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元スレ京子「眠る結衣に口付けを」
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京子「私は、結衣が好き」
京子「結衣が好きで、好きで、」
京子「気がついたら寝ている結衣に、キスしてた」
京子の言葉が耳を通り過ぎていく。
ショックで、感情がぐるぐると駆け巡って、胸の辺りが苦しい。
京子「ごめんね、気持ち悪いよね」
京子は初めから諦めている、そんな顔をしている。
それなら、なぜ、どうして、
熱に犯された瞳で、期待のこもった目で、私を見ているのだろう。
京子「結衣が好きで、好きで、」
京子「気がついたら寝ている結衣に、キスしてた」
京子の言葉が耳を通り過ぎていく。
ショックで、感情がぐるぐると駆け巡って、胸の辺りが苦しい。
京子「ごめんね、気持ち悪いよね」
京子は初めから諦めている、そんな顔をしている。
それなら、なぜ、どうして、
熱に犯された瞳で、期待のこもった目で、私を見ているのだろう。
結衣「……別に気持ち悪いわけじゃない」
結衣「ただ……」
結衣「わからないから」
私にはわからない。
京子の私への気持ちが、私が京子に望むものが、何なのかわからない。
私はこれまでの関係を望むのか、今から変わった関係を望むのか、わからない。
いずれにせよ、もう知らなかった頃には戻れない。
私が望む・望まないにかかわらず、これまで続いてきた私と京子の関係は、
変わらざるを得ないものとなった。
結衣「ただ……」
結衣「わからないから」
私にはわからない。
京子の私への気持ちが、私が京子に望むものが、何なのかわからない。
私はこれまでの関係を望むのか、今から変わった関係を望むのか、わからない。
いずれにせよ、もう知らなかった頃には戻れない。
私が望む・望まないにかかわらず、これまで続いてきた私と京子の関係は、
変わらざるを得ないものとなった。
京子「なら、結衣に私を好きだって言わせてみせる」
京子「結衣が私に惚れるまで頑張る」
京子「それは、許してもらえる……かな?」
京子は強くなった、本当にそう思う。
私の背に隠れていた、あの小さな少女は、いつの間にか。
結衣「……うん、構わない」
曖昧な返事は余計に京子を傷つける、そんな考えが脳裏をよぎる。
それでも、京子を拒絶することはできなくて。
京子「ありがとう」
京子は優しく微笑んだ。
それは見たこともないくらいに、綺麗で、汚れないものだった。
京子「結衣が私に惚れるまで頑張る」
京子「それは、許してもらえる……かな?」
京子は強くなった、本当にそう思う。
私の背に隠れていた、あの小さな少女は、いつの間にか。
結衣「……うん、構わない」
曖昧な返事は余計に京子を傷つける、そんな考えが脳裏をよぎる。
それでも、京子を拒絶することはできなくて。
京子「ありがとう」
京子は優しく微笑んだ。
それは見たこともないくらいに、綺麗で、汚れないものだった。
結衣「……ごめん」
謝罪の言葉が口をついて出た。
京子の望む答えが分かっていながら、私はそれを口にできずにいた。
京子が傷つくだろうことが分かっていて、それでも謝罪の言葉を口にした。
結衣「それから、しばらくの間、一人にさせてほしい」
その言葉を聞いた京子の顔を、私は見ることなく立ち去った。
ただ何となく、京子の泣き顔が、頭に浮かんでは消えた。
秋の風が、肌寒く感じた。
謝罪の言葉が口をついて出た。
京子の望む答えが分かっていながら、私はそれを口にできずにいた。
京子が傷つくだろうことが分かっていて、それでも謝罪の言葉を口にした。
結衣「それから、しばらくの間、一人にさせてほしい」
その言葉を聞いた京子の顔を、私は見ることなく立ち去った。
ただ何となく、京子の泣き顔が、頭に浮かんでは消えた。
秋の風が、肌寒く感じた。
結衣「………」
京子の告白を受けた後、私は教室に帰ることなく、あかり達の教室に向かうことにした。
結衣「あかりとちなつちゃんに連絡しておかないと……」
もはや心の中はぐちゃぐちゃだが、その一心で体を動かす。
