元スレ北斗「趣味はヴァイオリンとピアノかな☆」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ☆
1 :
北斗「それは、女性の滑らかなフォルムに通じる美しさを持っていますから」
インタビュアー「へえ。女性と楽器を同じように愛でていらっしゃるんですか?」
北斗「そうですね。俺の腕に抱かれて……かわいらしい、鳴き声が耳を叩いて。ちょうど女の子を抱きしめた時のドキドキに似てるかな?」
北斗「ん? わからないなら教えてあげますよ。俺ならレディにも同じ高鳴りを教えてあげられる……」
インタビュアー「あっ、ちょっと北斗さん……!?」
冬馬「おい、北斗!」
北斗「……っと! こわいこわい。この話は後でしましょうか。個人的に、ね♪」
インタビュアー「は、……はひ」コクコク
冬馬「おいっ! 北斗マジメにやれ! レッスンしてる中でのインタビューなんだぞ! 燃える気持ちを伝えろよ!」
翔太「もう冬馬くん。北斗くんのスタイルはもう崩せないってわかりなよー」
北斗「そうそう。愛だよ冬馬。アモーレこそ俺たちがエンジェルちゃん達に伝えなきゃいけない気持ちさ」
4 = 1 :
冬馬「そんなんじゃ765の天海達に笑われっぞ! ……いや待てよ? あっちが絆ならこっちは愛を押していくのは……ありか?」
翔太「あっ、やばい」
冬馬「…………よし! 愛だ! 次のライブ俺達三人で愛を表現するぞ! ラブトライアングルだ!」
北斗「オーケー冬馬。クールダウンだ。クリームソーダを一杯やりにいこう」
真「だから、響のダンスはさー、最初テンポ速いんだよ」ガチャ
響「ううーちょっと気合い入れ過ぎちゃったかな。でも歌は……ってジュピター!?」
翔太「あっ765のお姉さんたちだ」
北斗「チャオ☆」
春香「なんでここに!?」
千早「あら……私達が、間違えた訳ではないわよね」
北斗「ルームの予約、次キミ達だったのか。インタビュー押しちゃって退出が遅れてはち合わせちゃったね。
うん、これは恋の神のおもしべしかな」
真「な、なに言ってるんですかっ! 早く交代して下さい! これからボクたち歌のレッスンなんです!」
5 :
ジュピターssとは珍しい
6 = 1 :
翔太「残念だなー。ちょっとおしゃべりしたかったのに」
やよい「今は『れべるあっぷ』しなきゃいけないんですー……」
亜美「そうだそうだー! やよいっちの言うとーり!」
真美「帰れあまとう! かーえーれ! かーえーれ!」
冬馬「なんで矛先を俺に絞りやがんだ!?」
翔太「かーえーれかーえーれ」
冬馬「翔太っ! てめえまでナチュラルにそっちついてんじゃねえぞ!」
北斗「うーん、情熱に燃えるエンジェルに水を差すのは忍びないね。今日はお暇しようか」
冬馬「ちっ!」
千早「……あら。ピアノの譜面台に、楽譜がありますね。これ、書きかけ……?」
北斗「! ああ、すまない。すぐに片づけるよ」
亜美「ほくほくのなの?」
北斗「あはは、趣味でね」サッサッ
翔太「レッスンが始まる前に一人で一番先に来て、弾いてるよね」
7 = 1 :
北斗「よし。これでこのピアノは穢れを知らないピュアに戻ったよ。俺との思い出だけを胸に秘めて……」
千早「軽快なアレグロから哀愁漂うアダージョに」
北斗「!」
千早「……不思議な曲ですね。転調に悲痛さだけではない何かを感じます」
北斗「わかるのか。…………あははっ! 素晴らしい目を、いや感性をお持ちだね」
千早「それ、もしかして、あなたが?」
北斗「趣味さ。お恥ずかしい。まだまだ貴方の目に適うシロモノではありませんよ」
冬馬「おいっ北斗! いくぞ! 反省会だ!」
北斗「あはは、では失礼! 千早ちゃん」
春香「急がせちゃったみたいですいません」
冬馬「……俺らが出ていくの遅れただけだ! 悪かったな! お前らもレッスン手を抜くんじゃねーぞ! 本気でやれよ!」
