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元スレP「真美が、俺にキスをねだってくる……」
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―――
その後も、双海姉妹によるユニットという形での活躍は続いた。
テレビ出演、公開ラジオ、CM、雑誌etc……レギュラー番組の話まである。
俺の予想以上に、世間は女子中学生たちのキラメキラリと輝く姿を気に入ってくれたようだった。
「ふぃ~、今日もめっちゃ働いたYO→」
「お疲れ、亜美」
竜宮小町としての活動も依然続いていた亜美は、間違いなくこの時765プロで最も多忙であった。
うちの事務所だけではなく、芸能界全体を見てもこれほどあちこち飛び回っている少女はいなかっただろう。
ちゃんとした休みと言った休みもなかなか取れず、いつも俺や律子に引っ張られて仕事に向かっていた。
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その後も、双海姉妹によるユニットという形での活躍は続いた。
テレビ出演、公開ラジオ、CM、雑誌etc……レギュラー番組の話まである。
俺の予想以上に、世間は女子中学生たちのキラメキラリと輝く姿を気に入ってくれたようだった。
「ふぃ~、今日もめっちゃ働いたYO→」
「お疲れ、亜美」
竜宮小町としての活動も依然続いていた亜美は、間違いなくこの時765プロで最も多忙であった。
うちの事務所だけではなく、芸能界全体を見てもこれほどあちこち飛び回っている少女はいなかっただろう。
ちゃんとした休みと言った休みもなかなか取れず、いつも俺や律子に引っ張られて仕事に向かっていた。
「プロデューサー。あの……いま大丈夫ですか?」
「ああ、千早か! すまない、今からすぐまた出なくちゃいけないんだ。また今度でいいか? ほら、亜美、真美行くぞ」
「う~い。じゃあねー、千早お姉ちゃん!」
「ご、ごめんね。千早お姉ちゃん」
千早はもともと性格が(やよいに関することを除けば)しっかりしていたこともあって、ひとりで現場に行くことも少なくなかった。
“ほうれんそう”をしっかりと守ってくれる千早は、たとえそれ以外のコミュニケーションが最低限であろうとも
アイドル活動に関してはあまり大きな問題は起きなかったのだ。
もちろん、俺はわかっていた。このままではいけないし、こんなやり方は俺の望むところじゃない。
しかしながら、亜美と真美はやはり何かと世話を焼いておかないとどこで問題を起こすかわからないからな……。
本当はもっとひとりひとり見てやりたいところなのだが、しばらくはこのままになりそうだ。すまない……。
「……忙しそうね、あのふたり」
「しょうがないよ。今はもう、うちの看板だもんね! 私にももっとたくさん、お仕事来ないかな~。
……あみまみあまみとか、いいんじゃないかな……」
「…………」
「ふふ、そんなに心配? 千早ちゃん」
「ええ。……真美、大丈夫かしら」
「真美? そりゃ真美もだけど……どっちかと言えば、竜宮小町もやってる亜美のほうが大変なんじゃない?」
「…………」
律子との衝突は何度もあった。
最初に亜美を売り出していたのは律子プロデュースの竜宮小町であったし、
あとから現れた双子デュオの予定によって調整せざるを得なくなったスケジュールも多々あったのだ。
「プロデューサーは亜美のことを何も考えていないんですか? 倒れてからでは遅いんですよ」
まったくもって律子の言うとおりであった。
しかしながらあみまみの反響が非常に大きいことは事実としてそこにあり、
もはやうちの看板と言ってもいいくらいに成長してしまっていた。
ここで急に、亜美の属するユニットのうちどちらかの手を抜くわけにはいかない。
まだまだ大きな事務所とは言えない765プロにとって、ここは正念場であった。
律子ももちろんそのことは理解していたため、無理に双子の活動をやめさせるようなことはしなかった。
「亜美の様子がおかしくなったら、そこでまた今後について話し合いましょう」
これが俺と律子が幾度も議論し合って出した結論であった。もちろん俺としても異存はない。
亜美の様子を注意深く観察することは、俺にとって毎日の習慣となっていた。
彼女はプライベートではわりとちゃらんぽらんな態度をとっているが、ここぞという時には無理をしてしまうのだ。
体調を崩していないか?
