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    元スレ京子「眠る結衣に口付けを」

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    51 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:11:50.44 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-125)
    京子「私は、結衣が好き」

    京子「結衣が好きで、好きで、」

    京子「気がついたら寝ている結衣に、キスしてた」

    京子の言葉が耳を通り過ぎていく。
    ショックで、感情がぐるぐると駆け巡って、胸の辺りが苦しい。

    京子「ごめんね、気持ち悪いよね」

    京子は初めから諦めている、そんな顔をしている。
    それなら、なぜ、どうして、
    熱に犯された瞳で、期待のこもった目で、私を見ているのだろう。
    52 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:12:27.64 ID:FhpKGfC30 (+17,+27,+0)
    ドキドキ
    53 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:14:22.85 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-124)
    結衣「……別に気持ち悪いわけじゃない」

    結衣「ただ……」

    結衣「わからないから」

    私にはわからない。
    京子の私への気持ちが、私が京子に望むものが、何なのかわからない。
    私はこれまでの関係を望むのか、今から変わった関係を望むのか、わからない。

    いずれにせよ、もう知らなかった頃には戻れない。
    私が望む・望まないにかかわらず、これまで続いてきた私と京子の関係は、
    変わらざるを得ないものとなった。
    54 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:15:43.76 ID:zvlMqTTw0 (+24,+29,-1)
    結衣ちゃん頼むぜ
    55 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:16:12.13 ID:GjUYg4v70 (+13,+28,+0)
    キマシタワー
    56 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:17:24.33 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-184)
    京子「なら、結衣に私を好きだって言わせてみせる」

    京子「結衣が私に惚れるまで頑張る」

    京子「それは、許してもらえる……かな?」

    京子は強くなった、本当にそう思う。
    私の背に隠れていた、あの小さな少女は、いつの間にか。

    結衣「……うん、構わない」

    曖昧な返事は余計に京子を傷つける、そんな考えが脳裏をよぎる。
    それでも、京子を拒絶することはできなくて。

    京子「ありがとう」

    京子は優しく微笑んだ。
    それは見たこともないくらいに、綺麗で、汚れないものだった。
    57 : 忍法帖【Lv= - 2011/11/20(日) 14:19:15.03 ID:hYPec44s0 (+15,+25,+0)
    これは切ない
    58 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:20:27.85 ID:zvlMqTTw0 (+19,+29,-3)
    せつないね……
    59 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:21:12.21 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-132)
    結衣「……ごめん」

    謝罪の言葉が口をついて出た。
    京子の望む答えが分かっていながら、私はそれを口にできずにいた。
    京子が傷つくだろうことが分かっていて、それでも謝罪の言葉を口にした。

    結衣「それから、しばらくの間、一人にさせてほしい」

    その言葉を聞いた京子の顔を、私は見ることなく立ち去った。
    ただ何となく、京子の泣き顔が、頭に浮かんでは消えた。

    秋の風が、肌寒く感じた。
    60 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:22:01.71 ID:2tp+x9na0 (+19,+29,-2)
    おう…
    61 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:24:28.81 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-200)
    結衣「………」

    京子の告白を受けた後、私は教室に帰ることなく、あかり達の教室に向かうことにした。

    結衣「あかりとちなつちゃんに連絡しておかないと……」

    もはや心の中はぐちゃぐちゃだが、その一心で体を動かす。
    いきなり何も言わずに休めば、二人に心配をかけるだろうから。

    結衣「………」ガラッ

    結衣「………」キョロキョロ

    向日葵「どうかなさいましたか?船見先輩」

    挙動不審な私に、古谷さんが話しかけてきてくれた。

    結衣「あかりとちなつちゃんに用があるんだけど、居ないみたいだね」

    向日葵「彼女達なら、お昼休みが始まると教室を出ていきましたわ」

    すると部室にでもいるのだろうか。
    62 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:27:21.73 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-171)
    向日葵「急ぎの用事ですか?もし私でよければ、伝言を預かりますけれど」

    結衣「じゃあ、頼めるかな?」

    顔を合わせて伝えるのは辛いので、古谷さんの気遣いは渡りに船だった。

    結衣「事情があってしばらくごらく部を休むことと、一緒に登校は出来ないって」

    向日葵「……分かりました」

    結衣「ありがとう、それじゃ」

    しばらくごらく部を休むこと、それから一人で登校する旨を伝えてもらうことにした。
    怪訝そうな目で見られたが、事情に深入りされることはなかった。

    自分が面倒ごとから、考えることから逃げていることは薄々分かっている。
    それでも、どうしても向き合うことが怖かった。
    63 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:32:31.46 ID:2tp+x9na0 (+5,+15,-1)
    しぇん
    64 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:32:48.74 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-186)