春香「あ、はい」
伊織「謝りはするのね……」
8 = 1 :
北斗(やれやれ。俺としたことが去り際にデートに誘うセリフも出てこないとはね)
北斗(どうも、あの曲に関わっては初心な子どもに戻ってしまうな)
冬馬「……で、だな、次のライブにはなんかサプライズを入れてみようって思う訳だ」
翔太「それならさ、アーティスト的な一面見せよーよ。北斗くん!」
北斗「なんだい?」
翔太「ピアノ弾いてみない?」
冬馬「そうだな。北斗の生演奏を入れるのもありかもしれねえ……って、お前腱を痛めてんだろ?」
北斗「ああ、長時間はムリだね。ヴァイオリンなら披露できるが」
翔太「ピアノでもヴァイオリンでもお客さんのお姉さんたちは喜んでくれるよ。要はクールな北斗くんを見せればいいんだ」
冬馬「お前……計算高いな」
9 = 5 :
あまとうさすがあまとう
10 = 1 :
北斗「……」
――「いやだ! いやだよ母さん! 言われたからやってきたんじゃないんだ!」
――「ピアノが好きなんだ!」
――「それなのにピアニストを諦めろって……っ!!」
北斗(……やれやれ我ながら未練がましいね)
北斗(ピアニストを諦めて、ビジュアルを生かすモデルになって、アイドルとして歩いていると思ったらこれだ)
北斗「――ピアノ、やるよ。一曲なら大丈夫さ」
翔太「おおっ! やった!」
冬馬「あえてピアノかよ……根性見せるじゃねえか、北斗」
翔太「あ、でも無理はしないでよね。傷めた腱を悪化させて北斗くんから大切な趣味まで奪いたくないから」
冬馬「やるからには本気でやれよ!! ファンにも自分にも後悔残すんじゃねぇぞ!」
11 = 1 :
北斗「無理はせずホンキで、ね。難しいこと言ってくれるじゃないか」
冬馬「言いたいことわかるだろ」
北斗「ああ……最高のパフォーマンスをしてみせる」
翔太「何をひく?」
北斗「クリスタルダストを弾き語りしてみようかな」
翔太「うんうん、クールっぽさが合ってるんじゃないかな」
冬馬「うしっ、練習だな。今からまたスタジオ借りてくる!」
翔太「気が早いよ冬馬くん!」
北斗「やれやれ。落ち着きがない男はレディーに軽くみられることを知った方がいいな冬馬は」
北斗(モーツァルト交響曲第41番『ジュピター』の生演奏には何度も足を運んだ)
北斗(壮大にして、荘厳。あの天界のようなダイナミクスは他の曲には無いものだ)
北斗(だが、同じ名前なのに俺達はまるで青い。あの名曲とは比べるべくもないだろう)
北斗「でも――悪くないけどね」
12 = 1 :
――
――――
北斗「さあ傍においで 近く深く ♪」
北斗「こよなく貴女と Crystal Dust ♪」
ジャーン♪
翔太「イイ感じじゃん、北斗くん!」
冬馬「まあ、こんだけのレベルだったら北斗のソロで問題ねえだろ」
北斗「ああ……」
冬馬「どうした?」
翔太「ああー、僕らに褒められてもうれしくないよねー! お姉さん達にウットリしてもらわなきゃ」
北斗「……」
北斗「そういうことさ☆ やはり俺の声も音も、エンジェルちゃん達を俺に縫いとめるためにあると実感したよ」
冬馬「お前は……どうしてそうなんだよ。俺ら集まる前からピアノに向かってた癖しやがって」
13 = 1 :
翔太「北斗くんはスマートだからねー。あんまり汗臭いとこ見せたくないんだよ。冬馬くんと違って」
冬馬「ああっ!? オレが汗臭いってなんだよ! 翔太、お前も同じくらいレッスンで動いてるだろーが!」
翔太「まぁねー。だからお腹すいちゃった。もう時間だしゴハン食べにいこーよ」
冬馬「あ、……あ? おい話ずらしてんじゃ……」
北斗「……」サッサッ
北斗「さ、いくぞ冬馬」
翔太「今日はどこにいこっか。明太子スパゲティ食べたいなー。後サンドイッチとクリームあんみつ。ロイヤルミルクティも外せないよね~」