風邪になったら大変だ。俺が暖めてやる。
疲労は溜まっていないか?
マッサージをしてやろう。体の隅まで気持ちよくしてやるぞ。
化粧の様子がいつもと変わっていないか?
どれ、もっと近くに来てよ~く見せてみろ。もっと、もっとだ。
月のものはちゃんと周期ごとに来ているか?
最後に来たのはいつかちょっと教えてくれ。来月いつ来るか計算してスケジュール調整するから、それ以外の意図はないから。
「兄ちゃん、亜美のこと心配してくれるのは嬉しいけど、それはセクハラの域っしょー!」
亜美のことを想う俺の純粋な気持ちは、残念なことになかなか彼女には伝わらなかった。
やはり亜美にとっても、今は難しいお年頃なんだな。
春香は恥ずかしそうにしながらもちゃんと教えてくれるというのに、どうやら同じ十代女子でも様々なパターンがあるらしい。
俺はまたひとつ新しいことを知り、プロデューサーとして成長できたと思ったものだ。
しかしながら俺の目には、口ではなんだかんだと言いながらも常に元気に仕事をこなしている亜美の姿が映っていた。
それは俺と同じように亜美のことを心配していた律子にとっても同様の印象であったようだ。
体に蓄積された疲労は決して少なくないだろうに、亜美はいつだって太陽のような笑顔だった。
「いおりんやあずさお姉ちゃん、りっちゃんとはもう付き合い長いっしょ? だから息ぴったりだし、あんま疲れることないよ!」
「真美とふたりでの仕事は家や事務所にいるみたいで超リラックスできるし、やっぱめっちゃ楽しい!」
「だから亜美、いま絶好調って感じっ! まだまだいけるよ→!」
異常とも言える量のスケジュールをこなしながら、亜美は亜美でどんどん成長しているようであった。
「兄ちゃん……大丈夫? 兄ちゃんこそ疲れてない?」
と、これは真美の言葉。
いつもは亜美と一緒にイタズラを重ねる真美だが、こうしてふたりでいるとき、彼女はこんな風に俺のことを心配してくれるのだ。
その日はずっと雲がかかっていて、いつ雨が降り出してもおかしくないような天気だった。
真美はそんな曇った空模様のように顔を暗くしている。
心配をかけさせるわけにはいかないと思った俺は、少しばかり強がってこう言った。
「大丈夫大丈夫、なんくるないさ。それよりも亜美だよ。あいつ、本当に無理していないだろうな……」
亜美の言うとおり、本当にまだまだいけるのだとしたら末恐ろしいことだ。
現状は物理的に考えてこれ以上スケジュールを埋めることはできないが、
このままいけば間違いなく、亜美は765プロの柱となる存在になる。
「…………ふぅん。すごいね! 亜美はね!」
しまった、と思ったときにはもう遅かったようだ。亜美のことばかり話していて、真美はどうやらいじけてしまったらしい。
「いじけてなんか、ないもん! コドモ扱いしないで! 真美はもう、中学生なんだよ!」
怒りで頬を膨らませている真美を抱きしめ、ごめんなとささやく。
真美も一生懸命頑張っているのは俺が一番よく知ってるよ。だから機嫌を治してくれ、可愛い顔が台無しだよ。
「あ……んわぁ……。……ふ、ふん!」
真美の頭を撫でながら、勝ったこれはいける! パーフェクト・コミュニケーション確定っ!
