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元スレ魔王「勇者がワンパンで沈んだ」
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魔王「またごめんだけどちょっと待って」
勇者「なんだ?」
魔王「祈りの手順に何か余計なものが混じっていたような気がするんだけど」
勇者「そうか?」
魔王「……あたしの気のせいならいんだ。気のせいなら。
なんだっけ。気を整えて、拝んで、祈って?」
勇者「構えて突く」
側近「……」
執事「ふむ」
魔王「それに十時間以上だったっけ?」
勇者「そうだ」
魔王「……そっか」
祈りが終われば倒れるように眠る。
起きてはまた祈るを繰り返す日々。
一ヶ月を過ぎたころ異変に気付く。
祈り終わっても日が暮れていない。
完全なる羽化。
感謝の祈り、一時間を切る!
かわりに突く時間が増えた。
魔王「突く時間が増えたって」
勇者「努力家だった」
側近「迷走してますけどね……」
執事「……」ワクワク
そして数カ月後、教会についた僧侶の拳は。
音を置き去りにした。
(気の……せいだよな?)
(一瞬……消えて)
(音が後から……)
「神父さま……?」
神父「ま、魔王……」
僧侶「グルルルル……」
神父「なんでもいたしまする……」
僧侶「ガアッ!」
神父「ぜひわたくしめを見逃していただきたい……!!」
勇者「よかろう、飯をおごってくれたらな」
魔王「……」
側近「……」
執事「……」ジーン……
勇者「それからは魔族と戦っても負けなしでな。
文字通りなぎ倒し蹴散らしついでにひねりつぶし、ここまで来たというわけだ」
魔王「それであたしを倒した後はどうなるか分からず怖くて逃げてきたと」
勇者「いかにも」
魔王「はた迷惑な」
魔王「ていうかあたしよくそんな奴と渡り合えたね……」
勇者「俺を全速力で追ってきて疲れていたんだろう」
側近「疲れていてあれっていうのも恐ろしいですが」
勇者「いろいろ言いたいことはあるだろう。
だが時間はない。目の前の問題に向きあうべきだ」
魔王「……そだね」
側近「とりあえず魔王軍を動かしましょうか?」
魔王「それは大袈裟――」
僧侶『キシャァァァァアアアアア!』
魔王「……じゃないね全然」
側近「東に向かって防衛線を張ります」
魔王「お願い」
ばかやろう
防衛網をはったらその分レベルがあがってしまうじゃねえか
防衛網をはったらその分レベルがあがってしまうじゃねえか
魔王「執事くんは」
執事「申し訳ありませんがわたくしは独断で動かせていただきたく存じます」
魔王「いいよ。執事くんがあたしのいうこときいたことなんてないもんね実際」
執事「はは! ありがたきお言葉!」
側近「ありがたくはないと思いますけど……」
勇者「よきにはからえよきにはからえ」
魔王「なにふんぞり返ってるのさ。
あんたにも頑張ってもらうんだからね」
勇者「なんと」
魔王「当たり前でしょ、元凶はあんたと言っても過言じゃないし」
勇者「ありがたい、俺にも仕事があるのか」
魔王「今まであんたがどんな勇者してきたかわかった気がする」
勇者「それで俺は何をすれば?」
魔王「そうだねー。こまごましたことは側近ちゃんや軍に任せるとして」
勇者「として?」
魔王「あたしたちはトレーニングかな」
勇者「鍛錬か」
・
・
・
<魔王城から東に二百キロ>
「グルルルルルルルルル……」
魔王「はあ……ふう……」
勇者「どうした魔王。その程度か」
魔王「……」
勇者「それではあの僧侶にはおろか俺にも勝てんぞ」
魔王「っ……」キッ
勇者「ふははは!」ダッシュ!
魔王「あの野郎逃げ足だけはレベルマックスですか……」
勇者「どうしたやる気はあるのか魔王ー!」
魔王「逃げばっかのあんたにそっくりそのまま返ーす!」
・
・
・
勇者「いらついたからってあんなに殴らなくたってよかったじゃないか」
魔王「うるさい。あと殴ったのは三発だけ」
勇者「俺の貧弱さを舐めるな、三発で死ねるぞ」
魔王「それだから鍛えてあげようってのにあんたはー!」
勇者「そうは言うがな」
魔王「言い訳無用!」クワ!