冬馬「あんまり食いすぎたら会計別々にするからな」
翔太「えー、そんな成長期つかまえてそんなこと言わないでよーお兄ちゃん」
冬馬「誰がお兄ちゃんだ!? だいたいお前は――」
北斗「あれ」
千早「あら」
14 = 1 :
春香「あ、おはようございまーす」
貴音「む。これはこれは『じゅぴたぁ』の」
美希「また会ったの」
冬馬「……!! どうしてこう、お前らとはち合わせるんだ」
春香「あはは、ライブ前のレッスン期間が被っちゃってるみたいで……」
翔太「会えてうれしいなぁ。調子どう?」
やよい「やる気も元気もマンタンですっ!!」
北斗「……ああ、この前はどうも」
千早「そのファイル」
北斗「!」
千早「また『作って』いたんですね」
15 = 1 :
北斗「……そうさ。ちょくちょくヒマを見つけてね」
千早「ライブが迫っているのに、忘れられませんか」
北斗「あはは。やっかいなことに麗しのミューズは、気まぐれでね。その寵愛を受けるチャンスは逃したくないんだよ」
千早「……あなたの記事読みました。ピアニスト志望、だったとか」
北斗「おやおや。俺に興味を持っているのなら、いつでも訪ねてくれれば歓迎するのに」
千早「あなたのあの曲の、背景を知りたかったからです」
北斗「あらら。参ったな。俺はおまけみたいだ」
千早「聞いてもいいですか? 伊集院さん。あなたにとってピアノってどのようなものなんですか」
北斗「趣味だと教えたはずだけど……忘れちゃったかな?」
千早「よほど思い入れがあるように、今、感じたので」
北斗「このファイルの楽譜か。あはは。エンジェルちゃんに聞かせるような華やかなストーリーはないよ」
千早「そうですか。……教えていただけないようですね」
16 :
かっか
17 = 1 :
北斗「俺の秘密を明かすなら、もう少し上等な場所がふさわしいかな。さて、じゃあレッスンがんばってね。チャオ☆」
千早「ええ、失礼します」
冬馬「いいか! 今度は絶対来いよ!」
春香「はいきっと必ず!」
北斗(……ん?)
翔太「キミ達にだけサービスでこっそり教えるけど、次のライブ、北斗くんがピアノを生演奏するんだ」
やよい「ぴあの……ふぁー、すごいですー」
伊織「な、なによピアノくらい……っ!」
冬馬「俺達のパフォーマンスしっかり目に焼き付けろよ!」
春香「はい絶対ジュピターのライブに行きます!」
冬馬「よぉーしっ! まああれだけどな! 来なかったら来なかったで全然気にしねえがな!」
千早「あら。また会う機会がありそうですね。あなたたちが盛り上げる会場、『上等な場所』として認識してもよろしいですよね?」
北斗「……冬馬。お前というやつは」
18 :
ヴぁ~い
19 = 1 :
――
――――
北斗「だめだねぇ……これはいけない。イマイチ歯車がかみ合ってない」
北斗(本当に、人に聞かせるような話じゃないんだよ。千早ちゃん)
北斗(ピアニストの夢が絶たれて、ピアノは俺の夢から趣味になって……)
北斗(それは結局女々しい未練で、でも好きという気持ちはどうしようもなく捨てられなくて)
北斗「あの曲は、未練の塊。それで……俺を総括するためのものにすぎない」
北斗「恥ずかしくって、言えないね。レディのことを考えてない伊集院北斗のことなんて」
20 = 1 :
北斗(自販機でコーヒーでも買っていくかな。財布財布……っと)
ビキ
北斗「――?」
北斗「今の感触……」グッパッ グッパッ
北斗「……」
――♪
北斗「! メール!? なんだ冬馬か。……『明日のライブ限界を超えたジュピターを見せてやろうぜ!!』」
北斗「ああ、分かってるよ……」
北斗(ライブは、明日だ)
22 = 1 :
――
――――
冬馬「ふたりならば 恋を始めようよ ♪」
ワァアアアアアアアアアアアア!!!