いきなり何も言わずに休めば、二人に心配をかけるだろうから。
結衣「………」ガラッ
結衣「………」キョロキョロ
向日葵「どうかなさいましたか?船見先輩」
挙動不審な私に、古谷さんが話しかけてきてくれた。
結衣「あかりとちなつちゃんに用があるんだけど、居ないみたいだね」
向日葵「彼女達なら、お昼休みが始まると教室を出ていきましたわ」
すると部室にでもいるのだろうか。
京子の告白を受けた後、私は教室に帰ることなく、あかり達の教室に向かうことにした。
結衣「あかりとちなつちゃんに連絡しておかないと……」
もはや心の中はぐちゃぐちゃだが、その一心で体を動かす。
いきなり何も言わずに休めば、二人に心配をかけるだろうから。
結衣「………」ガラッ
結衣「………」キョロキョロ
向日葵「どうかなさいましたか?船見先輩」
挙動不審な私に、古谷さんが話しかけてきてくれた。
結衣「あかりとちなつちゃんに用があるんだけど、居ないみたいだね」
向日葵「彼女達なら、お昼休みが始まると教室を出ていきましたわ」
すると部室にでもいるのだろうか。
向日葵「急ぎの用事ですか?もし私でよければ、伝言を預かりますけれど」
結衣「じゃあ、頼めるかな?」
顔を合わせて伝えるのは辛いので、古谷さんの気遣いは渡りに船だった。
結衣「事情があってしばらくごらく部を休むことと、一緒に登校は出来ないって」
向日葵「……分かりました」
結衣「ありがとう、それじゃ」
しばらくごらく部を休むこと、それから一人で登校する旨を伝えてもらうことにした。
怪訝そうな目で見られたが、事情に深入りされることはなかった。
自分が面倒ごとから、考えることから逃げていることは薄々分かっている。
それでも、どうしても向き合うことが怖かった。
結衣「じゃあ、頼めるかな?」
顔を合わせて伝えるのは辛いので、古谷さんの気遣いは渡りに船だった。
結衣「事情があってしばらくごらく部を休むことと、一緒に登校は出来ないって」
向日葵「……分かりました」
結衣「ありがとう、それじゃ」
しばらくごらく部を休むこと、それから一人で登校する旨を伝えてもらうことにした。
怪訝そうな目で見られたが、事情に深入りされることはなかった。
自分が面倒ごとから、考えることから逃げていることは薄々分かっている。
それでも、どうしても向き合うことが怖かった。
キーンコーンカーンコーン
昼休みの終了を告げるチャイムが鳴ると同時に教室に戻った、けれども京子の姿は見えない。
授業が始まっても、とうとう京子は帰ってこなかった。
先生には、保健室の辺りで見かけた、そう嘘をついた。
目論見通り、具合が悪くて休んでいるのではないかと考えてくれた。
結衣(やっぱり保健室にいるのかな……)
結衣(部室ということも考えられる……)
結衣(いや、不貞腐れて家に帰ったのかも……)
私の思考は、楽観的な方向に向かう。
京子はまだあの場から動いていない、そんな直感を無視して。
京子に会うことが怖くて、あかり達に会いたくなくて、放課後になると早々に帰宅した。
その夜、夢を見た。
小さな京子が泣いていて、私は慌てて駆け寄る。
泣いている理由を聞いても、京子は泣きじゃくるばかりで答えてくれない。
困り果てた私は、京子の手を引いて、駆け出す。
色々な景色を見せて、色々なことを体験させた。
次第に京子は笑顔を見せてくれて、私はそれが誇らしくなった。
嬉しくなって先を急ごうとする私を、後ろから京子が呼び止める。
京子「結衣」
振り返って見えた京子の姿は、いつの間にか、今の姿まで成長していた。
泣きそうな声で私を呼ぶ。
泣きそうな瞳で私を見る。
小さな京子が泣いていて、私は慌てて駆け寄る。
泣いている理由を聞いても、京子は泣きじゃくるばかりで答えてくれない。
困り果てた私は、京子の手を引いて、駆け出す。
色々な景色を見せて、色々なことを体験させた。
次第に京子は笑顔を見せてくれて、私はそれが誇らしくなった。
嬉しくなって先を急ごうとする私を、後ろから京子が呼び止める。
京子「結衣」
振り返って見えた京子の姿は、いつの間にか、今の姿まで成長していた。
泣きそうな声で私を呼ぶ。