    キーンコーンカーンコーン

    昼休みの終了を告げるチャイムが鳴ると同時に教室に戻った、けれども京子の姿は見えない。
    授業が始まっても、とうとう京子は帰ってこなかった。

    先生には、保健室の辺りで見かけた、そう嘘をついた。
    目論見通り、具合が悪くて休んでいるのではないかと考えてくれた。

    結衣(やっぱり保健室にいるのかな……)

    結衣(部室ということも考えられる……)

    結衣(いや、不貞腐れて家に帰ったのかも……)

    私の思考は、楽観的な方向に向かう。
    京子はまだあの場から動いていない、そんな直感を無視して。

    京子に会うことが怖くて、あかり達に会いたくなくて、放課後になると早々に帰宅した。
    65 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:35:46.67 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-221)
    その夜、夢を見た。

    小さな京子が泣いていて、私は慌てて駆け寄る。
    泣いている理由を聞いても、京子は泣きじゃくるばかりで答えてくれない。

    困り果てた私は、京子の手を引いて、駆け出す。

    色々な景色を見せて、色々なことを体験させた。
    次第に京子は笑顔を見せてくれて、私はそれが誇らしくなった。

    嬉しくなって先を急ごうとする私を、後ろから京子が呼び止める。

    京子「結衣」

    振り返って見えた京子の姿は、いつの間にか、今の姿まで成長していた。

    泣きそうな声で私を呼ぶ。
    泣きそうな瞳で私を見る。
    66 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:37:09.49 ID:zvlMqTTw0 (-19,-9,-1)
    支援
    67 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:38:20.75 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-77)
    京子「結衣」

    私を見て。
    私を愛して。
    私を一人にしないで。

    私はそんな京子を、助けを求める京子を、見捨てて駆け出した。

    ただただ悲しそうに私を見つめる京子の瞳が忘れられなくて、
    閉じ込めた言葉と想いが、胸の中で理性を振りほどき暴れ出す。

    わかっているから、わかっているから、そんな目で見ないで。
    少しだけ、一人にさせて。
    68 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:42:16.45 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-204)
    結衣「朝か」

    朝の目覚めの気分は最悪で、夢の余韻は私の気力を削ぐ。
    夢の内容は見事に私の心の中を表していて、それを見せられた私はたまったものではない。

    結衣「学校、行きたくないな……」

    何だか大好きなこともしたくない、今日が、明日が、怖くて嫌になる。
    逃げてしまえれば楽だけれど、きっと逃げても後悔でまた死にたくなるのだろう。

    結衣「難儀だなぁ」

    板挟みになった私の心は、どうすればいいのだろうか。

    天高く馬肥ゆる秋、この気持ちとは裏腹に、外は澄み渡った青空で。
    晩秋へ向かうにつれて空は透明度を増し、より一層青く、より一層高くなってきている。
    入道雲に代わって、秋特有の雲も多くなり、こんなところからも季節の移り変わりを感じる。

    結衣「早いけど、支度しようかな」

    することもないのだから、たまにはさっさと学校に行ってもいいだろう。
    69 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:43:21.66 ID:2tp+x9na0 (-19,-9,-1)
    支援
    70 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:45:14.04 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-193)
    朝早くから、久しぶりに一人で登校する。
    そのことに申し訳なさと、後ろ暗い清々しさを感じる。
    どうやら、このところの皆との会話は、私にとって負担になっていたようだ。

    楽しくもないのに楽しいフリをしていた、それは何のためで、誰のためだろう。
    次はどうすればいいのだろう、また笑えばいいのだろうか。
    わからない、答えが見つからない。

    結衣「閉まってるか……」

    案の定、教室には誰もいなくて、教室の鍵を取りに行く羽目になった。

    結衣「………」

    人の少ない教室に、徐々に賑やかさが溢れていく。
    途中で、京子が隣を通り過ぎたけれど、互いに挨拶はしなかった。
    そろそろ授業の準備をしようかと、鞄から教科書を取り出し、机の中を探る。

    結衣「……ん?」

    机に手紙が入っていた。
    差出人は、ちなつちゃんだった。
    71 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:45:43.60 ID:FhpKGfC30 (+4,+14,-12)
    しえん
    72 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:49:50.12 ID:meJjyrp2O (+2,+12,+0)
    73 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:50:45.65 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-141)
    ~昼休み~