翔太「次だね! 北斗くんバシッと決めちゃってよ!」
北斗「ああ、冬馬が作ったムード、今度は俺色に染めるとしようか☆」
翔太「……いつも通りだね」
北斗「ああ。安心したろ? ――行ってくる」
幕が閉じられ、ステージにピアノが運び込まれる。
暗転した空間で、あの音の匣が俺を待ちわびている。
23 :
北斗晶じゃねーのかよ
24 = 1 :
椅子に腰かけ、マイクの位置を確認してから、目を閉じる。
仲間を、ファンを、一時頭の片隅へ。
心を静粛に、意思のすべてを演奏のイメージに注ぐ。
これは音楽神ミューズに相対するための、礼節。
北斗(……ふ。なんど求愛すれば振り向いてくれるのやら……)
幕が上がる。
ライトが俺と、今宵ステージにいっしょに立つ『恋人』を照らす。
北斗「――」
指が白い鍵に触れ、音が滲みだした。
北斗「抱きしめたい 貴女を心も身体も… ♪」
25 = 1 :
北斗「今貴女の全て 強く奪いたい… ♪」
北斗(いいね。イイ一体感だ)
北斗(千早ちゃん……この演奏を聞いているのか)
北斗(かっこいいとこ見せないとね)
演奏の最初こそ歓声が上がったものの、今は演奏と俺の声だけが会場に響いている。
いっそ不可思議なほどの静寂。
俺の音と声を、皆が懸命に聞いてくれている。
北斗「愛してたい 貴女を夢でも永久にでも ♪ ――――」
北斗「離さない終わらない Crystal Dust ――! ♪」
春香「すごいなぁー」
千早「ええ、軽やかで……それでいて、とても繊細で……」
26 = 1 :
北斗「願いを今夜一瞬だけでいい どうか 届け …… ―― ♪」
北斗(ここの伴奏が終われば、最後の……!)
―― ピ キ
北斗(!! 指が――っ!?)
千早「! 音が乱れた」
春香「え、そう?」
北斗(腱……! まさか……十分注意して、いたのに)
27 = 1 :
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
北斗『……違う。ここのリタルダンドはこんな厭らしい感じじゃないんだ』
北斗『これじゃあフーガ気味になってく曲調につなげられない……二小節目だな、歪み始めは』
北斗『もう一度――』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
北斗(あの、『もう一度』のせいかな……っ)
北斗(これじゃあ、エンジェルちゃん達に失礼だ)
北斗(それに、冬馬、翔太――――)
北斗「――――!」バッ
北斗「抱きしめたい 貴女を心も身体も ♪」
28 = 1 :
春香「あれっ、いきなりアカペラ」
響「ラストの演出かー!」
千早「……?」
北斗「このまま真冬の所為にして―― ♪」
北斗(ラストの演奏は外せない……!)
北斗(最後の40秒……もつように……!)
北斗「さあ傍においで 近く深く ♪」
北斗(タイミングだ……)
北斗「こよなく貴女と ――♪」
北斗「 Crystal Dust ――! ♪」 ♪~
29 = 1 :
響「おお、最後に、演奏が戻ってきた」
亜美「ほくほくもなかなかやりますなー」
雪歩「きれいな音……だね」
千早「――ええ。とても」
・
北斗(やれやれ、なんとか合わせられたか。練習で慣れていてよかった)
北斗(…………いや、活かせたのは、痛みを抱えたままムリに弾いていた高校生の時の経験もだな)
31 = 1 :
――
――――
翔太「お疲れー!」
冬馬「ああ、最高のパフォーマンスだったぜ! お前らよくやった!」
翔太「おお、あの冬馬くんが手放しに褒めてるよ」
冬馬「ったりめえだろうが! 俺が褒めちゃ変かよ!」ガシガシ
翔太「わわっ」フラッ
冬馬「……っと、なんだよ翔太。お前ガソリン切れじゃねえか」
翔太「いつもより多く回っちゃったからねー……。あれ、北斗くん? 手を押さえて……どうかしたの?」
北斗「ん? ああ、ちょっとね」
冬馬「そうだ……お前、あの演奏中断のアドリブ、最初から計画してたのか?」
北斗「いやいや。俺はただ、ピアノに導かれるまま……」
冬馬「どうなんだよ北斗。教えてくれ。どっか傷めたのか」
北斗「……おいおい、いきなりシリアスな顔つきになるなよ」
32 = 1 :