泣きそうな瞳で私を見る。
京子「結衣」
私を見て。
私を愛して。
私を一人にしないで。
私はそんな京子を、助けを求める京子を、見捨てて駆け出した。
ただただ悲しそうに私を見つめる京子の瞳が忘れられなくて、
閉じ込めた言葉と想いが、胸の中で理性を振りほどき暴れ出す。
わかっているから、わかっているから、そんな目で見ないで。
少しだけ、一人にさせて。
私を見て。
私を愛して。
私を一人にしないで。
私はそんな京子を、助けを求める京子を、見捨てて駆け出した。
ただただ悲しそうに私を見つめる京子の瞳が忘れられなくて、
閉じ込めた言葉と想いが、胸の中で理性を振りほどき暴れ出す。
わかっているから、わかっているから、そんな目で見ないで。
少しだけ、一人にさせて。
結衣「朝か」
朝の目覚めの気分は最悪で、夢の余韻は私の気力を削ぐ。
夢の内容は見事に私の心の中を表していて、それを見せられた私はたまったものではない。
結衣「学校、行きたくないな……」
何だか大好きなこともしたくない、今日が、明日が、怖くて嫌になる。
逃げてしまえれば楽だけれど、きっと逃げても後悔でまた死にたくなるのだろう。
結衣「難儀だなぁ」
板挟みになった私の心は、どうすればいいのだろうか。
天高く馬肥ゆる秋、この気持ちとは裏腹に、外は澄み渡った青空で。
晩秋へ向かうにつれて空は透明度を増し、より一層青く、より一層高くなってきている。
入道雲に代わって、秋特有の雲も多くなり、こんなところからも季節の移り変わりを感じる。
結衣「早いけど、支度しようかな」
することもないのだから、たまにはさっさと学校に行ってもいいだろう。
朝の目覚めの気分は最悪で、夢の余韻は私の気力を削ぐ。
夢の内容は見事に私の心の中を表していて、それを見せられた私はたまったものではない。
結衣「学校、行きたくないな……」
何だか大好きなこともしたくない、今日が、明日が、怖くて嫌になる。
逃げてしまえれば楽だけれど、きっと逃げても後悔でまた死にたくなるのだろう。
結衣「難儀だなぁ」
板挟みになった私の心は、どうすればいいのだろうか。
天高く馬肥ゆる秋、この気持ちとは裏腹に、外は澄み渡った青空で。
晩秋へ向かうにつれて空は透明度を増し、より一層青く、より一層高くなってきている。
入道雲に代わって、秋特有の雲も多くなり、こんなところからも季節の移り変わりを感じる。
結衣「早いけど、支度しようかな」
することもないのだから、たまにはさっさと学校に行ってもいいだろう。
朝早くから、久しぶりに一人で登校する。
そのことに申し訳なさと、後ろ暗い清々しさを感じる。
どうやら、このところの皆との会話は、私にとって負担になっていたようだ。
楽しくもないのに楽しいフリをしていた、それは何のためで、誰のためだろう。
次はどうすればいいのだろう、また笑えばいいのだろうか。
わからない、答えが見つからない。
結衣「閉まってるか……」
案の定、教室には誰もいなくて、教室の鍵を取りに行く羽目になった。
結衣「………」
人の少ない教室に、徐々に賑やかさが溢れていく。
途中で、京子が隣を通り過ぎたけれど、互いに挨拶はしなかった。
そろそろ授業の準備をしようかと、鞄から教科書を取り出し、机の中を探る。
結衣「……ん?」
机に手紙が入っていた。
差出人は、ちなつちゃんだった。
そのことに申し訳なさと、後ろ暗い清々しさを感じる。
どうやら、このところの皆との会話は、私にとって負担になっていたようだ。
楽しくもないのに楽しいフリをしていた、それは何のためで、誰のためだろう。
次はどうすればいいのだろう、また笑えばいいのだろうか。
わからない、答えが見つからない。
結衣「閉まってるか……」
案の定、教室には誰もいなくて、教室の鍵を取りに行く羽目になった。
結衣「………」
人の少ない教室に、徐々に賑やかさが溢れていく。
途中で、京子が隣を通り過ぎたけれど、互いに挨拶はしなかった。
そろそろ授業の準備をしようかと、鞄から教科書を取り出し、机の中を探る。
結衣「……ん?」
机に手紙が入っていた。
差出人は、ちなつちゃんだった。
~昼休み~
