマに出るの、凛ちゃん嫌だったでしょうか?」
凛「え……?」
卯月「……私に配慮が足りなかったですね。アイドル活動もドラマも私と一緒なんじゃ、凛ちゃん疲れちゃいます」
凛「い、いや、そんなんことない! 卯月と一緒に出れて、ドラマ楽しいよ!」
卯月「そ、そうですか?」
凛「うん、楽しい!」
凛(楽しい……はずなんだ)
凛(だけどどうしてだろう。全然、楽しいと思えない……)
卯月「えへへ。私も楽しいです、憧れの凛ちゃんと一緒に、『あん妻』に出演できて」
凛「……」
卯月「……私、最初は『あん妻』って言葉を耳にするのも嫌で、そのせいで凛ちゃんにもいろいろとご迷惑をかけてしまって」
卯月「だけど、凛ちゃんが『あん妻』のセリフで励ましてくれたから、私ももう一度立ち直ることができて」
卯月「今では凛ちゃんと同じ出演者として『あん妻』の舞台に立てている……私はとても幸せものです」
凛「……ねえ」
卯月「『あん妻』のスタッフの方はみんな優しいです。特にAさんは何度も熱心に演技の指導をしてくれて……こうして無事に『あん妻』3話を演じることができたのは、Aさんがいたからだと思っています」
凛「ねえったら」
卯月「まだまだ私は『あん妻』キャストそして日が短いですが、でも『あん妻』を盛り上げていきたいという決心は、ほかの『あん妻』関係者の方と同じぐらい強いと思ってます。だからこれからも私は、『あん妻』のために……」
凛「卯月っ!!」
ガシッ!
卯月「!」
凛「……あんまり『あん妻』『あん妻』って連呼しないでよ。あんまり気分よくないからね、それ」
卯月「凛、ちゃん……?」
凛「そうだよ。私はあん妻じゃなくて、凛ちゃんだから」
卯月「……はい」
凛「うん……わかってるなら、良いけどさ」
…カシャ
卯月「?」
凛「どうかした?」
卯月「いえ、今カメラの音が聞こえた気が……」
──翌日──
奈緒「『帰り道のあん妻スタッフが偶然激写!』」
加蓮「『凛ちゃんと卯月ちゃんが取っ組み合いのケンカ!? これはAさんを巡っての場外乱闘か!?』」
卯月「……」ポカーン
凛「何、いきなり」
未央「今朝公式SNSに挙げられた写真だよ。ほら、2人とも見てみて」
卯月「! ……これは」
凛「……下品な見出し。それにこういうの、盗撮っていうんじゃないの?」
加蓮「別にいやらしい写真じゃないしいいじゃん」
奈緒「前にもこういうことあったよな。あん時は凛とAさんの2ショットだったが……」
卯月「あー、そういえばありましたね」
凛「……」
凛(……そういえばって)
凛「……私と卯月はプロデューサーのところに行ってくるから」
奈緒「ん、何しに行くんだ?」
凛「写真を消してもらいに行くに決まってるでしょ。あんな品のない煽りまで付けられて、黙ってなんていられないから。ほら行くよ卯月」
卯月「は、はいっ!」
タタタ
加蓮「……もう消しちゃうなんてもったいないなぁ。たった1枚の写真を我慢すれば、かなりのドラマの宣伝を見込めるのに」
未央「さすがに友達まで巻き込んで仲が悪いように書かれたのは心外だったんでしょ」
奈緒「だな。あたしも今回は悪ふざけが過ぎたと思うぜ」
シツレイシマシター
凛「ふぅ。無事消してもらえたようで良かった」
卯月「はいっ、良かったです」
凛「……でも少し気持ち悪さは残るね。すでに少なくない人にあの写真と見出しを見られただろうし」
卯月「ふふ、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。公式さんのちょっとしたおふざけだってこと、みんなわかると思いますし」
凛「……そんなこと、私だってわかってるよ」
卯月「凛ちゃん?」
凛「……」プイ
──テレビ──
司会『今日はこの方に来てもらいました。アイドルの島村卯月ちゃんです!』
卯月『こんにちは、島村卯月ですっ。よろしくお願いしますっ』