と思ったが、真美はすぐにぷいと顔を横に向けてしまった。
オトナな真美は一筋縄ではいかないらしい。
「そんな態度とるんだったらさー、真美のこと愛してるって言ってよ!」 5・4・3・2……
「愛してるよ、真美。世界で君のことしか見えなくなるくらいに、君に夢中だ」 ピピッ
「…………」
真美の様子がおかしい、どうやら余計に怒らせてしまったようだ。選択肢を間違えたか……。
「……人の気も知らないで……ばかにすんなよ~……」
しばらく時間が経ち、真美はようやくこっちを向いてくれた。そしてジト目のままいつものように、唇を重ねてくる。
真っ暗で、世界の色彩がきちんと働いていないような、そんな冷たい部屋の中。
そのとき俺と真美は、ただお互いを慰めるだけの、“ごまかし”のキスを繰り返していた。
「真美、悪い子だよ。兄ちゃんをこーやって独り占めしてる」
「なのに……兄ちゃんに最近気にかけてもらってる亜美に、嫉妬しちゃってるんだ」
「そのうえ、兄ちゃんから本当に好きだと思われたい、なんて期待してるんだよ~……」
10ぐらいまでしかよんでないけど
真美は「解けてしまうんでしょ?」なんて言わない
百歩譲ったとしても「解けちゃうんでしょ?」これでも違和感あるレベル
真美は「解けてしまうんでしょ?」なんて言わない
百歩譲ったとしても「解けちゃうんでしょ?」これでも違和感あるレベル
ふたりでいるときの真美は、いろんな意味で別人かと思うほどべたべたと甘えてくる。
しかし一方で事務所などでみんなといるとき、そして亜美がいないとき、
彼女はとても恥ずかしがりやの少女に姿を変えてしまっていた。
『に、兄ちゃん! みんなの前で……そんな、ん……そんな風に撫でないでよ……は、恥ずかしい』
ちらちらと周りを伺いながら、しばらくするとうさぎのようにぴょこぴょこと逃げ出してしまうのだ。
どうやら彼女は、“男性と接している自分が、周りからどう見られているのか”がとても気になるお年頃らしい。
思春期真っ盛りって奴だ。ふたりっきりのときの態度はその反動かもしれない。
どの口が言うんだと思われてもしかたないが、俺と真美は恋人同士ではないし、なってはならないと思っていた。
アイドルとして、プロデューサーとして。そもそも俺は、真美に対して特別な感情は抱いてはいないのだ。
これは彼女に何度も繰り返し言い聞かせてきたことだ。
「わかってるよーだ……」
真美はこの件についてこれ以上何も触れず、「疲れたから、もう寝るね」と言ってベッドに潜ってしまった。
彼女が眠りにつくのを見届けたあと、俺も寝るための支度を始めた。
汚れた食器を洗い、シャワーを浴びて汗を流し終わると、
ベッドから少し離れた場所にあるソファに腰掛けながら明日のスケジュールを確認する。
真美はオフだが、俺は響のグラビアと真のテレビ出演、二件の現場に付き添うことになっていた。
一日の流れを脳内でシミュレーションしたあと、今日やるべきことのすべてが終わった俺は布団の中へ潜り込んだ。
「俺が真美に対して、してやれることは……」
これまでどおり、いやこれまで以上に、真美のことをもっともっと輝かせてやる。
それしかない。それが唯一にして最大の、真美への恩返しだ。
そうしていつものように眠る真美の頬に口付けしようとすると、彼女の様子が少しおかしいことに気が付いた。
「真美、泣いている……?」
真美は涙を流しながら、うなされていた。顔には苦悶の表情が浮かんでいる。
「真美……おい、真美」
「う……うぅ……あ、あみ……」
亜美? 亜美がどうかしたのか?