ちなつ「好きです、結衣先輩」
最近の私はモテ期というやつなのだろうか。
よりにもよって、同性からの告白を二日連続で体験してしまうなんて。
手紙の内容は、お昼休みを利用した呼び出しだった。
その呼び出しの目的は、告白だったようだ。
結衣「……わたしを?」
面食らって、失礼な返し方をしてしまった。
ちなつ「はい、驚かせてしまったようで、すみません」
結衣「こっちこそ、きちんとした返事をしなくて、ごめん」
結衣「その……女同士だから……」
結衣「本当にそうなのか、どうしても実感できなくて」
京子の時には考えていなかった問題が、気になった。
ちなつ「好きです、結衣先輩」
最近の私はモテ期というやつなのだろうか。
よりにもよって、同性からの告白を二日連続で体験してしまうなんて。
手紙の内容は、お昼休みを利用した呼び出しだった。
その呼び出しの目的は、告白だったようだ。
結衣「……わたしを?」
面食らって、失礼な返し方をしてしまった。
ちなつ「はい、驚かせてしまったようで、すみません」
結衣「こっちこそ、きちんとした返事をしなくて、ごめん」
結衣「その……女同士だから……」
結衣「本当にそうなのか、どうしても実感できなくて」
京子の時には考えていなかった問題が、気になった。
ちなつ「……そうですね」
ちなつちゃんは私の言葉にうつむく。
私は無神経にも、可愛い後輩を傷つけてしまったようだ。
恋愛事で人を傷つけないためには、どういう言動をすればいいのだろう。
ちなつ「でもっ、私は結衣先輩のことが好きです!」
ちなつ「同性であろうと、学年が違おうと、出会ってから一年も経っていなくても!」
ちなつ「私は、結衣先輩のことが好きなんです!」
結衣「……ありがとう」
京子の告白には言えなかった、感謝の言葉が口をついて出る。
結衣「ちなつちゃんの気持ちは嬉しい、だけど」
結衣「少し、時間をもらえないかな」
優柔不断な私には、もう何を考えればいいのか、それすらわからない。
ちなつちゃんの想いは、今の私にはあまりに重い。
ちなつちゃんは私の言葉にうつむく。
私は無神経にも、可愛い後輩を傷つけてしまったようだ。
恋愛事で人を傷つけないためには、どういう言動をすればいいのだろう。
ちなつ「でもっ、私は結衣先輩のことが好きです!」
ちなつ「同性であろうと、学年が違おうと、出会ってから一年も経っていなくても!」
ちなつ「私は、結衣先輩のことが好きなんです!」
結衣「……ありがとう」
京子の告白には言えなかった、感謝の言葉が口をついて出る。
結衣「ちなつちゃんの気持ちは嬉しい、だけど」
結衣「少し、時間をもらえないかな」
優柔不断な私には、もう何を考えればいいのか、それすらわからない。
ちなつちゃんの想いは、今の私にはあまりに重い。
ちなつ「……それは、京子先輩のことで、時間が欲しいからですか?」
結衣「………ッ」
別に京子のことは関係ない、そう言い返そうとした。
けれど、静かなちなつちゃんの瞳を前に、何も言えなかった。
ちなつ「わかりますよ」
ちなつ「私は、結衣先輩のことを、ずっと見てきたんですから」
ちなつちゃんは一体いつから、私を想っていたのだろう。
いつまでも秘めた恋心に気付かなかった私を、どういう気持ちで見ていたのだろうか。
ちなつ「結衣先輩は、意外と顔に出やすい人ですね」
結衣「そう、なのかな」
自分なりに寡黙で分かりにくい性格なのだと思っていたけれど。
この調子では、あかりにも色々と気づかれていそうだ。
結衣「………ッ」
別に京子のことは関係ない、そう言い返そうとした。
けれど、静かなちなつちゃんの瞳を前に、何も言えなかった。
ちなつ「わかりますよ」
ちなつ「私は、結衣先輩のことを、ずっと見てきたんですから」
ちなつちゃんは一体いつから、私を想っていたのだろう。
いつまでも秘めた恋心に気付かなかった私を、どういう気持ちで見ていたのだろうか。
ちなつ「結衣先輩は、意外と顔に出やすい人ですね」
結衣「そう、なのかな」
自分なりに寡黙で分かりにくい性格なのだと思っていたけれど。
この調子では、あかりにも色々と気づかれていそうだ。
ちなつ「昨日から輪をかけて様子がおかしくなった京子先輩に、部活を休んだ結衣先輩」