司会『卯月ちゃんといえば、あん妻の3話に電撃出演されましたよね。私を含め、多くの視聴者に衝撃が走った展開でした!』
卯月『ふふ、ありがとうございます。私もあん妻での新たな役をもらえると知った時はとても驚きました』
司会『4話への出演は決まりましたか?』
卯月『はい。今撮っているのが何話になるかは分からないんですけど、でも出演はさせていただけるみたいですっ』
司会『おー、それは楽しみですね。ネットではすでに『あん嫁』という愛称で呼ばれ、次回以降の活躍も期待されているみたいですよ』
卯月『あん嫁?』
司会『ええ。凛ちゃんが『あん妻』だから、卯月ちゃんは『あん嫁』というもじりらしいです』
卯月『へぇ……ネットの人って、面白いあだ名を考える天才ですね!』
司会『おー、島村さんもそう思いますか!』
アハハハ…
凛「……」ピッ
未央「あっ!」
楓『本日お邪魔するのはこの宿です。ここの名物はヤドカリ料理らしいですね。宿だけにヤドカリなんでしょうか、ふふっ』
未央「ちょっとしぶりん、急にチャンネル変えないでよ! 私見てたのに!」
凛「……」
──撮影所──
A「おはようございます」
凛「……おはよう」
A「今日は、島村さんとご一緒じゃないのですか?」
凛「……卯月はサイン会の仕事で少し遅れるって」
A「そうですか……」
凛「愛しの卯月に会えなくて残念だったね」
A「え?」
凛「……」
A「いえ、私は何も、そんなつもりで言ったわけじゃ……」
凛「……自分のことを好きになる役に卯月を推薦しといて、よくそんな白々しいこと言えるね」
A「! そ、それは誤解です。自分はただ……」
凛「もし卯月に本気で気があるようならここで忠告しとくけど、手を出してアイドルをやめさせるようなことがあれば、私は一生あんたを許さないから」
A「……誤解です。渋谷さん」
凛「あと、巷じゃ卯月のことを『あん嫁』なんて呼ぶ人たちもいるみたいだけど、いい気にならないでね。卯月にはその気なんて、これっぽっちもないんだからさ」
A「……」
凛「……」スッ
スタスタ
卯月「凛ちゃ~ん!」タタタッ
凛「……卯月」
卯月「すみません。今サイン会が終わって、急いで来たんですけど……」
凛「そっか、お疲れ様」
卯月「凛ちゃんもこれから撮影所ですか?」
凛「ううん。私は今出てきたところ?」
卯月「え、これから撮影ですよね。どこ行くんですか?」
凛「……ちょっと気分転換に、休憩室にでも行こうと思って」
卯月「気分転換ですか。ふふ、私もついて行っていいですか?」
凛「……別にいいけど」
──休憩室──
卯月「そういえば聞きました? 私たちが今とっている撮影って、4話の分じゃないみたいなんです」
凛「どういうこと?」
卯月「決まったらしいんです……映画化が!」
凛「! ほ、本当に?」
卯月「はい。まだ誰にも言っちゃいけないらしいんですけど、監督が出演者の耳にだけは入れておいて欲しいって」
凛「そっか……なんか、いろいろすっ飛ばしての映画化だね」
卯月「でも知名度はかなり上がりましたし、きっと売れると見込んでの判断なんでしょうっ」
凛「……うん。きっと売れるよね」
卯月「あはは、売れますね」
凛「うん。……売れ”ちゃう”」
卯月「え?」
凛「……あ、あれ? 私今なんて言った?」
卯月「売れちゃうって……」
凛「本当? あはは、おかしいね。まるで、売れて欲しくないみたいな言い方……」
卯月「凛ちゃん……」
凛「……」
凛(……私、どうしちゃったのかな)
凛(ドラマなんてフィクションだって言ってたのに)
凛(今はそのフィクションが、何よりもドロドロと気持ち悪い)
卯月「……今日の撮影が終わった後、私の家に来ませんか?」
凛「え?」
卯月「凛ちゃんと一緒にやりたいことががあるんです。ダメですか?」
凛「一緒にやりたいこと? う、うん、別に遊びに行くのは構わないけど」
卯月「ありがとうございます。それじゃあ、今日の撮影も頑張りましょうっ」ニコッ
──撮影所──
カーット!