いくら声をかけても反応がないので、とても深く嫌な夢を見ているということがわかる。
起こしてやるべきだろう。悪夢を払い、思いっきり抱きしめてやらなければ。
真美を安心して眠らせてやらなければ、俺の生きる意味はないのだから。
真美のことを起こそうとして、その肩に手を伸ばしかけた瞬間のことであった。
「ごぇんね……ご、ごめん、ね……」
「ピヨちゃん……」
「!!」
どのくらい呆然としていたか正確にはわからないが、それほど長い時間ではなかったと思う。
気が付けば真美の表情は少しだけ安らかなものになっていた。
俺が手を貸さずとも、悪夢はひとりでに消えてしまったらしい。
これなら、わざわざ眠りから覚ましてやる必要はなさそうだ。
「…………」
俺は一体、何をしているのだろう。真美は何を考え、誰を想い、涙を流していたのだろう。
俺は自分で思っている以上に、真美のことを何も知らないのかもしれない。
真美にとって、悪夢のひとつも消してやれない俺は、必要な存在なのだろうか。
真っ暗闇の部屋の中、窓ガラスの向こうに見えるどんよりとした曇り空を眺めながら、
俺はずっと真美のことを考えていた。
しかし、鳥たちがさえずり朝の到来を伝えるまで、いくら考えてもその答えは出なかった。
――――――――――――
――――――
―――
あの夜以来、気持ちの整理が付かないまま、俺はがむしゃらに働いた。
とにかく営業、営業、営業。他の細かい書類作業など、事務所や家に帰ってからいくらでも出来る。
とにかく、もっと、もっと。
もっと真美をアイドルの高みに連れて行ってやる。
それが真美のためになるのだと、俺は思い違いをしていたのだ。
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あの夜以来、気持ちの整理が付かないまま、俺はがむしゃらに働いた。
とにかく営業、営業、営業。他の細かい書類作業など、事務所や家に帰ってからいくらでも出来る。
とにかく、もっと、もっと。
もっと真美をアイドルの高みに連れて行ってやる。
それが真美のためになるのだと、俺は思い違いをしていたのだ。
――ただ、自分でいたいのに……ただ、笑っていたいのに……――
ある日真夜中に目を覚ました俺は、隣で眠っていたはずの真美がいないことに気が付く。
慌てて周りを見渡すと、彼女の姿はすぐに見つかった。
いつの間にか布団から抜け出していたらしく、真美は窓のふちに腰掛けながら静かに月を眺めていた。
そよそよと風が吹き、開け放たれたカーテンと何も縛られていない彼女の髪をやさしく揺らしている。
真美、と声をかけようとしたが、すんでのところで俺はそれをやめてしまう。彼女は小さな声で歌を歌っていた。
月の光を舞台照明にして歌う彼女の姿があまりにも儚げであったため、俺は少し動揺してしまったのだ。
そのあとも彼女はいくつかの歌を歌っていたが、ついに俺には声をかけることが出来なかった。
原作時点より成長してることを表現したいんだろ
最初の時点じゃ流石にここまでの台詞は言えんだろと思ったが
小鳥と色々話してたって文中でも説明してるしいいんじゃない?
最初の時点じゃ流石にここまでの台詞は言えんだろと思ったが
小鳥と色々話してたって文中でも説明してるしいいんじゃない?
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――――――
―――
俺と真美の歪な関係は、その後も続いていく。
しかしいくら抱きしめようとも、いくら唇を重ねようとも、真美が何を思っているのか
その頃の俺にはよくわからなくなってしまっていた。
いやそんなもの、もしかしたら最初からわかっていなかったのかもしれない。
しかし、俺にはこの関係を終わらせることは出来なかった。
俺の頭は真美に関することでいっぱいになっていたのだ。
真美はどうしたら笑ってくれる? どうしたら喜んでくれる?
