元スレキョン「世界でたった一人だ」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ★★
501 :
構わん続けろ
503 = 498 :
・ ・ ・
再度瞼を開けた先にあったのは、満点の星空。
初めに思ったのは、織姫と彦星は、無事に再会できたんだろうかということだった。御伽噺の中とはいえさ。一年に一度の逢瀬だ、幸せな一日を営んでもらいたいもんだが。
俺は虚ろな意識をどうにかはっきりさせるために目尻を擦ろうとし、手が砂まみれなのを発見して、使用する部位を汚れていない腕の腹に変更した。
……と、いうかだな。
ここは何処で、今は何時で、ついでに俺は誰だ?
「――あんたって、ほんとバカね」
辛辣な声が降り注いで、俺は甲高い声の持ち主を探しに、眼を細めた。闇の中にぼんやりと浮かび上がる、小柄な少女。顔はよく見えない。
「手伝うなら手伝うで、ちゃんとやりなさいよ。転んでおでこぶつけて気絶なんて、今時小学生だってしないわよ」
504 = 489 :
おお良かった
506 = 498 :
むくれた少女の声に、俺は記憶を辿って見る。……駄目だ、さっぱり思い出せんな。
全身が怠い。頭の中で小人が金槌を振るってやがる。
「……悪かったよ。俺は気絶してたみたいだが、お前の用は済んだのか」
「あんた、線引き終わった後で倒れたじゃない。覚えてないの?」
僅かに、気遣うような調子に変わる声色。
ついさっきの記憶どころか、名前も忘失だ。どうしたもんだろう、と言うのは簡単だったが――少女がそれを聞いたら落ち込むだろうと思うと、何となく口に出すのは躊躇われる。
俺が答えを迷っていると、少女は何かを察知したようで、
「―――ごめんなさい」
やけに殊勝な声で、謝罪の言葉を呟いた。
508 = 498 :
「……なんで謝る? そういうの、らしくないぜ」
俺はこの少女の何を覚えているわけでもないのに、何でこんなことを口走ってるんだろうね。染み付いた習性か何かか?
少女の方は、「だって、」と愚図るように呟き、砂地にしゃがみ込んだ。
「やっぱり、あんたを手伝わせるべきじゃなかった」
「どうしてだ。俺は拒まなかっただろ?」
「頭打ったの、あたしに協力したせいでしょ。
あんたが、あたしの何かを変えてくれる気がしたから、線引きも頼んじゃったけど。
あたしっていつもこうなのよ。何でかしら。他人なんてどうでもいいって思ってた。どうせ味方なんていないって、あたしは世界でたった一人だって。
――でもそれは、あたしには関係ない人間たちのこと、傷つけてもいいって意味じゃなかったのに」
512 = 498 :
己の手の中から零れ落ちてしまったものたちを悔やみ、自信を喪失したように語る少女が、ひどく痛ましかった。
もっと全速前進で、生命力を漲らせて闊達として笑う様が、この娘には似合うだろうに。
「……まあ、何かに夢中になって外側が疎かになったりってことはあるよな。誰にでもさ。意図しなくても傷つけたり、些細なことで傷つけられたり。――でもそんなのは当たり前のことじゃないか」
少女が、「……そうかしら」と呟くのに、俺は大きく頷いてみせる。
「お前、もしかして慣れてないんじゃないか? 人と付き合うってのは、何かしらぶつかり合いがあったり、思惑があったりするもんだ。それを言葉で補って、分かり合って進む。
――お前はまだ、やり方を上手く知らないだけなんだよ。何かに突っ走ること事態は、そう悪いことじゃない。猪突猛進も、遠ざけられやすい奇想天外も、別の眼で見りゃ長所なんだ。
お前のそういうとこを、好きな奴もきっと居るぞ」
513 = 498 :
>>512
事態→自体
516 :
スレストされるとやだから
あげて支援してる人さげよ
517 = 498 :
それに、と俺はこめかみを掻いて、
「俺がお前を手伝って気絶したのは、単に俺がトロいからであって、お前のせいじゃない。
――こんな綺麗な星空の夜に、俺とお前の二人が居るんだから。これだけで、お前が世界にたった一人じゃない証左にはなると思うがな」
――そんな簡単なことくらい、お前だったらちゃんと分かってるだろう?