翔太「手、痛いの!? ねえ!?」
北斗「ふぅ……ほんの少し、ね。だが心配には及ばない。明日にはひいているぐらいの痛みだ。活動に支障はないよ」
冬馬「そう、かよ」
翔太「楽しそうにピアノ弾いてたのにねー……」
冬馬「趣味には口出したくねえけどよ……あんまり、作曲に入れ込みすぎるなよ。お前の腕も、指も、パフォーマンスに欠かせねぇんだから」
北斗「ああ」
冬馬「あ、でも、あれだ。それでも……なんか納得してぇことがあるんだったら最後までやるべきだって思うぜ」
北斗「……」
翔太「あはは! 北斗くんが目を丸くしてるよぉ! ピアノの趣味続けてほしいって言ってるんだよ? わかる?」
北斗「あっはっは! 男にされても有り難くないが、気遣いアリガトウ冬馬」
冬馬「なっ! 誰が!」
三条馬『お客さん入れてあげてもいいかしらー?』
33 :
プロレスラーのほうかと
34 = 1 :
冬馬「あ? マネージャー! 誰が来たんだよ?」
翔太「ジョバちゃんどうぞどうぞ入れてあげてー!」
冬馬「コラ!」
ガチャ
千早「……失礼します。765プロの如月千早です。ライブ、とても感動しました」
冬馬「おおっ!?」
北斗「……」
北斗(なんだ、俺。驚いていないな。なんとなく来るだろうと予感していた)
春香「あはは、どうもーお疲れ様です」
律子「どうも、失礼するわ」
35 = 3 :
しえん
36 = 1 :
冬馬「お、おう。お前らなんだ……アイドルが、男のとこに……! それもライブ終わったばっかの汗臭さムンムンのライバルの控室に!」
春香「らいばる?」
律子「そういう危惧はこちらでもしてるわよ! だからプロデューサーである私が付き添って監督してるの!」
翔太「あはは、冬馬くん動揺しすぎだって」
冬馬「すぅー、はー、……で、どうしたよ天海。俺らになんか言いたいことあるんだろ?」
春香「え? は、はい! ライブすごかったです!」
冬馬「そうだろそうだろ! お前らにも負けやしねぇだろ!」
千早「手……大丈夫なんですか?」
北斗「! これは驚いたな、どうして知ったんだい?」
千早「アカペラの少し前、音がほんの一瞬不自然に乱れました」
北斗(……! 本当、なのか。自分ですら覚えていないのに、この子は音で気付いたと?)
千早「――それと、あなたは、ああまで高まった旋律を放りだせない人だと思いましたから」
37 = 1 :
北斗「……で、演奏を止めたのはおかしいと。褒めてくれてるのかな?」
千早「はい。外見とは全く印象が逆の、深く静かな情熱に満ちた音色。技巧はそれほどではないにしろ…………
あ、すいません。あなたをおとしめている訳では」
北斗「いや、うれしいよ」
北斗「その評価、とても――――うれしい。本当に」
千早「……こほん。指は大丈夫なんでしょうか?」
北斗「大丈夫。これから君を抱きかかえることだって余裕だよ」
千早「そういうことではなく」
北斗「……もう二度とピアニストの夢は追えないだろうね」
千早「……っ! す、すいません。そこに踏み込むつもりは……っ!」
北斗「あははは! ようやく君の溶かし方少しわかってきたよ……冗談さ、気にしないで」
北斗「本当に、大丈夫さ。普通にしていれば活動に影響はないし、趣味でなら続けられる」
38 = 1 :
千早「そう、ですか……あの!」
北斗「?」
千早「ピアノ、辞めないでくださいね。その、私、あなたには続けていてほしいと思うんです」
北斗「おやおや、『二回目』。ま、冬馬よりは断然嬉しいよ。趣味はそう捨てられるもんじゃないよ、大丈夫」
千早「趣味……」
千早(私がもし歌えなくなったら……声が出ず、伸びず、やっていけなくなっても……私は趣味で続けられるのかしら)
千早(もしかしたら、私、それを確かめたいからこの人の所に……)
北斗「趣味と言えば……俺はね、ブルックナーが好きなんだ」
千早「!? ぶ、ブルックナーですか! 私も第9番に惹かれて……っ」
律子「ちーはーや。もうおいとまするわよー」
千早「え、あ、律子?」
春香「ジュピターさんたち疲れてるから、あんまり残っても、ね?」
千早「そ、そうね……」
39 = 1 :
千早「では、あの、失礼しました。また……」
千早(あれ、『また』……?)