A「渋谷さん。今のシーンでは、もう少し柔らかい表情をするように心がけて下さい」
凛「……」
A「渋谷さん?」
凛「……わかってる。次から上手くやるから」
A「次に島村さん。島村さんの演技はとても良かったと思います。日曜日に行った練習を、とてもよく復習されていることがわかりました。素晴らしいです」
卯月「素晴らしいなんて、そんなことありませんよっ。Aさんが丁寧に教えてくださったおかげです」
凛「……」
凛(……なんで卯月なんだろう)
凛(なんで卯月が選ばれたんだろう)
凛(なんで卯月が選ばれ”ちゃった”んだろう)
凛(卯月じゃなかったら、誰がAさんと仲良くしようと気にならないのに)
凛(卯月じゃなかったら私もこんな気持ちにならないのに)
凛(卯月じゃなかったらいつも通りでいられたのに)
凛(卯月じゃなかったらよかったのに)
凛(何なんだろうこの気持ち)
凛(決して卯月に対して苛立っているわけじゃないんだ。私は、私はただ……)
凛(私はただ……何なんだろう)
──卯月の部屋──
凛「はぁ……」
卯月「お疲れ様です、凛ちゃん」
凛「今日はたくさん怒られた……演技に身が入ってない私が100パーセント悪いんだけどさ」
卯月「そういう日もありますよ。気を落とさないでください」
凛(誰のせいだと思ってるの)
卯月「辛いことがあったら、なんでも私に言ってください。必ず力になります!」パァァッ
凛「……」
卯月「凛ちゃん?」
凛「……はぁ。その笑顔、反則だから」
モフッ
卯月「凛ちゃんも、こっちベッドに座っちゃってください」
凛「うん……」スッ
卯月「今日はわざわざありがとうございます。疲れているのに、来てもらって」
凛「別にいいよ。約束だったしね。でも、一緒にやりたいことって何?」
卯月「えへへ、実はこれをもらってきたんです」
バサッ
凛「! それってあん妻の……」
卯月「はいっ。あん妻の漫画本、の見本です!」
凛「へぇ。いつの間にできてたんだ」
卯月「映画化を知らされた時に監督さんから頂いてきました。これも関係者だけの極秘事項だそうで」
凛「そっか。じゃあ残念だけど奈緒にはまだ見せられないね」
卯月「はい。でも凛ちゃんと一緒に使う分には問題ないはずですから」
凛「使う? どういうこと?」
卯月「この漫画を使って、一緒に演技の練習をしませんか?」
凛「演技の練習……」
ペラッ
卯月「では私はこのページの、このAさんの役をやりますね」
凛「これAさんなんだ。ちょっと美化されすぎじゃない? 本物はもう少しくたびれてるよ」
卯月「だ、ダメですよ凛ちゃん、そんな風に言っちゃ」
凛「冗談だよ……で、卯月がAさん役? 私は私の役をやればいいの?」
卯月「はい。それでお願いします」
凛「……でも私、正直言って上手くやれる自信ないな」
卯月「どうしてですか? このページってちょうどあん妻1話のラストの部分ですし、あの時みたいに凛ちゃん絶対上手く演技できますよ」
凛「……最近調子悪いんだ。あの時みたいにやれって言われても、多分できない」
卯月「……」
凛「私ね。結局卯月と一緒だったんだよ」
卯月「私と一緒?」
凛「うん。最初はね、卯月の気持ちがなんとなくしかわからなかった」
凛「友達が遠くに行ってしまう時に、少し寂しく感じることがあるでしょ。それと似た様なもんなんだと思ってた、卯月の気持ちの正体を私勝手に決め付けてた」
凛「でも、全然違ったんだよね。卯月がドラマに入ってきてからわかった。この気持ちは、そんな寂しさとは別の何かだって」
凛「私は卯月のことがわからなかったけど、自分のことはわかってる気でいた」
