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元スレ阿良々木「みんなが僕のことを好きだって?」
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「八股狸を怪異として見るときに重要になるのは、
説話じゃなくて――名前なんだよ」
「……名前?」
「そう、名前。
この怪異はね、八股狸の言い伝えそのものじゃなくて、八股狸って名前から怪異が派生したんだ。
ほら、二人の異性と同時に付き合うことを、二股をかけるって言うだろ?
あれと同じで、八股狸は――八人の異性に同時に好かれた人間が、憑かされる怪異だ」
「はあっ?」
自分でもびっくりするくらい間抜けな声が出た。
危うく携帯電話を取り落としそうになる。
みんなが僕のことを好きだって?
そんなアホな。
スレタイ回収したかwwwwww
しかも例のごとく怪異は悪くなかった
しかも例のごとく怪異は悪くなかった
「忍野、またふざけてるんだったら早いところ――」
「ふざけてなんかいない」
ぴしゃりと言葉を重ねられる。
「僕は至って真剣だよ、阿良々木くん」
「…………………」
確かにその声色には、ふざけた様子は感じとれない。
いや、でも、なあ。
八人の異性に好かれている?
今日会った異性と言えば、ファイヤーシスターズ、八九寺、戦場ヶ原、神原、千石に、忍で八人か。
まあ、影縫さんと斧乃木ちゃんは別枠として。
だってこの二人には、絶対に、確実に、何があっても好かれてないということくらい、さすがの僕でも分かる。
斧乃木ちゃんに至っては、忍にボコられたこともあるし、むしろ嫌われてるんじゃないかとも思う。
>>606
× 今日会った異性と言えば、ファイヤーシスターズ、八九寺、戦場ヶ原、神原、千石に、忍で八人か。
○ 今日会った異性と言えば、ファイヤーシスターズ、八九寺、戦場ヶ原、神原、千石、羽川に、忍で八人か。
× 今日会った異性と言えば、ファイヤーシスターズ、八九寺、戦場ヶ原、神原、千石に、忍で八人か。
○ 今日会った異性と言えば、ファイヤーシスターズ、八九寺、戦場ヶ原、神原、千石、羽川に、忍で八人か。
>>612
ブラック羽川だけどな
ブラック羽川だけどな
「勿論、阿良々木くん。
この場合の好意ってのは、何も恋愛感情の話とは限らない。
恋愛感情の好意を寄せている人間は、少なくとも一人いればいいのさ」
「そうならそうと先に言えよ……」
無駄に動揺しただろうが。
それだったら、僕だって心当たりはある。
その人だけは、僕に向けて確かに恋愛感情を向けてくれていると、
自惚れも含めて断言することができる人物が、たった一人だけ存在するからだ。
戦場ヶ原ひたぎ。
彼女からの好意は、確かに惚れた腫れたの好意に違いない。
「あー、あー、ああー!
なーんか阿良々木くんが阿良々木くんのくせにのろけたこと考えてるのが電話越しでも伝わってくるよ!
嫌だ嫌だ、幸せな阿良々木くんなんかさっさとこっぴどくフラレて死んじゃえばいいのになぁー!!」
「………忍野、お前なんかやさぐれてないか」
この町を離れて何があったんだよ。
ちょっと心配だ。
「つまりだよ、八股狸が発生する条件ってのは、簡単に言ってしまえばこういうことだ。
ある一組のカップルがいて、そのどちらかのことを、
恋愛感情でも、家族としてでも、単純な友情でもいいから好意を寄せる七人の異性がこう願えばいいのさ。
『もっと自分のこともかまってほしい』ってね」
「はあん……」
なるほど。
そういう話か。
確かに戦場ヶ原がデレた喜びで、もうここしばらくはずっと、
僕は戦場ヶ原フィーバーだったけれど。
「もっとも阿良々木くんの場合、
何だかんだで恋愛感情要因ばっかりな気がするけどね」
なんだか拗ねている忍野は、この際無視することにした。
「それで、忍野。
八股狸が現れる条件については分かったけれど、
結局のところ八股狸ってのはどんな怪異で、今回は誰が憑かれてんだよ」
「ん? なんだ、ここまで説明してもまだ分からなかったのかい?
相変わらず阿良々木くんは愚鈍だなあ」
「………………」
忍野含め、大人なんかみんな大嫌いである。
「まさか自覚がないとは思わなかったよ。
いいかい、阿良々木くん。
分からないのなら仕方ないからわざわざ言ってあげるけれど、
今回八股狸に憑かれているのは――君自身だよ」
「………はあ?」
忍野の言葉に、僕は首をかしげる。
「じゃあ、僕が八股狸を呼び寄せたってことかよ。
だってそれじゃ、僕が戦場ヶ原以外の女の人といちゃいちゃしたいとか思ったから、八股狸が来たってわけだろ?