千早(なに言ってるの千早! ライブに招待されるのならともかくこっちから会うのを望むような言い方を。男の人に向かってはしたない……!)
北斗「またね、チャオ☆」
千早「……」
千早(また、軽い雰囲気に……)
律子「ではお邪魔しました! 765プロも負けませんからね!」
春香「失礼しましたー!」
ガチャ
黒井「…………ふん」
律子「う、うわわ! く、黒井社長!?」
40 = 3 :
しえん
41 = 1 :
冬馬「――っ! オッサン! 何しに来た!」
三条馬「黒井、社長!? お久しぶりデース……!」
翔太「労いのコトバをかけに、とか……ないか」
黒井「当たり前だ。……ふん、多忙な私が暇を見つけてわざわざ足を運んだのは、こんな無様なライブを見るためではなかったのだがな」
冬馬「なんだとっ! オッサン目が腐ってんじゃねえのか! 俺らは最高のパフォーマンスをしたんだ!」
黒井「ふんっ、トップアイドルになると大言壮語を吐いておいて、この程度のレベルで満足するとは笑わせる」
冬馬「んだと……っ!? 頂点に立つ価値があるっつったのはオッサンだろうが」
黒井「その素質を腐らせているのは貴様だ。もっと飢えろ。決して満足するんじゃない。メンバーの堕落にも気付かぬほど錆びているとはな」
冬馬「あ……?」
黒井「北斗。貴様、お遊びのあのピアノですら満足に弾けんとはな。素人以下だ」
北斗「!」
千早「……っ」
42 = 1 :
黒井「お前のあの演奏などで金はとれんし、人を惹けん」
千早「そんなこと……!」
北斗「気付いてましたか……」
黒井「あのピアノの価値は、アイドル伊集院北斗が演奏しているという音楽の外に付随するものでしかない」
黒井「おまけ、だ。そのおまけすら軽く使いこなせず、ミスをステージに残すとは」
黒井「今宵のライブ、貴様が一番ゴミだった」
北斗「……返す言葉もありませんね」
冬馬「うまくいったんだからいいじゃねえか!」
黒井「甘い。その結果論への逃避、冬馬お前もトップアイドルから百歩後退したぞ」
冬馬「ぐっ……」
律子(生で見たのは初めてかも……黒井社長の、指導を……指導なのかしら、これ)
黒井「実際、慄いた。ここまで弱くなっているとはな」
43 = 1 :
千早「待って下さい、伊集院さんはちゃんと――」
春香「千早ちゃん!」
黒井「……挙句の果てに、765プロの小娘どもに慰められる、か。救いようがない」
千早「く……」
翔太「そこまで言わなくてもいーんじゃないかなぁ……」
黒井「中途半端なパフォーマンスなど見せられるだけ時間の無駄だ!」
冬馬「そんなことだけ言いにきやがったのか!! なめんな! 次は、絶対オッサンの度肝を抜くようなアピールを見せてやる! なあ北斗!」
黒井「ふんっ、そのナマクラな指でか」
北斗「…………できるかぎり、研いでみますよ」
三条馬「はいはい! 黒井社長!」
翔太「ジョバちゃん?」
三条馬「ライブを終えた面々にちょーっと素直じゃない激励ありがとうございました! どうぞお帰りはあちらでーすっ」
44 = 1 :
黒井「……ふん、そうだな帰るとしよう。三条馬、お前も961を出てとんだやつらに付いたものだな」
黒井「――ナマクラは溶かして鍛え直すしかない」
千早「え?」
黒井「それを知らぬフリで、前進せんとはな。ふん、臆病さはアイドルにとって枷にしかならん」
黒井「まあ貴様らのこれからなど、もはや私に関係ないがな」
北斗「……黒井社長。あの口利きしてくれた病院」
黒井「さらばだ、七等星のクズ星諸君」カツカツ
翔太「あ、あはは、あでゅ~……」
冬馬「なにしに来やがったんだ、オッサンめ! 意味のわからねえことばっかりよ!」
三条馬「カレツよねー」