凛「でもそれも全くの勘違いだった。だって私は、今の私が何を考えてるか全然わからないもん」
凛「いつの間にか『卯月じゃなかったらよかったのに』って言ってる自分がいたんだ……だけど、どうしてそう思うのかすら理解できなくて、ドラマにも全然集中できなくて」
凛「でも決して、今の環境を恨んでいるわけじゃないんだ。卯月がドラマに来てくれたことを嬉しく思ったのは本当だし、今まで言ってきた言葉も心からの本音なんだよ」
凛「だけどそうじゃないんだ。私はね、私はただ……」
凛「……私はただ、何がしたいんだろうなって」
卯月「……」
凛「ごめんね。本当に説明下手だよね、私って……」
卯月「そんなことありません。私も凛ちゃんと同じことを悩んでいました」
凛「……」
卯月「自分が何をしたいのかわからないのって、もしかしたら一番辛いのかもしれません」
卯月「だって、答えのないことに悩まないといけないから」
卯月「だから、そういう時は勝手に自分で答えを決めちゃうんです」
凛「卯月……」
卯月「私も、私は一体何をしたいのかなって、随分考えました」
卯月「そして勝手に答えを決めちゃいました。あの星空の日、凛ちゃんの笑顔を見て決めたんですよ」
凛「……」
卯月「私はただ……」
卯月「私はただ……凛ちゃんの笑顔を、1番近くで見ていたいだけなんです」
凛「……」
卯月「それだけなんです」
凛「…………」
コホン
凛『……私はあんたの気持ちには答えられない。付き合うなんて無理だよ』
卯月『……そう、ですよね。ごめんなさい、無理なお願いをしてしまって』
凛『……5年』パッ
卯月『え?』
凛『5年待ってよ。今の私たちは大人と子供。でも5年たてば、私たちは対等な関係になれる。そうでしょ?』
卯月『そ、それはつまり──』
凛『あんたの妻になる未来。それもまあ、悪くないかな』
卯月「……うふふ、いい感じですね。凛ちゃんやっぱり演技がお上手ですっ」
凛「でもまだちょっと固いかな。……ていうか、卯月に対して”あんた”って言うの、すごく違和感あるんだけど」
卯月「それじゃあ少しセリフ変えちゃいましょうか」
凛「だね、そうしよう。せっかくだから、その部分以外のところも書き換えちゃおうよ」
卯月「いいですね」
凛「そうだよ。書き換えちゃえばいいんだ。勝手に答えを決めちゃえばいいんだよ」
凛「そうすればよかったんだ。初めからそうすればよかったんだ」
カキカキ
凛「……それじゃあ改めて、こほん」
凛『……私は卯月の気持ちには答えられない。付き合うなんて無理だよ』
卯月『……そう、ですよね。ごめんなさい、無理なお願いをしてしまって』
凛『……5年』パッ
卯月『え?』
凛『5年待ってよ。今の私たちは子供と子供。でも5年たてば、私たちは対等な関係になれる。そうでしょ?』
卯月『そ、それはつまり──』
凛『卯月の妻になる未来。それもまあ、悪くないかな』ニコッ
卯月「……」
凛「……」
卯月「……凛ちゃん。すごくいい笑顔でした」
凛「……そっか。次はもう少し近くで笑ってみよっか?」
卯月「……いいんですか?」
凛「……別にいいよ。その代わり、卯月もその距離で笑ってね」
卯月「……はい」
凛「ずっとずっと笑っていてね」
卯月「はい。ずっとずっと笑っています」
凛「笑ってなかったら書き換えちゃうから。ドラマの台本みたいに」
卯月「……はい」
凛「無理にでも書き換えちゃうからね。卯月の笑顔はいつも私に向いてるんだよ」
卯月「はい」
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