そのどれもが、俺には何もわからなかった。
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俺と真美の歪な関係は、その後も続いていく。
しかしいくら抱きしめようとも、いくら唇を重ねようとも、真美が何を思っているのか
その頃の俺にはよくわからなくなってしまっていた。
いやそんなもの、もしかしたら最初からわかっていなかったのかもしれない。
しかし、俺にはこの関係を終わらせることは出来なかった。
俺の頭は真美に関することでいっぱいになっていたのだ。
真美はどうしたら笑ってくれる? どうしたら喜んでくれる?
そのどれもが、俺には何もわからなかった。
双子ユニットの人気も、その勢いを落とすことなくさらに大きくなっていた。
真美のことが765プロのアイドルの中で一番好きだ、というファンの声は半年前とは比べ物にならないくらいに多くなっている。
そしてついに、その日がやってきた。
「おめでとう、ふたりとも!」
彼女たちの出したCDの初日売り上げが、とうとう竜宮小町の持つ記録を超えたのだ。
『打倒 竜宮小町』であった俺の目標は、ここでひとつ達成することになる。
律子はとても残念がっていたが、やはり亜美や真美の成長が嬉しいようで、最後には素直に祝福してくれた。
しかし、竜宮小町のCDは軒並みロングランする傾向にある。
話題を集めやすいあみまみが初動で勝ったとはいえ、まだまだこれからだ。
ここでひとつ、褌を締めなおさなければ。
俺が倒れたのは、そんな風にろくに睡眠もとらずに飛び回っていたときだった。
――――――――――――
――――――
―――
「兄ちゃん……」
病院のベッドで目を覚ますと、まず最初に白い天井が見えた。
上半身を起き上がらせてふと顔を横に向けると、真美がベッドの傍らにある椅子に座ってこちらをじっと見ていた。
綺麗なオレンジの夕焼けに照らされていたが、ちょうど逆光の位置だったので、その表情は読み取りづらい。
お前、こんなところで何をやっているんだ? 今日はレコーディングだろう?
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「兄ちゃん……」
病院のベッドで目を覚ますと、まず最初に白い天井が見えた。
上半身を起き上がらせてふと顔を横に向けると、真美がベッドの傍らにある椅子に座ってこちらをじっと見ていた。
綺麗なオレンジの夕焼けに照らされていたが、ちょうど逆光の位置だったので、その表情は読み取りづらい。
お前、こんなところで何をやっているんだ? 今日はレコーディングだろう?
「レコーディングなら昨日ちゃんと終わったよ。兄ちゃん、丸一日寝てたんだから」
そんな、じゃあ今日の予定はどうなったんだ?
まさかこんなことになるとは……俺は再び、あのときのようなミスをやらかしてしまったのか。
「兄ちゃんの仕事は、社長さんが代わりにやってくれたよ。何も心配ない。だからまだゆっくり休んでて……おねがいだから」
「そういうわけにもいかないだろう……明日からまた復帰しなきゃ」
「……兄ちゃん!!」
ばちん!
と気持ちの良い音がすると、俺のことを強く睨んだ真美が(あまり迫力はないが)椅子から立ち上がり、ぷるぷると震えていた。
どうやら俺は、真美に平手打ちをくらったらしい。意外に力あるんだな……。
「……ぶっちゃってごめんね。でも兄ちゃん、過労で倒れたんだよ。
だから、少しでも栄養とって休むことが、一番の復帰への近道なんだから!」
真美は力いっぱい一生懸命に眉間にしわを寄せたまま、腰に手をあてている。
これはいけない、真美の怒りのポーズだ……。
しかし過労か、いつの間にか俺も年取って体力をなくしていたのかもしれないな。
だがこんなもの、お前や亜美の疲労に比べたらなんてことないぞ。俺が休んでいていいわけがない。
「たしかに、明日には退院できるってお医者さんは言ってたみたい。けど、兄ちゃんは明日から3日間お休みだよ。
これは社長命令、ってやつ。 従わなきゃ、クビ、だって……」
ちらちらと目を逸らしながら、真美は俺に告げた。きっとクビのくだりは真美の嘘なのだろう。
そんなに心配することもないのに……というのが正直な感想であった。
しかし、社長命令となればそれに従わざるを得ないようだ。
「真美……ごめんな。こんな大事なときに、俺が倒れちまって」
「大事なときとか、そんなのどうでもいいよ!」
「どうでもいいことあるか……」
「真美が謝ってほしいのはっ! ……ううん、ごめん、なんでもない」
その後、面会時間の終了に従って真美はとぼとぼと帰っていった。
真美がいなくなると、急に猛烈な眠気がやってくる。さっき目覚めたばかりだというのに……。
それに抗うだけの体力も残っていなかったらしく、俺はすぐに眠りについてしまった。
――――――――――――
――――――
―――
夢の中で、俺は今と同じように病院のベッドに横たわっていた。
ただし、その症状はまったく異なる。俺は全身を複雑骨折していたのだ。
これは……いつのことだろう?