ちなつ「そんな状況で、気がつかないというのは、無理がありますし」クスッ
ちなつ「それから京子先輩、しばらくごらく部は休みだって、暗い顔でそういったんです」
ちなつ「しばらく、みんな一人でのんびりしようって……」
自分の都合で休む、それが失礼で信頼を裏切る行為だったことを、今一度思い返す。
そして全てを京子に任せて逃げた、京子に辛い選択をさせた、
そんな自分自身への嫌悪で気分が沈む。
ちなつ「あっ、結衣先輩を責めているわけではないんです」
ちなつちゃんは優しい顔で、私に許しをくれる。
ちなつ「……昨日は京子先輩に、告白でもされましたか?」
結衣「………」
私は何も言えなかった。
否定をすれば、ちなつちゃんも追求をやめたかもしれない。
けれど、肯定と否定のどちらかを選ぶ、その勇気が私にはなかった。
ちなつ「そんな状況で、気がつかないというのは、無理がありますし」クスッ
ちなつ「それから京子先輩、しばらくごらく部は休みだって、暗い顔でそういったんです」
ちなつ「しばらく、みんな一人でのんびりしようって……」
自分の都合で休む、それが失礼で信頼を裏切る行為だったことを、今一度思い返す。
そして全てを京子に任せて逃げた、京子に辛い選択をさせた、
そんな自分自身への嫌悪で気分が沈む。
ちなつ「あっ、結衣先輩を責めているわけではないんです」
ちなつちゃんは優しい顔で、私に許しをくれる。
ちなつ「……昨日は京子先輩に、告白でもされましたか?」
結衣「………」
私は何も言えなかった。
否定をすれば、ちなつちゃんも追求をやめたかもしれない。
けれど、肯定と否定のどちらかを選ぶ、その勇気が私にはなかった。
ちなつ「やっぱり、そうでしたか」
ちなつちゃんは予想外に、穏やかな表情をしている。
ちなつ「そんな顔、なさらないでください」
今の私はさぞ情けない顔をしていることだろう。
これではちなつちゃんにも愛想を尽かされてしまう。
ちなつ「返事、待っています」
ちなつ「今日は、ありがとうございました」
ちなつちゃんは私の返事を待つことなく、この場を去った。
結衣「………」
結衣「……ちなつちゃん」
私を慕ってくれていることは感じていたけれど、
それが性別の枠を超えた、思慕の念だとは思っていなかった。
ちなつちゃんは予想外に、穏やかな表情をしている。
ちなつ「そんな顔、なさらないでください」
今の私はさぞ情けない顔をしていることだろう。
これではちなつちゃんにも愛想を尽かされてしまう。
ちなつ「返事、待っています」
ちなつ「今日は、ありがとうございました」
ちなつちゃんは私の返事を待つことなく、この場を去った。
結衣「………」
結衣「……ちなつちゃん」
私を慕ってくれていることは感じていたけれど、
それが性別の枠を超えた、思慕の念だとは思っていなかった。
キーンコーンカーンコーン
授業開始のチャイムとともに、教室にギリギリの時間で戻る。
当然と言うべきかもしれないが、既に京子は席についていた。
結衣「………」
朝から碌に顔を見ていなかったが、よくよく見ると京子の顔色は悪く、動作も緩慢としている。
私たちの中がこじれているから、そういう話でもないだろう。
それくらいの区別はつく、ずっと一緒だった幼馴染のことなのだ、私には分かる。
結衣「…………京子」
何気に話しかけるのは、京子の告白以来だ。
京子「……っなに?」
京子の顔は不自然に上気していて、それは気持ちの変調だけでは説明がつかない。
今まで、気づけなかった自分自身に腹が立つ。
授業開始のチャイムとともに、教室にギリギリの時間で戻る。
当然と言うべきかもしれないが、既に京子は席についていた。
結衣「………」
朝から碌に顔を見ていなかったが、よくよく見ると京子の顔色は悪く、動作も緩慢としている。
私たちの中がこじれているから、そういう話でもないだろう。
それくらいの区別はつく、ずっと一緒だった幼馴染のことなのだ、私には分かる。
結衣「…………京子」
何気に話しかけるのは、京子の告白以来だ。
京子「……っなに?」
京子の顔は不自然に上気していて、それは気持ちの変調だけでは説明がつかない。