勇者「もし僧侶に勝てなかったときはどうするのだ」
魔王「……。それは」
勇者「逃げるしかあるまい?」
魔王「そう、なるのかな?」
勇者「ならば今の内にかけ足の鍛錬をしておこうという俺の考えは間違っていないはずだ」
魔王「順番がおかしいでしょ。逃げることを前提にトレーニングしてどうするのさ」
勇者「君は戦う。俺は逃げる」
魔王「却下」
勇者「なんと」
魔王「あんたにも戦ってもらうよ。だってあんたが持ってきた厄介事だし」
勇者「だが俺の本質は逃げることであり」
魔王「右ストレートが火を噴きそう」
勇者「勇気ある者と書いて勇者! 逃げるなど弱者のすること!」
魔王「よろしい」
勇者「というわけで俺は走り込みを」
魔王「逃げるな右ストレート!」
[残り二日]
<次の日>
側近「元帥さん、防衛線の構築はどんなものですか?」
元帥「ほぼ完了しておるよ、心配せんでいい」
側近「それは良かったです」
元帥「だがあの話は本当かね。にわかには信じがたいのだが」
側近「ああ、あれですか……」
元帥「魔王城がたった一体の化け物に攻略されかけた。
そしてわが軍はこれからそいつを迎え撃つと」
側近「信じがたいでしょうが本当です、としか……」
元帥「ふむ、あなたがそういうのならばそうなのでしょうな」
側近「ええまあ」
元帥「それほどの手練とは」
側近「手練というか」
元帥「相対するのが楽しみです」
側近「元帥さんの期待通りであることを祈ります……」
元帥「?」
側近「いえ。では行ってらっしゃいませ」
元帥「ええそれでは」
<魔王城から東に五十キロ>
魔族兵「なあ、聞いたかお前。今回の敵は人間一人らしいぞ」
魔族槍兵「何だと?」
魔族兵「俺たちの数は千だ。話が本当なら千対一だ」
魔族槍兵「……その話が本当か疑わしいが……もし本当ならば今回の戦は楽勝だな。
むしろ動かす兵が多すぎで問題になる」
魔族兵「それなんだが」
魔族槍兵「なんだ?」
魔族兵「上は増援をよこす用意をしているらしい」
魔族槍兵「?」
魔族兵「理解が追いついていないようだな。俺もだ」
「ん? あの地平線の上に見えるのはなんだ?」
魔族兵「?」
「どんどん近付いてくるぞ! 速い!」
魔族槍兵「まさか……」
「来たぞ、奴だ!」
「う、うわあああああああ!」
・
・
・
魔王「え?」
勇者「ふむ」
側近「……」
魔王「今なんて?」
側近「ですから、僧侶と思しき敵と魔王軍がぶつかり、突破を許してしまったということのようです」
魔王「……」ポカーン
勇者「想定の範囲内だな」
魔王「明らかに範囲をぶっちぎってるよ!」
魔王「あんた、あと三日って! 三日って!」
勇者「言ったな」
魔王「まだ二日目!」
勇者「予言は外れるためにある」
魔王「つまり!?」
勇者「あれは嘘だ」
魔王「うがあああああ!」
魔王「どうして嘘吐くのさあんたはー!」
勇者「まあ、普通に予想を裏切られた形だが。
僧侶はいまだ成長の途上にあるらしい」
魔王「ええ!?」
勇者「つまり、あの時よりさらに強くなって我々の前に立ちはだかるだろう」
魔王「ええええええええ!?」
勇者「覚悟しろ。俺たちに許されるのは覚悟のみだ」
魔王「……」
勇者「魔王?」
魔王「ち」
勇者「ち?」
魔王「ちくしょー分かったよ!
こうなったら神だろうが悪魔だろうが相手してやろうじゃないさ!」
勇者「その意気だ」
側近「え、ええと、彼女は魔王城から東、およそ三十キロラインをそろそろ越えるかと思われます」
魔王「あははは! 来るなら来ーい!」
側近「魔王さま魔王さま、お気を確かに!」
執事「そうですよ。王たるもの、落ち着きがなくては」
勇者「おや、執事」
魔王「ん? あ、執事くん」
執事「ただいま戻りました」
魔王「そういえば今日は見かけなかったね。どこ行ってたのさ?」
執事「少々野暮用を」
側近「野暮用、ですか?」
執事「例の僧侶を撃破するための画期的かつ効果的な方法を考案いたしましたので、それについて時間をとってました」
勇者「なんだと?」
魔王「執事くんそれホント?」
執事「ええ。ご覧に入れましょう。バルコニーへどうぞ」
[残り数時間]
「ガアアアアアアアアアア!」
元帥「く、これほどとは!」
伝令兵「もう防衛ラインは持ちません!」
元帥「あとどれくらいで突破される!?」
伝令兵「もって数分かと……」
元帥「それだけあれば十分だ――儂が出る!」
伝令兵「なんですって!? なりません、危険です!」
元帥「儂はずっと強敵と死に場所を探して生きてきた。
この地位になって前線で戦わなくなってからもそれは忘れておらんよ」
伝令兵「元帥様……」
元帥「それに、あの魔王さまのために戦って死ねるなら本望だ。
……行かせてくれ」
伝令兵「……分かりました。もう止めはいたしません。
どうかご武運を」
元帥「うむ」
僧侶「キシャアアアアア!」ドドドドド!
「だめだ、突進が止まらない!」
元帥「皆の者、どけえええい!」
「元帥様だ!」
元帥「さあ来い化け物、儂が相手だ!
必ずやその首――」
僧侶「グルルアアアアアアアアアアァッ!!!」ブオンッ!
元帥(あ。駄目これ死んだ)
――ボスン!
元帥「……へ?」
「……化け物が、消えた?」
「いや、見ろ。穴があるぞ」
「落とし、穴?」
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