    ちなつ「好きです、結衣先輩」

    最近の私はモテ期というやつなのだろうか。
    よりにもよって、同性からの告白を二日連続で体験してしまうなんて。

    手紙の内容は、お昼休みを利用した呼び出しだった。
    その呼び出しの目的は、告白だったようだ。

    結衣「……わたしを?」

    面食らって、失礼な返し方をしてしまった。

    ちなつ「はい、驚かせてしまったようで、すみません」

    結衣「こっちこそ、きちんとした返事をしなくて、ごめん」

    結衣「その……女同士だから……」

    結衣「本当にそうなのか、どうしても実感できなくて」

    京子の時には考えていなかった問題が、気になった。
    74 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:52:07.09 ID:2tp+x9na0 (+18,+28,+0)
    どうなるんだろ
    75 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:53:13.15 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-206)
    ちなつ「……そうですね」

    ちなつちゃんは私の言葉にうつむく。
    私は無神経にも、可愛い後輩を傷つけてしまったようだ。
    恋愛事で人を傷つけないためには、どういう言動をすればいいのだろう。

    ちなつ「でもっ、私は結衣先輩のことが好きです!」

    ちなつ「同性であろうと、学年が違おうと、出会ってから一年も経っていなくても!」

    ちなつ「私は、結衣先輩のことが好きなんです!」

    結衣「……ありがとう」

    京子の告白には言えなかった、感謝の言葉が口をついて出る。

    結衣「ちなつちゃんの気持ちは嬉しい、だけど」

    結衣「少し、時間をもらえないかな」

    優柔不断な私には、もう何を考えればいいのか、それすらわからない。
    ちなつちゃんの想いは、今の私にはあまりに重い。
    76 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:56:28.50 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-219)
    ちなつ「……それは、京子先輩のことで、時間が欲しいからですか?」

    結衣「………ッ」

    別に京子のことは関係ない、そう言い返そうとした。
    けれど、静かなちなつちゃんの瞳を前に、何も言えなかった。

    ちなつ「わかりますよ」

    ちなつ「私は、結衣先輩のことを、ずっと見てきたんですから」

    ちなつちゃんは一体いつから、私を想っていたのだろう。
    いつまでも秘めた恋心に気付かなかった私を、どういう気持ちで見ていたのだろうか。

    ちなつ「結衣先輩は、意外と顔に出やすい人ですね」

    結衣「そう、なのかな」

    自分なりに寡黙で分かりにくい性格なのだと思っていたけれど。
    この調子では、あかりにも色々と気づかれていそうだ。
    77 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:57:53.20 ID:zvlMqTTw0 (+29,+29,-7)
    結衣ちゃん…京子ちゃんを幸せにしてあげて
    78 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:59:29.14 ID:ljzT96Oh0 (+19,+29,-1)
    むむむ
    79 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 14:59:37.27 ID:a341wbe80 (+24,+29,-18)
    やはりちなつちゃんの役割はこれしかないのか……
    80 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:00:16.26 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-266)
    ちなつ「昨日から輪をかけて様子がおかしくなった京子先輩に、部活を休んだ結衣先輩」

    ちなつ「そんな状況で、気がつかないというのは、無理がありますし」クスッ

    ちなつ「それから京子先輩、しばらくごらく部は休みだって、暗い顔でそういったんです」

    ちなつ「しばらく、みんな一人でのんびりしようって……」

    自分の都合で休む、それが失礼で信頼を裏切る行為だったことを、今一度思い返す。
    そして全てを京子に任せて逃げた、京子に辛い選択をさせた、
    そんな自分自身への嫌悪で気分が沈む。

    ちなつ「あっ、結衣先輩を責めているわけではないんです」

    ちなつちゃんは優しい顔で、私に許しをくれる。

    ちなつ「……昨日は京子先輩に、告白でもされましたか?」

    結衣「………」

    私は何も言えなかった。
    否定をすれば、ちなつちゃんも追求をやめたかもしれない。
    けれど、肯定と否定のどちらかを選ぶ、その勇気が私にはなかった。
    81 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:02:54.26 ID:2tp+x9na0 (+18,+28,-13)
    天使チナエルか
    82 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:04:49.31 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-112)
    ちなつ「やっぱり、そうでしたか」

    ちなつちゃんは予想外に、穏やかな表情をしている。

    ちなつ「そんな顔、なさらないでください」

    今の私はさぞ情けない顔をしていることだろう。
    これではちなつちゃんにも愛想を尽かされてしまう。

    ちなつ「返事、待っています」

    ちなつ「今日は、ありがとうございました」

    ちなつちゃんは私の返事を待つことなく、この場を去った。

    結衣「………」

    結衣「……ちなつちゃん」

    私を慕ってくれていることは感じていたけれど、
    それが性別の枠を超えた、思慕の念だとは思っていなかった。
    83 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:08:31.48 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-184)
    キーンコーンカーンコーン