今まで、気づけなかった自分自身に腹が立つ。
結衣「額を貸して」ピト
京子「ゆっ、結衣!?」ガタッ
慌てる京子を無視して、手に感じる温度を自分のそれと比べる。
結衣「やっぱり、熱がある……」
京子「えっ……」
季節の変わり目は、風邪を引きやすい。
そこに精神的な要因が加わったといったところか。
結衣「保健室、いくぞ」
おどおどとしている京子の手を、軽く引っ張る。
京子「別に大丈夫だよ、そんなことしなくたってわたs」
結衣「座っているだけでも、辛いくせに」
京子「………」
図星をつかれたのか、京子の抵抗が弱くなる。
京子「ゆっ、結衣!?」ガタッ
慌てる京子を無視して、手に感じる温度を自分のそれと比べる。
結衣「やっぱり、熱がある……」
京子「えっ……」
季節の変わり目は、風邪を引きやすい。
そこに精神的な要因が加わったといったところか。
結衣「保健室、いくぞ」
おどおどとしている京子の手を、軽く引っ張る。
京子「別に大丈夫だよ、そんなことしなくたってわたs」
結衣「座っているだけでも、辛いくせに」
京子「………」
図星をつかれたのか、京子の抵抗が弱くなる。
結衣「私がおんぶしていくから」
京子「…………うん」
この様子では、熱が出る前から自覚症状もあったはずだ。
私に対する意地で、ずっと前から我慢していたのだろうか。
結衣「先生が来たら、京子は熱があるから保健室にいったって、連絡してもらえるかな」
ウン、ワカッタ ワタシハカバンヲモツネ
結衣「しっかり掴まれる?」
京子「だいじょうぶ」
この高熱に、酷い衰弱ぶり。
ご両親に迎えを頼むことになりそうだ。
京子「…………うん」
この様子では、熱が出る前から自覚症状もあったはずだ。
私に対する意地で、ずっと前から我慢していたのだろうか。
結衣「先生が来たら、京子は熱があるから保健室にいったって、連絡してもらえるかな」
ウン、ワカッタ ワタシハカバンヲモツネ
結衣「しっかり掴まれる?」
京子「だいじょうぶ」
この高熱に、酷い衰弱ぶり。
ご両親に迎えを頼むことになりそうだ。
~授業中~
「であるので、ここは形容詞の……」
京子のことが気になって、授業に集中できない。
保健医の先生は親御さんを呼ぶと言っていたが、迎えはもう来ただろうか。
体は平気だろうか、寂しい思いをしていないだろうか。
「ここはサ行変格活用で……」
放課後に、京子の家へ見舞いに行こう。
胸が不自然に高鳴るけれど、この想いはきっと行動の先にある。
「ここは音便があって……」
ちなつちゃんへの返事も、京子への想いも、私の気持ちも、
きっと全ては京子に会わないと分からないものなんだ。
「船見さん、聞いていますか?」
先生に怒られてしまった。
けれども、私の頭の中は京子一色で、その後も集中なんてできやしないのであった。
林檎でも持っていったほうがいいだろうか、風邪にはレモネードや生姜湯もいいだろうか。
「であるので、ここは形容詞の……」
京子のことが気になって、授業に集中できない。
保健医の先生は親御さんを呼ぶと言っていたが、迎えはもう来ただろうか。
体は平気だろうか、寂しい思いをしていないだろうか。
「ここはサ行変格活用で……」
放課後に、京子の家へ見舞いに行こう。
胸が不自然に高鳴るけれど、この想いはきっと行動の先にある。
「ここは音便があって……」
ちなつちゃんへの返事も、京子への想いも、私の気持ちも、
きっと全ては京子に会わないと分からないものなんだ。
「船見さん、聞いていますか?」
先生に怒られてしまった。
けれども、私の頭の中は京子一色で、その後も集中なんてできやしないのであった。
林檎でも持っていったほうがいいだろうか、風邪にはレモネードや生姜湯もいいだろうか。
~京子の家~
結衣「京子」
京子「あ……結衣……」ケホッ
京子「来て……くれたんだ……」
結衣「無理に起きなくていい」
京子の風邪は想像以上に深刻なようだった。
まともに起きていることもできないみたいだ。
結衣「熱が出ているんだから、そのまま安静にしていて」
気まずいから、なんて言っている場合じゃない。
優先順位でいえば、そんなものよりも京子の方が遥かに大切だ。