ああそうだ、俺はあのとき春香の舞台練習の様子を見に行き、そこで……奈落に落ちたのだった。
春香は無事か? ああよかった、様子がおかしかったから心配したぞ。
なに、心配いらない。ちょっと大げさすぎるんだよな、みんな……いてて。
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夢の中で、俺は今と同じように病院のベッドに横たわっていた。
ただし、その症状はまったく異なる。俺は全身を複雑骨折していたのだ。
これは……いつのことだろう?
ああそうだ、俺はあのとき春香の舞台練習の様子を見に行き、そこで……奈落に落ちたのだった。
春香は無事か? ああよかった、様子がおかしかったから心配したぞ。
なに、心配いらない。ちょっと大げさすぎるんだよな、みんな……いてて。
そこは朝の光が暖かく差し込む病室。
俺の横から、しゃりしゃりとりんごの皮をむく音と、柔らかい声が聞こえてくる。
「ダメですよ、プロデューサーさん。ちゃんと休んでなきゃ……」
この声は、誰の声だろう?
とても安らかな気持ちになれる。
ああ、きっと俺はこの人を愛していたんだ。
あなたは……今どこにいるんですか?
俺? 俺は……あれ?
――――――――――――
――――――
―――
朝起きると、泣いていた。
いつものことだ。
……っていうのは何の本の言い回しだったかな。まあ、とにかく翌日だ。
病院でのあれやこれやの手続きを済ませてから、俺は公衆電話を使って事務所に連絡を入れた。
「こんなことになってしまってすまない、なるべく早く復帰してこの分を取り戻す」
社長と律子に対してこのようなことを伝えると、ふたりはこう返してくれた。
「そんなこと言ってないで、いい機会ですからしっかり休んで治してくださいよ! みんな心配しているんですから」
「いや~なあに、こちらのことは何も心配いらないよ。私にだってプロデューサー業の心得はあるのだからね。
なんなら3日と言わず、とことんまで休んでから復帰してくれたまえ!」
――――――
―――
朝起きると、泣いていた。
いつものことだ。
……っていうのは何の本の言い回しだったかな。まあ、とにかく翌日だ。
病院でのあれやこれやの手続きを済ませてから、俺は公衆電話を使って事務所に連絡を入れた。
「こんなことになってしまってすまない、なるべく早く復帰してこの分を取り戻す」
社長と律子に対してこのようなことを伝えると、ふたりはこう返してくれた。
「そんなこと言ってないで、いい機会ですからしっかり休んで治してくださいよ! みんな心配しているんですから」
「いや~なあに、こちらのことは何も心配いらないよ。私にだってプロデューサー業の心得はあるのだからね。
なんなら3日と言わず、とことんまで休んでから復帰してくれたまえ!」
ふたりとも小言ひとつ言わず、俺の身の心配をしてくれていた。本当にありがたいことだ。
電話の向こうで美希が「ハニー、ハニーなの!?」とか「ミキもう死ぬの!!」とかなんとか言っていたような気がする。
が、気が付けば電話はもう切れてしまっていた。
まああいつは、だいじょうぶだろう……それはもうだいにんきだからな。
そのあと、携帯電話に送られてきていたみんなからの大量のメールをあたたかい気持ちで読みながら、俺は帰宅することにした。
ちなみにそのメールの大半は美希からのもので、その数実に86件。はは。