    授業開始のチャイムとともに、教室にギリギリの時間で戻る。
    当然と言うべきかもしれないが、既に京子は席についていた。

    結衣「………」

    朝から碌に顔を見ていなかったが、よくよく見ると京子の顔色は悪く、動作も緩慢としている。
    私たちの中がこじれているから、そういう話でもないだろう。
    それくらいの区別はつく、ずっと一緒だった幼馴染のことなのだ、私には分かる。

    結衣「…………京子」

    何気に話しかけるのは、京子の告白以来だ。

    京子「……っなに?」

    京子の顔は不自然に上気していて、それは気持ちの変調だけでは説明がつかない。
    今まで、気づけなかった自分自身に腹が立つ。
    84 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:11:25.02 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-172)
    結衣「額を貸して」ピト

    京子「ゆっ、結衣!?」ガタッ

    慌てる京子を無視して、手に感じる温度を自分のそれと比べる。

    結衣「やっぱり、熱がある……」

    京子「えっ……」

    季節の変わり目は、風邪を引きやすい。
    そこに精神的な要因が加わったといったところか。

    結衣「保健室、いくぞ」

    おどおどとしている京子の手を、軽く引っ張る。

    京子「別に大丈夫だよ、そんなことしなくたってわたs」

    結衣「座っているだけでも、辛いくせに」

    京子「………」

    図星をつかれたのか、京子の抵抗が弱くなる。
    85 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:12:44.85 ID:zvlMqTTw0 (-19,-9,-1)
    支援
    87 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:16:01.69 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-121)
    結衣「私がおんぶしていくから」

    京子「…………うん」

    この様子では、熱が出る前から自覚症状もあったはずだ。
    私に対する意地で、ずっと前から我慢していたのだろうか。

    結衣「先生が来たら、京子は熱があるから保健室にいったって、連絡してもらえるかな」

    ウン、ワカッタ ワタシハカバンヲモツネ

    結衣「しっかり掴まれる?」

    京子「だいじょうぶ」

    この高熱に、酷い衰弱ぶり。
    ご両親に迎えを頼むことになりそうだ。
    88 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:19:49.03 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-194)
    ~授業中~

    「であるので、ここは形容詞の……」

    京子のことが気になって、授業に集中できない。
    保健医の先生は親御さんを呼ぶと言っていたが、迎えはもう来ただろうか。
    体は平気だろうか、寂しい思いをしていないだろうか。

    「ここはサ行変格活用で……」

    放課後に、京子の家へ見舞いに行こう。
    胸が不自然に高鳴るけれど、この想いはきっと行動の先にある。

    「ここは音便があって……」

    ちなつちゃんへの返事も、京子への想いも、私の気持ちも、
    きっと全ては京子に会わないと分からないものなんだ。

    「船見さん、聞いていますか?」

    先生に怒られてしまった。
    けれども、私の頭の中は京子一色で、その後も集中なんてできやしないのであった。
    林檎でも持っていったほうがいいだろうか、風邪にはレモネードや生姜湯もいいだろうか。
    89 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:21:27.47 ID:2tp+x9na0 (+5,+15,-1)
    しぇん
    90 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:23:43.87 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-214)
    ~京子の家~

    結衣「京子」

    京子「あ……結衣……」ケホッ

    京子「来て……くれたんだ……」

    結衣「無理に起きなくていい」

    京子の風邪は想像以上に深刻なようだった。
    まともに起きていることもできないみたいだ。

    結衣「熱が出ているんだから、そのまま安静にしていて」

    気まずいから、なんて言っている場合じゃない。
    優先順位でいえば、そんなものよりも京子の方が遥かに大切だ。

    京子「せっかく結衣が来てくれてるのに、寝てなんていられないよ……」

    京子の息は荒く、顔は紅潮している。
    ずっと辛そうな表情で、目尻には涙が浮かんでいて、体は汗ばんでいる。
    91 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:25:40.51 ID:ljzT96Oh0 (-19,-9,-1)
    支援
    92 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:26:23.26 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-162)
    京子「結衣、結衣、行かないで」