京子「せっかく結衣が来てくれてるのに、寝てなんていられないよ……」
京子の息は荒く、顔は紅潮している。
ずっと辛そうな表情で、目尻には涙が浮かんでいて、体は汗ばんでいる。
結衣「京子」
京子「あ……結衣……」ケホッ
京子「来て……くれたんだ……」
結衣「無理に起きなくていい」
京子の風邪は想像以上に深刻なようだった。
まともに起きていることもできないみたいだ。
結衣「熱が出ているんだから、そのまま安静にしていて」
気まずいから、なんて言っている場合じゃない。
優先順位でいえば、そんなものよりも京子の方が遥かに大切だ。
京子「せっかく結衣が来てくれてるのに、寝てなんていられないよ……」
京子の息は荒く、顔は紅潮している。
ずっと辛そうな表情で、目尻には涙が浮かんでいて、体は汗ばんでいる。
京子「結衣、結衣、行かないで」
はるか昔に迷子になった時のように、寂しくて、不安で、私しか頼れない。
今の京子は、そんな顔をしている。
結衣「どこにもいかないよ」
できるだけ優しく、気持ちが伝わりますように、そう念じて頭を撫でる。
京子「嘘」
ここ数日のことで、不安になっているのだろうか。
私が離れてしまうことに、臆病になっているのだろうか。
結衣「本当、今日は京子の傍にいるよ」
結衣「京子の手を、眠るまで握っているから」
そっと握った京子の手は、頭の熱に比べて驚くほどに冷えていた。
はるか昔に迷子になった時のように、寂しくて、不安で、私しか頼れない。
今の京子は、そんな顔をしている。
結衣「どこにもいかないよ」
できるだけ優しく、気持ちが伝わりますように、そう念じて頭を撫でる。
京子「嘘」
ここ数日のことで、不安になっているのだろうか。
私が離れてしまうことに、臆病になっているのだろうか。
結衣「本当、今日は京子の傍にいるよ」
結衣「京子の手を、眠るまで握っているから」
そっと握った京子の手は、頭の熱に比べて驚くほどに冷えていた。
京子「今日だけ?」
結衣「今日の京子は、甘えんぼさんだね」
熱の影響で幼児退行でもしてしまったかのようだ。
私に宣戦布告してみせた、あの不思議な雰囲気は欠片もなく、私の知る京子の姿だった。
結衣「京子の具合が良くなったら、また遊びにくる」
結衣「京子が私の家に泊まりに来てもいい」
私の中の葛藤はどこへやら、京子を安心させる、ただそれだけが頭にあった。
京子「遊んでくれるの?」
結衣「勿論」
京子「ホントに?」
結衣「何年、こうやって付き合いが続いてきたと思ってるんだ、京子は」クスッ
結衣「今日の京子は、甘えんぼさんだね」
熱の影響で幼児退行でもしてしまったかのようだ。
私に宣戦布告してみせた、あの不思議な雰囲気は欠片もなく、私の知る京子の姿だった。
結衣「京子の具合が良くなったら、また遊びにくる」
結衣「京子が私の家に泊まりに来てもいい」
私の中の葛藤はどこへやら、京子を安心させる、ただそれだけが頭にあった。
京子「遊んでくれるの?」
結衣「勿論」
京子「ホントに?」
結衣「何年、こうやって付き合いが続いてきたと思ってるんだ、京子は」クスッ
京子「……よかった」ニコッ
京子が笑う、それだけで私の心は沸き立つ。
それは、恋愛事なんて知らなかった昔からのことで。
京子「……本当に、よかった」
結衣「京子?」
京子がそっぽを向いた。
不安になってのぞき込もうとして、京子から聞こえる小さな嗚咽に気が付く。
京子「………」グスッ
結衣「京子……」
結衣「京子は昔から泣き虫だなぁ」ナデナデ
ちょっと大人になったようで、その本質は変わっていないようだ。
京子は時と共に変わってきたけれど、それでも変わらない部分もあったのだ。
そんな当たり前のことに、私は安堵した。
京子が笑う、それだけで私の心は沸き立つ。
それは、恋愛事なんて知らなかった昔からのことで。
京子「……本当に、よかった」
結衣「京子?」
京子がそっぽを向いた。
不安になってのぞき込もうとして、京子から聞こえる小さな嗚咽に気が付く。
京子「………」グスッ
結衣「京子……」
結衣「京子は昔から泣き虫だなぁ」ナデナデ
ちょっと大人になったようで、その本質は変わっていないようだ。