律子「ハッパかけに来たような、単に言いたいこと言いに来たような……と、私らも行きましょうか」
千早「少し待って、律子。あの、伊集院さん」
45 = 3 :
しえん
46 = 1 :
北斗「……」
千早「病院とはなんのことですか?」
冬馬「そうだ! なんのことだ北斗! なにか隠してるんじゃねえだろうな!」
翔太「冬馬く~ん、ウップンを北斗くんにぶつけるのはやめようよ」
北斗「……ふ。隠せないね、もう。――検査の話さ」
三条場「検査? もしかしてどこか悪いの?」
千早「腱、のこと」
北斗「そう。961時代、ピアニストを目指してたって言ったら社長にね、『そういった活動に広がりが出る能力はどんどん磨いて売り物にしろ』って言われてね」
北斗「で、腱を痛めてるって話をしたら、腱断裂について精密な検査が出来る病院を教えられた。音楽業界の人もよくかかってる所だそうだ」
千早「それって」
翔太「え!? 北斗くんの手、直るの!?」
47 = 1 :
北斗「それを見極めるための検査さ。断裂している腱が多ければ、再建手術は困難になる」
翔太「でもでも、可能性あるなら行ったらいいじゃん!」
北斗「あはは……」
律子(なんで笑うの……?)
冬馬「ははぁ、北斗、てめぇアレか」
冬馬「手術でよくなる見込みがあるか。その手術は可能か。他に、可能だったとして成功率はどれくらいか。リハビリにかかる時間で伊集院北斗は色あせないか」
冬馬「そんなこと悩んでるな。答えが明らかになるのが怖えんだ」
千早「!」
北斗「冬馬……」
冬馬「どうなんだよ!」
北斗「はぁ…………やれやれ、エンジェル達の前で。――ああ、その通りだよ」
48 = 1 :
冬馬「ちっ、いつも飄々としてやがるくせに、ヘタレやがって」
春香「でも、怖いと思う。もし見込みがないって言われたら、それ死刑宣告みたいなものだから」
冬馬「まあ、気持ちは分かるけどよ。それで現状維持を選ぶなんざただの臆病者だって俺は思うぜ」
春香「……うん。冬馬君は躊躇なくていいよね」
冬馬「天海。お前だって…………っておい! ジュピターの話に口を挟むな! さっさと帰りやがれ!」
千早「伊集院さん。検査、受けてみませんか……いえ、受けてほしいです」
北斗「千早ちゃん?」
冬馬「がっ! 如月まで」
千早「精密な検査を受ければ、もしかしたら当時とは違う診断が出るかもしれません。それで、可能性が開かれるかもしれません」
千早「一度、無くしてしまった夢が蘇る余地があるのならば……私はその再会に向けて進んでほしい」
千早「――そう、思います。すいません。無礼に響いたのなら謝ります」
北斗「…………」
49 = 1 :
北斗「ふっ」
北斗「――――そう女性に願われたらば、動かないのは伊集院北斗じゃないね」
翔太「おお! やった! 北斗くん!」
冬馬「そうだ! トップを目指すんだったら、恐れてないで挑戦するしかねえだろうが!」
三条馬「冬馬君。それ黒井社長が最後に言ったのと同じ」
冬馬「……ああっ!? 俺があのオッサンと同じだっていうのかよ!? と、とにかく行ってみろよ検査!」
北斗「いや、ありがとう。千早ちゃん」
千早「い、いえ」
北斗「冬馬、翔太。もしかしたら展開次第じゃ、ジュピターの二人体制が続くかもしれないぞ?」
冬馬「それぐらいカバーできなくてトップアイドルになれるかよ。それにお前が速攻で治せば問題ねえ」
翔太「無茶ぶり~! あはは! でも北斗くんのためなら僕がんばってあげよっかなー!」
北斗「…………感謝するよ。みんな」
50 :
これは面白いな
みんなの評価 : ☆
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