今なお送られてきているのでその件数はさらに数を増やしている。
美希の深い愛に感動しながら、俺は携帯電話の電源を切り、そっと閉じた。
雲ひとつないからりと晴れきった空の下、俺は春の光をいっぱいに浴びながら歩いていた。
自宅と病院との距離は決して近くはなかったが、
有り余る時間を潰すことと体力を取り戻すことの両方を兼ねた根性のウォーキングだ。
そんな事情もあってか、帰りがけにスーパーで食料品やトイレットペーパーなどを数点買い込んでから
ようやく自宅へとたどり着いたのは、時計の針が17時に差し掛かろうとしていたころであった。
荷物はあまり多いほうではなかったのだが、少なくない量の汗が自然と流れてくる。
「……あれ?」
玄関の鍵を開けドアをくぐると、俺はなぜか不思議な感覚に見舞われてしまった。
たった二日間だけしか空けていなかったのに、誰か別の人間が住んでいるかのような違和感を感じる……。
俺、こんなに部屋をごちゃごちゃにしてからあの日家を出たっけ?
見覚えのないポテト・チップスの袋がなぜゴミ箱に入っている?
まあ気のせいだろう、きっと自分でも気付かないうちに買って食べていたのだ。
部屋を片付けながらさて3日間何をしようかなと考えていると、突然ドアががちゃりと開いて誰かが入ってきた。
あれ俺、ちゃんと鍵閉めたよな?
ま、まさか泥棒!?
「ただいま~。あ、兄ちゃんおかえりー!」
そこにいたのは、真美だった。とてとてと部屋に入ってきて、小さなハンドバッグを椅子の背にかけている。
「もう、ケータイ切ってたっしょ! 何回も電話したんだからね!」
それはいつも通りのかわいらしい真美そのものであり、彼女はとても自然体だった。
あれれ、この子いまどうやって入ってきたんだろう? がちゃり? え、鍵?
真美はまるで自分の家、自分の部屋にいるかのように服を脱いでいく。
そして「今日は太陽サンサンであちーっすね! あ、見てこれ~。退院祝いのゴージャスセレブプリンであるぞっ!」などと言いながら、
これまた当たり前のように俺のベッドの上に脱いだ服を投げかけていった。
「……お、おい、真美?」
「どったのー? ってきゃあ! み、見ないでよ! 兄ちゃんのえっちー!」
「す、すまん!」
あれ、俺なんで謝っているんだろう。着替えを見ちゃったからか、そうだよな。
いつの間にか、運動によって流れてきていたはずの爽やかな汗は、冷や汗という形に姿を変え俺の背筋を伝っていた。
まあ美希じゃないだけよかった……と思い、そして俺は、こやつめ! という顔をして笑ったのだった。
当然いつまでも笑ってやるわけもなく、俺は今、フローリングの床の上で正座をしている真美に説教をしている。
「……で、なんで家の鍵を持っている? 渡してなかったよな?」
「こ、こないだ泊まったとき、合鍵を失敬しまして……」
「くぉおおら!! それは犯罪! わかる!? は・ん・ざ・い!!!」
「は、は・ん・ざ・い!!」
着替え途中だったので、真美はまだ半分下着姿のままだ。そんなことはどうでもいい。
これだからゆとりは……いい具合にほどよく出るとこ出して、かつ引っ込むとこは引っ込んでいやがる。
引っ込んでばかりの千早に謝れ、と言ってやりたい。まるでけしからん。
縮こまる真美の体をちらりちらりと見ながら、俺は説教を続けた。
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