京子は時と共に変わってきたけれど、それでも変わらない部分もあったのだ。
そんな当たり前のことに、私は安堵した。
京子「うるさぃ……」ケホッ
結衣「それはごめん」
確かに京子は病人なのだ、騒がしくして、頭を撫でるのは良くないかもしれない。
手を軽く握るだけに留めておこうか。
京子「………」ジィー
京子「もっとなでて?」
結衣「……はいはい」ナデナデ
頭を撫でるのを止めると、催促されてしまった。
素直になった京子というのは、久しぶりな気がする。
京子「………」
目を細めて、今にも喉を鳴らしそうな様は、まるで猫みたいだ。
京子「体調が良くなったら、紅葉を見に行きたい」
そういえば、紅葉の見頃もそろそろか。
京子はイベント好きで、乙女なところがあるから、いつかは言い出すと思っていた。
結衣「それはごめん」
確かに京子は病人なのだ、騒がしくして、頭を撫でるのは良くないかもしれない。
手を軽く握るだけに留めておこうか。
京子「………」ジィー
京子「もっとなでて?」
結衣「……はいはい」ナデナデ
頭を撫でるのを止めると、催促されてしまった。
素直になった京子というのは、久しぶりな気がする。
京子「………」
目を細めて、今にも喉を鳴らしそうな様は、まるで猫みたいだ。
京子「体調が良くなったら、紅葉を見に行きたい」
そういえば、紅葉の見頃もそろそろか。
京子はイベント好きで、乙女なところがあるから、いつかは言い出すと思っていた。
結衣「その時はお弁当を作ってやるから、一緒に食べようか」ニコッ
これまでの距離感が嘘のように、京子に誘いをかけることができた。
こんなに京子に愛想を振りまいて、寝かしつけてやるのは、いつ以来だろう。
京子「うん……」
その返答を最後に、京子の動きが鈍くなる。
京子の可愛らしい瞳は目蓋で隠されて、程なくして安定した寝息が聞こえてきた。
京子「………」スヤスヤ
結衣「おやすみ、京子」
京子の額に口付けを落とし、病状の改善を祈った。
……どうやら私の答えも定まったようだ。
京子が寝入ってからも、しばらくその手を握って、寝顔を見つめていた。
これまでの距離感が嘘のように、京子に誘いをかけることができた。
こんなに京子に愛想を振りまいて、寝かしつけてやるのは、いつ以来だろう。
京子「うん……」
その返答を最後に、京子の動きが鈍くなる。
京子の可愛らしい瞳は目蓋で隠されて、程なくして安定した寝息が聞こえてきた。
京子「………」スヤスヤ
結衣「おやすみ、京子」
京子の額に口付けを落とし、病状の改善を祈った。
……どうやら私の答えも定まったようだ。
京子が寝入ってからも、しばらくその手を握って、寝顔を見つめていた。
~登校~
本日は快晴。
起きてすぐに京子のことが気になって、京子の家に向かった。
やはり、高熱が引いていないらしく、欠席させるとのことだ。
結衣「京子は休み、か……」
京子の代わりに私が熱を引き受けてあげられたなら、そんなことを思った。
祭礼や儀式に使う人形も、親しい人の災厄を引き受けたい、
きっとそんな思いから生まれたのだろう。
何時までも心配ばかりしていても気が滅入る、何か明るいことを考えよう。
京子の体調が戻ったら何をしようか、パーティーでもしようか。
昨日に続いて、今日も私は一人で登校する。
けれど、その足取りは心なしか昨日よりも軽いものだった。
本日は快晴。
起きてすぐに京子のことが気になって、京子の家に向かった。
やはり、高熱が引いていないらしく、欠席させるとのことだ。
結衣「京子は休み、か……」
京子の代わりに私が熱を引き受けてあげられたなら、そんなことを思った。
祭礼や儀式に使う人形も、親しい人の災厄を引き受けたい、
きっとそんな思いから生まれたのだろう。
何時までも心配ばかりしていても気が滅入る、何か明るいことを考えよう。
京子の体調が戻ったら何をしようか、パーティーでもしようか。
昨日に続いて、今日も私は一人で登校する。
けれど、その足取りは心なしか昨日よりも軽いものだった。
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