俺の声に、少女はそっぽを向き、不本意そうに唇をひん曲げた。
「×××のくせに、生意気だわ」
その響きが拗ねたようだったので、俺は思わず笑っちまった。
519 = 498 :
その奇抜な特性も、何かを見つけたときに光り輝く好奇心旺盛な黒瞳も、風にたなびく黒髪も、百ワットの笑顔も。
俺は知っている。いつからか、ずっと惹かれてやまなかったものたちだ。俺が隣にあって、見つめ続けることを願ったものたちだ。
―――そう、この少女の名前は、
521 :
今から読む支援
522 :
>>158を見て藤原の声がオーメル仲介人になった…
523 :
>>520
少女なんだから結婚後の姓なのはおかしいだろう
525 = 498 :
・ ・ ・
消毒液のような匂いが鼻をついた。
蒸気のように霞んでいた思考が、徐々にクリアになっていく。寝返りを打とうとして、上体が動かせないように固定されていることに気付いた。
冷たくさらりとした布地の感触を確かめながら手を滑らせると、そっと柔らかな温もりに包まれる。誰かが俺の手を護るように、握り込んでいるのだ。
ざわめきが耳を通過していく。眼を閉ざしていても分かる、ここには明るく白い光が満ちている。
「――――――――――――――ハルヒ?」
唇を動かし、それなりの声量を発揮したつもりであったのだが、零れた音はごく微量だった。殆ど囁きに等しい。
526 = 498 :
だが、優しい手の主は、俺の口唇の動きをつぶさに読み取り、しっかりとした返答を遣した。
「そう、あたしよ。――あんた、まだ寝てなさい。一応重傷患者なんだから」
声のみだったが、俺には劇的なリラクゼーションだった。ハルヒが傍に居り、俺の手を握っている、それだけで安らぐものを実感する。
これが死体の見ている一縷の夢、なんて不吉なものでないなら――ここは俺たちの生きていた世界から、地続きの現実である筈だ。
どうやら俺は無事にハルヒを取り戻せたらしい。何がどうなってハルヒの能力が収束したのかが分からないため、据わりが悪いが。
――しかし、重症患者? 俺が?
528 :
おい明日の夜まで残ってろよ
530 :
支援、心の底から支援
531 = 498 :
「そう。三日前、通り魔からあたしを庇って刺されたのよ。下手したら出血多量で死ぬとこよ。ほんと、生きた心地がしなかったんだから。
優秀な医療スタッフに感謝しなさい」
「………そうか」
通り魔ってことは、不思議探索の時の話だよな。
――発言内容を鑑みるに、時間軸が巻き戻っている。ハルヒの世界崩壊騒ぎは、もしや全般が「なかったこと」になっているのだろうか?
後で長門たちに確認を取った方が良さそうだ。俺のみの記憶に留まっているということはないだろうが、念のためにな。
「長門たちは、いないのか」
「ううん、みんな来てるわよ。今、花瓶の水を取り替えにいってるの。――佐々木さんも、今日の講義が終わったら来るって言ってたわ」
535 :
そろそろ終わりかな?支援
536 = 498 :
この口ぶりだと古泉も一緒で、それも恐らく普段通りの古泉だろう。
何もかもが元の通りに、修正されていると判断してしまって平気だよな。――取り返せたんだよな、俺は?実はこの平穏な情景は幻で……なんて、悲劇にありがちなどんでん返しのオチだけは勘弁してくれよ。
「………キョン?」
ハルヒが訝しげに俺を呼ぶ、ただそれだけの声が胸に染みる。俺はハルヒの掌を離さないようにと、指先を強く絡めた。
引き攣る咽喉から、俺は息を吸う。
「―――ハルヒ。お前に、話さなきゃいけないことがある」
紡いだ小さな声を余すところなく聞き取って、ハルヒは沈黙した。
537 = 444 :
「俺、包茎なんだ」
538 = 368 :
>>537
しね
539 :
>>537
嫌いじゃ無い。
540 = 444 :
>>538
>>539
(あれ、ごめん騙されちゃった? もう少しで終わるからこっそり盛り上げていこうね!)
542 :
追いついた
しんえんん
543 = 498 :
「ずっと言わなきゃいけなかった。……ちゃんと全部話す。もう、俺たちの間に、隠し事はナシにしなきゃな」
言葉が足りなかった。釦を掛け違え、ハルヒを暴走に追い込んだのは、恐らく互いに想いを尽くすことが不足していたからだ。
俺の伝えた覚悟に、ハルヒもまた、「そうね」と静かな肯定を残した。
「あたしも、あるわ。あんたにだけじゃない、SOS団のみんなに言わなきゃいけないこと」
544 :
はやくぅううう
545 = 498 :
総てを吐露し合い、知り合って、SOS団が単なる仲良しグループではなかったことが表沙汰になったとき。
俺たちの間にどんな変化が生じるのか、俺にはまだ分からない。
だが、信じている。長門や朝比奈さんや古泉と俺たちとの間に築かれてきた絆が、易々と千切れたりはしないだろうってことを。
何度分断されても、再び手を繋いできたのが俺たちなんだ。蟠りが解ける日は、きっと遠くない。
なあ、知ってるだろ?
例え俺たちの物語にハッピーエンド以外の脚本を用意した奴がいたとしても。―――涼宮ハルヒを筆頭に、その不届き者をSOS団総出で返り討ちにしてやるまでのことなのさ。
546 = 498 :
本編はこれで終了です。多大な支援ありがとうございました…!
30分ほど置いてから、エピローグ書きます。
物語の背景的な話になるので、ここまででも支障ありません。
549 = 375 :
がんばれ、とりあえず乙
みんなの評価 : ★★
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