忍野、専門家の意見を否定するのは心苦しいけれど、そんなわけないぜ」
そりゃあ、勿論好意を持ってはいるけれど。
ファイヤーシスターズは妹として。
八九寺や神原は友達として。
千石は妹的存在として。
羽川は命の恩人として。
忍は相棒であり、自らの罪として。
あくまで僕が恋愛感情を持ってして愛していると言えるのは、戦場ヶ原だけだ。
「そういう小っ恥ずかしい台詞はさ、僕じゃなくて、ツンデレちゃんに直接言ってあげなよ」
「断る」
昔の戦場ヶ原に言っても当然あれだったけれど、
今のドロドロな戦場ヶ原にこんなことを言ったら、
原形を留めなくなるかもしれなくて怖い。
「クソ阿良々木くんのクソみたいなクソのろけはおいてといて、
だから言っただろ、八股狸は特殊なんだ。
さっきちらっとそれっぽいニュアンスは出したんだけれど――」
「おい、忍野。言葉遣い言葉遣い」
気をつけろよな。
お前までおかしくなったのかと不安になるから。
忍野はそんな僕の忠告に反応もせず、続けた。
「八股狸は憑かれる怪異じゃなくて――憑かされる怪異だぜ?」
つまり。
八股狸とは、本人の意思に関係なく、
条件が揃えば無条件で、八人の異性によって憑かされてしまう怪異らしい。
その効果は単純で、件の八人の異性の中の好意のメーターを爆発的に跳ね上げて、
強制的に八股状態を生みだそうとするというもののようだ。
ファイヤーシスターズの色仕掛けも。
八九寺真宵の弱音の吐露も。
戦場ヶ原――はいつもとあんまり変わらなかったけど。
神原駿河の唐突な羞恥心も。
千石撫子の異様な病み方も。
羽川翼のブラック羽川解放も。
忍野忍の大胆発言も、すべて。
「僕の中にいる怪異が原因ってことか」
「怪異が原因とか怪異の仕業とか、そういう言い方は好きじゃないけれどね」
「怪異はただ――そこにあるだけ」
「そう。だってさ、そもそも八股狸は彼女らの感情を振り切らせているだけなんだから、
さすがにそこまで過激ではなくとも、
彼女らが似たような願望を持っている可能性は否定できないんだぜ?」
勘弁してくれ。
八九寺、神原、忍辺りは可愛かったけれど、
ファイヤーシスターズと千石と羽川は割と洒落になっていない。
「とりあえず、八股狸のことは分かった。
分かった上で、忍野。こいつは一体どうすれば祓えるんだ?」
「まったく気が早いよ。相変わらず阿良々木くんは元気がいいなあ。
何かいいことでもあったのかい?」
早くねえ、むしろ遅いくらいだ。
こっちはマジで千石に殺されかけてんだよ。
「ま、八股狸自体は非常にマイナーな怪異だし、ランクも下級中の下級だ。
祓い方は今までに類を見ないくらいに簡単だよ」
忍野は、くあ、と欠伸をしたような気配をスピーカーの向こうで漂わせ、続けた。
「狸ってのはさ、実は物凄く臆病な動物なんだよね。
狸寝入りってそもそも、当たってもいない猟銃の音にびっくりして気絶しちゃう狸の習性から出来た言葉だし」
「………それがどうしたって言うんだよ」
「うん? つまり、狸の怪異は得てして祓いやすいってことだよ、阿良々木くん。
どんな大物の怪異だろうと、相手が狸なら大抵この方法でなんとかなる」
そんな方法があるのなら早く教えて欲しかった。
勿体振るのが好きなやつだ。
「で、その方法って?」
「阿良々木くん、さすがにカチカチ山の狸さんの話は知ってるかい?」
「そら、知ってるけれど……」
「うん。だから、そういうことだよ」
カチカチ山の狸?
あれってええと、どんな話だっけ。
確か老婆を殺した狸を成敗するために、兎が狸の背負った薪に――。
!
「お……おい、忍野、まさか……!」
「さっきのおみつ狸の話でも言っただろ?」
おみつ狸。
炙ったら正体を見せた化け狸。
「八股狸を祓う方法は――火炙りだよ」
はっはー、狸は火に弱いんだ、と心底楽しそうに笑う。
「う、嘘だろ!?」
「えらくマジさ。
阿良々木くん、忍ちゃんに血をやったのは十日前だって?
よかったじゃないか、それなら丁度、
大火傷くらいなら一瞬で治るくらいの回復能力だろ」
待て。
待てよ。
火炙りだって?
「あ、そうそう。
この方法はさ、予めこっちのキメ顔ちゃんには教えておいたから、
この子を通して影縫ちゃんにも伝わってると思うよ。
確かこの子たち、テレパシーみたいなことできるんだろ?
影縫ちゃんは、あれはあれでなかなかいい子だから……
はっはー――そろそろ、準備が整った頃じゃないかな」
がこん、という物音に振り返ると。
「あ、鬼畜なお兄やん。忍野くんとの電話は終わったん?」
教室の入り口で、灯油を入れた赤いポリタンクと、
山ほどの100円ライターを抱えた、影縫さんが――。
「ほな、始めよか」
にっこりと、笑った。
「ちょ、ま………やめ、嘘だろ、なあ、忍野っ!
うわ、灯油くさっ……待っ……タンマ、影縫さん、タン……………
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
009
後日談というか、今回のオチ。
翌日、いつものように二人の妹、火憐と月火に叩き起こされた僕は、
ファイヤーシスターズがどうやらいつも通りであり、
昨日の記憶がぼんやりしているといぶかしむ様子を見て安心すると学校に行き、
同じように自らの記憶の欠如を訴える羽川には、
ブラック羽川が現れたけれどそれは羽川のせいではなく僕の憑かれた怪異のせいであることを説明し、
「物凄い回転でコンクリートの地面にぶつけたみたいに後頭部が痛いんだけど、
もしかして阿良々木くん何か知らない?」
と言う羽川はやっぱり怖すぎると思いつつなんとか誤魔化して、
放課後、家に寄っていかないかという旨のキュン場ヶ原さんの必死の誘いを泣く泣く断ると、
昨日の忍との約束通り、ミスタードーナツにやってきていた。
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