    はるか昔に迷子になった時のように、寂しくて、不安で、私しか頼れない。
    今の京子は、そんな顔をしている。

    結衣「どこにもいかないよ」

    できるだけ優しく、気持ちが伝わりますように、そう念じて頭を撫でる。

    京子「嘘」

    ここ数日のことで、不安になっているのだろうか。
    私が離れてしまうことに、臆病になっているのだろうか。

    結衣「本当、今日は京子の傍にいるよ」

    結衣「京子の手を、眠るまで握っているから」

    そっと握った京子の手は、頭の熱に比べて驚くほどに冷えていた。
    93 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:29:40.67 ID:vDfFJXHY0 (+4,+14,-12)
    しえん
    94 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:30:34.10 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-237)
    京子「今日だけ?」

    結衣「今日の京子は、甘えんぼさんだね」

    熱の影響で幼児退行でもしてしまったかのようだ。
    私に宣戦布告してみせた、あの不思議な雰囲気は欠片もなく、私の知る京子の姿だった。

    結衣「京子の具合が良くなったら、また遊びにくる」

    結衣「京子が私の家に泊まりに来てもいい」

    私の中の葛藤はどこへやら、京子を安心させる、ただそれだけが頭にあった。

    京子「遊んでくれるの?」

    結衣「勿論」

    京子「ホントに?」

    結衣「何年、こうやって付き合いが続いてきたと思ってるんだ、京子は」クスッ
    95 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:33:23.63 ID:lX/XkMw40 (-27,-15,+0)
    96 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:34:33.53 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-187)
    京子「……よかった」ニコッ

    京子が笑う、それだけで私の心は沸き立つ。
    それは、恋愛事なんて知らなかった昔からのことで。

    京子「……本当に、よかった」

    結衣「京子?」

    京子がそっぽを向いた。
    不安になってのぞき込もうとして、京子から聞こえる小さな嗚咽に気が付く。

    京子「………」グスッ

    結衣「京子……」

    結衣「京子は昔から泣き虫だなぁ」ナデナデ

    ちょっと大人になったようで、その本質は変わっていないようだ。
    京子は時と共に変わってきたけれど、それでも変わらない部分もあったのだ。
    そんな当たり前のことに、私は安堵した。
    97 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:38:45.54 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-205)
    京子「うるさぃ……」ケホッ

    結衣「それはごめん」

    確かに京子は病人なのだ、騒がしくして、頭を撫でるのは良くないかもしれない。
    手を軽く握るだけに留めておこうか。

    京子「………」ジィー

    京子「もっとなでて?」

    結衣「……はいはい」ナデナデ

    頭を撫でるのを止めると、催促されてしまった。
    素直になった京子というのは、久しぶりな気がする。

    京子「………」

    目を細めて、今にも喉を鳴らしそうな様は、まるで猫みたいだ。

    京子「体調が良くなったら、紅葉を見に行きたい」

    そういえば、紅葉の見頃もそろそろか。
    京子はイベント好きで、乙女なところがあるから、いつかは言い出すと思っていた。
    98 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:43:37.54 ID:izq7KF3ZP (-21,-9,-1)
    支援
    99 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:45:32.57 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-191)
    結衣「その時はお弁当を作ってやるから、一緒に食べようか」ニコッ

    これまでの距離感が嘘のように、京子に誘いをかけることができた。
    こんなに京子に愛想を振りまいて、寝かしつけてやるのは、いつ以来だろう。

    京子「うん……」

    その返答を最後に、京子の動きが鈍くなる。
    京子の可愛らしい瞳は目蓋で隠されて、程なくして安定した寝息が聞こえてきた。

    京子「………」スヤスヤ

    結衣「おやすみ、京子」

    京子の額に口付けを落とし、病状の改善を祈った。
    ……どうやら私の答えも定まったようだ。

    京子が寝入ってからも、しばらくその手を握って、寝顔を見つめていた。
    100 : 以下、名無しにか - 2011/11/20(日) 15:47:47.63 ID:tivnRXa+0 (+95,+30,-207)
    ~登校~

    本日は快晴。
    起きてすぐに京子のことが気になって、京子の家に向かった。
    やはり、高熱が引いていないらしく、欠席させるとのことだ。

    結衣「京子は休み、か……」

    京子の代わりに私が熱を引き受けてあげられたなら、そんなことを思った。
    祭礼や儀式に使う人形も、親しい人の災厄を引き受けたい、
    きっとそんな思いから生まれたのだろう。

    何時までも心配ばかりしていても気が滅入る、何か明るいことを考えよう。
    京子の体調が戻ったら何をしようか、パーティーでもしようか。

    昨日に続いて、今日も私は一人で登校する。
    けれど、その足取りは心なしか昨日よりも軽いものだった。
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